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第三話 異世界で憧れたヒーロー ドラゴンと魔族3 

日が変わった12時過ぎにもう一話投稿しようと思います。

「て、哲多君かい?」


「ええ、大丈夫っすか涼貴さん。」


 見慣れた後姿に確認を込めて哲多の名前を呼んだ。リュウレンレッド姿の哲多は、巨大な甲虫の方を油断無く見ながら涼貴の問いに答える。


「痛ってぇな。ってテメェは誰だ?」


「なっ!?」


 涼貴は驚く。巨大な甲虫の体に、フレイムハンマーで殴られた筈の痕が無かったのだ。リュウレンジャーは元々子供用の玩具として開発されており、威力が大したことが無かったと言われればそれまでだが、少なくとも木々を圧し折り遥か後方へと吹き飛ばすだけの威力はあった筈なのだ。


 巨大な甲虫は悪態を吐きながら起き上る。見慣れない哲多に向かって誰何するが、哲多も甲虫にダメージがない事に驚き黙っていた。


「まぁ、誰でもいいか。とっとと死にな。」


「くっ、涼貴さんは隠れてて!!」


 甲虫は哲多に狙いを変えたのか、一直線に哲多に向かって飛んできた。哲多は甲虫を向かい打つため、フレイムハンマーを構えながら甲虫の方へと跳んだ。


 急激に縮まる距離。哲多が振り上げたハンマーを振り下ろそうとするも、甲虫は体を斜めに傾げてハンマーをやり過ごすと、真横から哲多に向かって飛んだ。


 威力を高める為、思いっきり振り下ろしていたハンマーが目標を失った為地面に向かって振り下ろされた。


 余りの威力に地面が陥没し、大地を揺らす。威力はすごいが、勢いが付きすぎて、途中で止められなかった為、哲多は甲虫の体当たりを横腹に受けてしまった。


「ぐっ!!」


 甲虫も飛行距離が無かった為大した威力になっておらず、だが質量があった為、ヒーロースーツが受け流せる衝撃を超えており、スーツを抜けてきた衝撃に哲多は呻いた。


「哲多君!!」


 そんな哲多の様子に思わず叫び声を上げてしまう。涼貴は視線を自身の嵌めるバックルに移す。バックルは正面のパーツが破損しており、龍玉を曝け出していた。その龍玉の一部が壊れている。


 ナノマシンを制御する場所であり、あくまでギミックの一つでしかない正面パーツよりもより深刻であった。この部分が壊れてしまっていることでリュウレングリーンに変身できないのだから。


 少なくともリュウレングリーンに変身できていればオオカミが身代わりになることも無かったのに。


「がんばれ、リュウレンレッド。」


 そんな思いに俯いていた顔を上げれば、目の前には赤いヒーローの姿。幼い頃に幻想を抱いていた姿に思わず声援を送る。小さく呟く様に言葉を出した涼貴はただ応援することしかできない自分に愕然としていた。


「おう、任せてくれ!!」


 だが、呟くような小さな声援だったが、聞こえていたのか苦戦している哲多は涼貴の方を向いて答えてきた。


 思わず顔を上げる涼貴。思いっきり振り下ろせば避けられ、小さく振るえばその頑丈な鎧に阻まれる。打つ手がない状態にも係わらず、哲多は涼貴の言葉に反応して、未だに諦めずに戦っているのだ。


 ああ、まるでヒーローのようだ。


 涼貴は哲多の事を嫌っていた。いや、嫌いは言い過ぎか。だが苦手としていたのは確かであった。年が下であることを除いても、やや中二病のきらいというか、出来ない事でも挑戦しようとする精神に諦めない心。


 ヒーローに憧れ、リュウレンジャーに選ばれた時も大喜びしていた哲多は眩しかったのだ。


 困っている人がいれば真っ先に飛び出していくし、誰かが落ち込んでいたら励ましに行く。


 世間にというか、現実に染まったというか。涼貴にはできない事であった。


 そんな哲多がリーダ色に選ばれるのも当然で。今異世界で異形の怪物と戦っている哲多を本物のヒーローの様に思えてきたのだ。


「俺も、戦えたらなぁ。」


「…その腕輪を直せばいいのか?」


「っ!?」


 思わず呟いた願望に言葉が返され驚く。言葉が発せられた方を向くと、瀕死のオオカミが片目を涼貴に向けていた。ヒューヒューと荒い息を吐きながら涼貴を真っ直ぐ見てくる。


「ああ、だが、直せるのか?」


「あ奴の腕輪も魔力で直されているようだぞ。」


 オオカミの様子に痛ましくなる。だが、助けられた自分がそんな顔をしていればオオカミも浮かばれないだろうと思い、出来るだけ普通に返事をしようとするも、鼻の奥に痛みが走り、途切れ途切れになってしまった。


 異世界の玩具をオオカミが直せるとは思わないが、一応問いかけると、哲多の腕輪も誰かに直されたという驚愕の言葉が返ってきた。


「直してやる。」


「本当か!?」


「ああ、だから息子を頼んだぞ。」


 どう言う意味だと続けようとした言葉を飲み込んだ。オオカミの体が光に包まれ変身バックルに吸い込まれていくではないか。そして光が吸い込まれて行く度にオオカミの体も薄くなっていく。


「クーン…。」


「っ!?」


 涼貴に抱かれている子犬が悲しげに鳴いた。その鳴き声に思わず茫然となっていた意識が戻る。すでにオオカミは何処にもその姿が無く。ただ元通りになったバックルだけが涼貴の腕に嵌っていた。


「ぐわっ…!!」


 甲虫の攻撃を喰らってしまったのかリュウレンレッドが、涼貴の足元まで滑り込んでくる。


「あ~あ、そんなもん庇う価値なんか無ぇだろ。」


「おい。」


「あん?」


「お前は許さん。」


 甲虫の言葉に涼貴は立ち上がる。猟師として日々命と向き合う仕事をしている涼貴は、ましてや庇ってくれたオオカミを愚弄する魔族を、涼貴は許すことが出来なかった。


 左腕を肘から曲げて、顔の前に真直ぐ立てる。拳は顔の方へと向けて、手首に巻いたバックルが甲虫へと良く見える様に掲げた。甲虫側に向けた龍玉を右斜め上から隠す真っ白な羽を正面に来るようにして右手で内側の摘みを掴んだ。


「流水っ!!」


 倒された木々の下、ちょっとした広場になっている所で張りの良い声が響いた。


 掛け声と共に、摘みを押しこんだことでギミックが作動する。右斜め上に開かれた羽の中から虹色に輝く龍玉が姿を現す。


 龍玉から溢れた光が涼貴の体を包み込む。医療用のナノマシンを使用し、組み込まれたギミックを作動させると、収納されていたナノマシンが体の周りに放出されそれがゴム質な何かに変質する。


 ナノマシン自体には複雑なプログラムを組む事は出来なくとも、磁力の影響を受けることは出来る為、ギミックを作動させた時にバックル側で操作することが出来るのだ。


 電気の代わりに魔力によって動かされたナノマシンは涼貴の鋭いと表現する肉体を緑色のゴム質な何かで覆った。肩、胸、腕、足と焦茶色で覆われていき、髭は短く頭頂部に向かって伸びる一本の角が特徴の深緑の龍の顔を模したヘルメットが涼貴の頭を覆った。


「な、何もんだお前ら!?」


 いきなり涼貴の姿が変わったことに驚いて、再び誰何してくる甲虫に向かって涼貴は特定の決められた動きをする。それは変身後の決めポーズであり、怒りによって荒ぶる心を収めようと咄嗟に取った行動であった。


「木々と命の伝説、リュウレングリーン。」


 思わずクールに名乗った涼貴に哲多が追随してくる。変身後の決めポーズを態々涼貴の隣でし直して。


「鉄と火の伝説、リュウレンレッド。」


 熱く熱く高らかに名乗った。


『伝説が重なり今此処に。連楽戦隊リュウレンジャー』


 二人の声が重なり、ビリビリと空気が震える。


「さぁ、伝説の物語の第二章だ。」


 リュウレングリーンは甲虫に指を突き付け、開幕の合図を出したのだった。


「へへ…、行くぜ!!」


「っ!?返り討ちだ!!」


 哲多が、リュウレンレッドが最初と同じように飛び出す。巨大な甲虫は機先を制すされ慌てるも、自身の小回り速度と防御力の前には無意味だと前へと飛んだ。


 リュウレンレッドはフレイムハンマーを大振りに振るう。一切の手加減等要らないというかのような振り下ろしは、炎を撒き散らしながら甲虫へと迫った。


さっきと同じじゃねぇか!!」


「本当にそうか?」


「っ!?…ぐっ!!」


 当然そんな大振りの攻撃が当たる様になった訳ではなく、甲虫は余裕をもって回避する。一方的に甚振ることが出来たさっきと同じ攻撃に有頂天になる甲虫であったが、哲多の様子は慌てている物ではなく、驚きを露わにした瞬間、体に鋭い痛みが走り、呻き声を上げてしまった。


「流激装備、ウインドシュート。」


 攻撃が放たれた場所に視線をやると膝立ちになり、取っ手の付いた筒の様な物を構える涼貴が居た。


 リュウレングリーンの専用装備は所謂猟銃だ。発射口が一つしかない江戸時代から使われていた種子島によく似た形の木で出来たスナイパーライフルである。木と言うが実際はナノマシンで構成されており見た目以上の強度を誇っている。


 弾は設定上では風を物理的に触れる程に圧縮して放つのだが、それを再現出来なかった為、舞台上ではナノマシンが弾の代わりをしていた。


 このナノマシンにはあるプログラムが加えられており、ナノマシンに当たった場合、そのナノマシンを巻き込んで後ろに下がれというものだ。


 怪人のスーツも、リュウレンジャーのスーツもナノマシン構成の為、ナノマシンが当たっても後ろに強制的に下げられるだけで済む。そのお蔭で、視界の悪い怪人スーツでもリュウレングリーンの攻撃を喰らったのだという演技が出来ていた。


 だが、今リュウレングリーンの放った銃弾は設定上の物と同じ、物理的に触れる程圧縮された風の弾丸であった。ナノマシンを操作する為のプログラムが呪文の代わりをして魔力が魔法となった為であった。


 その事に一番驚いているのは弾を放った当の本人リュウレングリーンのスーツ内の涼貴である。


「ぐお、なんで防げねぇ!!」


「隙だらけだぞ。」


 驚きつつも銃を手にし、獲物に狙いを付けた涼貴は常に冷静だ。猟師である涼貴は下手に騒いだり、冷静でなければ思わぬ怪我をすることを身を持って知っていたからだ。


 自身の防御力を訳もなく抜いてくる摩訶不思議な筒を見て騒ぐ甲虫であったが、その姿は涼貴には隙だらけに見える。


 確かに外側の堅い部分には猟銃は効かないだろう。威力だけならリュウレンレッドの持つフレイムハンマーこそが一番高い。そのハンマーの攻撃に晒され、一切のダメージが入っていなかった事を思えば、涼貴の持つウッドスナイパーでは気にする必要も無い。


 だが、羽を広げ高速で動かし飛んでいる現状では、柔らかい肉が顔を覗かせている。


 フレイムハンマーのような大型の武器ではその場所は狙えないだろうが、涼貴の持つ猟銃なら簡単に狙えたのだ。


 高速で動かされる堅い外側を避けて内側に中てるには相当な技量が要求されるが、スーツの内に籠った魔力が涼貴の肉体を強化しており、その中には視力、それも動体視力も強化されており、羽がゆっくりと上下する様に涼貴には見えていたのだ。


「ぐおっ!!」


「今だっ!!」


 又も涼貴の放った銃弾が一発二発と肉に突き刺さり、その衝撃で腹を上にして地面に落ちた甲虫。


 涼貴が合図を大声で出す。甲虫の視線は青空を見せられ、そういえばもう一人居た赤い奴は何処に居たと、リュウレンレッドの存在を思い出した瞬間、その青空の中にポツンと赤が混じる。空高く飛び上がったリュウレンレッドであり、その手は更に高く振り上げられている。


「フレイムハンマー!!」


「グゥアハっ!!」


 重力すら味方に付けたその一撃は、今までの中で一番の威力を叩きだし、甲虫の背中側と比べて柔らかい腹に打ち据えられる。


 衝撃が地面にも伝わり、砂埃がリュウレンレッドと甲虫の姿を覆い隠した。直ぐにリュウレンレッドは跳び出してきて、リュウレングリーンの横に並び立つ。


「クキャー!!」


「うお、チビっ!!」


 そんなリュウレンレッドの顔に隠れていたチビがベチャーと覆いかぶさる。驚く哲多であったが犯人が誰か解った哲多は、叱る様に名前を呼びながら、首の辺りを猫を掴むようにしてチビを引きはがす。


「くーん…。」


「うん、お前も無事だったか。」


 涼貴の足にも隠れていた子犬が甘えるように擦り寄ってきた。その事に気付いた涼貴は、未だ晴れない砂埃の方を警戒しながら子犬を抱き上げた。


「俺、は、かっけぇ!!」


 瞬間何事か叫びながら砂埃の中から筋骨隆々の魔族の男が飛び出してくる。その衝撃で砂埃は払われて薙ぎ倒された木々の真ん中にすり鉢状の大穴が見えるようになった。


「ふむ、まだ倒れんとはな。」


「ふんっ!!今日は見逃してやるよ。」


 冷静に見ていた涼貴は宙に浮かぶ魔族の男に向かってウッドスナイパーを構える。だが、魔族の男は何処までも上から目線で宣言し、腕を空に向かって掲げた。その腕を中心にして魔力が広がり、その魔力が魔法陣を描く。


「お前は、俺の獲物だ。こいつらに倒されんなよ。」


「っ!!」


 魔族の男は涼貴を自身の獲物と定めたのか、殺気の籠った愉悦を含む声を出し、狂気の笑みを貼り付け涼貴に宣言した。


 一瞬、その狂気に体を硬直させるも、直ぐに魔族の男は飛び去ってしまい、体の硬直は解ける。


 逃がせば不味い事が分かるが、追いたくても魔族の男が置いて行った置き土産。魔法陣から召喚された十匹近い巨大なカナブンが哲多と涼貴に迫ってきていたのだ。


「ああ、めんどくさかった。」


「数の力か…。」


 魔族の男が変貌した巨大な甲虫と比べれば遥かに弱く、一撃一撃を確りと中てれば一撃で落とせるものの、チビや子犬すら狙ってくるカナブンは厄介な相手であった。


 疲れた様子で変身を解いて地面に座り込む哲多が吐いた言葉に、同じく変身を解いた涼貴が考えるように顎に手を置いてポツリともらした。


「…これから如何します?」


「そうだな。先ずは水だな。」


 落ち着いてきたのか哲多がこれから如何すればいいか涼貴に聞く。その頭上にはチビがここが自分の位置だと主張するかのように寝そべる様に乗っかっていた。


 涼貴は生きる為に必要な物を脳内でピックアップしていく。サバイバルの知識から先ずは水の確保が先だと思いついた。


「水って、この先に海が見えましたけど…。」


「ふむ、なら先ずはそこを目指そうか。」


 哲多が山の中腹辺りから見渡した時、今いる場所の先に海が見えた事を告げる。よくよく耳を澄ませば、微かに波の寄せては返す音が聞こえる。涼貴は目印となる音が鳴るその場所を目指す事にしたのだった。

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