プロローグ
ハーメルン様で様子を窺っていた小説を改稿して、こちらに移そうと思います。
ストックがある内は出来るだけ毎日投稿を心がけますが、無くなれば一週間に一度ペースになるかもしれません。
左腕を肘から曲げて、顔の前に真直ぐ立てる。拳は顔の方へと向けて、手首に巻いたバックルが観客へと良く見える様に掲げた。観客側に向けた龍の顔が正面に来るようにして右手で内側の摘みを掴んだ。
「流水っ!!」
青空の下、元々公園の駐車場だった場所に増設された舞台の上で張りの良い声が響いた。
掛け声と共に、摘みを押しこんだことでギミックが作動する。龍の顔が中心のガラス玉を銜え込んだ。
赤野 哲多の体を光が包み込む。照明でそういう演出をしている訳ではなく、今現在の玩具というのはそういう物であった。
医療用のナノマシンを使用し、組み込まれたギミックを作動させると、収納されていたナノマシンが体の周りに放出され、それがゴム質な何かに変質する。
ナノマシン自体には複雑なプログラムを組む事は出来なくとも、磁力の影響を受ける事は出来る為、ギミックを作動させた時にバックル側で操作することが出来るのだ。
真紅なゴム質な何かに包まれた哲多の、肩、胸、腕、腰、足と鈍い鉄色で覆われていく。最後に髭が頬を通って後方へと流れる真紅の龍の顔を模したヘルメットが哲多の頭を覆った。
「鉄と火の伝説、リュウレンレッド。」
哲多は観客側、正面を向いて名乗りを上げた。横では哲多と同じように黒、青、緑、黄の姿があった。
「夜と星の伝説、リュウレンブラック。」
天体観測所に勤める黒屋 真由美の豊満な肉体も同じく黒色のゴム質な何かで覆われる。肩、胸、腕、足と白っぽい銀色で覆われていき、髭が左右と斜め左右、頭頂部に鰭の様なものがある漆黒の龍の顔を模したヘルメットが最後に真由美の頭を覆った。
「海と空の伝説、リュウレンブルー。」
ライフセーバーをやっている青海 空の女性的ではあるが引き締められた肉体を青色のゴム質な何かで覆われていく。肩、胸、腕、足と青よりも深い色合いの群青色で覆われていき、左右に伸びた鰭のような幅広の髭が特徴の空色の龍の顔を模したヘルメットが空の頭を覆った。
「木々と命の伝説、リュウレングリーン。」
猟師をやっている深森 涼貴の鋭いと表現する肉体を、緑色のゴム質な何かが覆った。肩、胸、腕、足と焦茶色で覆われていき、髭は短く頭頂部に向かって伸びる一本の角が特徴の深緑の龍の顔を模したヘルメットが涼貴の頭を覆った。
「大地と力の伝説、リュウレンイエロー。」
農業と自分の土地で採れた野菜を提供している店を営んでいる黄広 大地のガッチリした肉体を黄色いゴム質な何かが覆っていく。肩、胸、腕、足と橙色で覆われていき、左右に広がる数本の猫の様な髭を持つ黄土色の龍の顔を模したヘルメットが大地の頭を覆った。
『伝説が重なり今此処に。連楽戦隊リュウレンジャー』
それぞれが名乗りを上げ、声を重ねてポーズを決めた。其々が名乗りを上げた時よりも盛り上がり、観客席の一番前に陣取る子供達の悲鳴にも似た興奮を混ぜた歓声が上がる。
「さぁ、伝説の物語の始まりだっ!!」
哲多は敵役の怪人に向かって指を突き付け、決め台詞を高らかに宣言する。マイクによって拾われた音は、子供達の声援に負けない音を発し、会場中に響いた。
流連市という市が新しく生まれた。元々五つの市町村であった其処は、都市部への人の流出、子供の減少等に歯止めを掛ける為、行財政基盤強化の為に合併が決まった。
元々、この五つの市町村は一つの人口河で繋がっていた。そこで、その人口河から名前を取って流連市と名付けられたのだ。
流連市は今までよりも遥かに安定した行財政基盤による人を呼び込む為の政策を始めた。と言っても、昔からあるものを使ってまずは観光客を呼び込む事にしたのだ。
流連市を知って貰わなければ移住してきても、すぐにまた都市部に戻ってしまう。それを防ぐ為に最初に流連市を知って貰うことにしたのだ。
上流にある天文台から、最下流部は田舎だけあって透き通るような綺麗な海が広がる。中流域は元々金属加工技術が発達しており、彫金等で小物のお土産を作っていた。其処より上流側には田畑が広がっており、健康ブームによる新鮮野菜の紹介に力を入れていた。
しかし、まだまだ観光業としては弱く、目玉商品となるものを求めて、合併を機に今世間で流行っているご当地ヒーローを作ったのだった。
原作者は流連市出身のそこそこ有名な特撮専門の監督に。名前は市の名前。ヒーローのモデルは河ということから、昔から河は龍に例えられた事から龍に。河がモデルなので、敵は河を汚そうとするゴミ等に決まった。
新しい形にする為にそれなりの予算を掛けて、医療用のナノマシンを利用した本当に変身できる変身グッズ等まで作り出した。
俳優等は使わずに、元々の市町村から名前に色や口上に関係したものを持つ10代後半から20代前半の若者を公募して演技指導もした。CMもローカルだけではなく全国区で流し宣伝に力を入れた。
そのお蔭か、子供達だけではなく親もカメラを構えて舞台を見ている。子供への玩具としても親の趣味だとしても一定の売り上げは期待できるものだった。
「がんばれー、リュウレンジャーっ!!……っあ!?」
一人の子供が、舞台に立つヒーローに声援を送った。瞬間、彼が被っていた野球帽が風に飛ばされる。
少年が飛ばされた帽子を追っかけ振り向いた時、後方に真っ黒な柱が見えた。
「なんだあれっ!?」
思わず大声で指を指した子供に釣られ、舞台に立つ哲多達も、後方で見ていた親達もそれに気付く。
「おい、こっちに来るぞ!!」
誰かが発した言葉は瞬間、悲鳴に掻き消される。巨大な土やゴミ等を巻き上げた巨大な竜巻が会場を直撃したのだった。
「っ!?…えっ?」
哲多は思わず間抜けな声を出していた。哲多はセリフを言う為に客席の方を向いていた為、この場に居る者の中で唯一、竜巻ができる瞬間を目撃したのだ。
竜巻ができる瞬間、まるで巨大な手に追いかけられる様なドラゴンを見たのだ。よく風や雷を東洋の龍に例えられるが、どう見てもあれは西洋竜。所謂ドラゴンに見えたのだ。
蛇の様な胴体ではなく、ズングリムックリとした短い胴体。蛇というよりも蜥蜴の様な。それでいて蝙蝠の様な羽を持つ生き物であった。太い丸太の様な足の間から短い尻尾が垂れ下がり、胴体に比べて短い前足の一つには巨大なビー玉の様なものが握られていた。
そのドラゴンが首を伸ばして、ちょっとでも上へと空を駆け上がって行くのを追いかけて真っ黒い禍々しい手が通り過ぎた瞬間、竜巻が現れたのだ。
「っ!?…皆、助けるぞっ!!」
呆けていた哲多は、竜巻に巻き上げられまいとして、木々や車、横倒しになったテントの支柱にしがみ付く人々の悲鳴で我に返った。
正義感が強く、熱い性格をしている哲多に取って、自身が正義のヒーローをやっているとか等どうでもよかった。ただ目の前に困っている人がおり、自身が助ける力を持っているのならばただ手を差し出す。その心情がこの状況に対して反応してしまったのであった。
周りにそう声を掛け、一番に舞台から飛び降りた哲多を追いかけ、他の四人も慌てて舞台から飛び降りる。
哲多の様な性格をしていない四人であったが、ヒーロースーツは元々医療用であったとしても、災害救助用としても開発されたものであった為、この様な事態に対処できる事が事前に教えられていたから、臆さずに飛び出す事が出来た。
「…早く避難所に!!」
哲多達、ヒーロースーツを纏った五人によって竜巻の影響化から運び出された人々を見送って、最後にもう人が取り残されていないか振り返った哲多はまたも呆ける事態になった。
またもドラゴンの幻影が見えたのだ。そのドラゴンは空中で一回転すると方向を変え、哲多達の方へと向かってきたのだ。当然、黒い手もそのドラゴンを追いかけて哲多達の方へと向かってくる。
「なっ、竜巻がっ!!」
誰が発した言葉であっただろうか…。その叫び声を最後に哲多達五人は竜巻に飲み込まれ、空へと舞いあげられる。哲多達は錐揉みする視界に三半規管をやられ、幾ら医療用ナノマシンだと言えど、その治療速度を超えてしまった為に意識を失う事となった。
『今日午後二時頃、流連市中心部にて巨大な竜巻が発生しました。当時そこではご当地ヒーローショウが開催されており、多数の人が竜巻に巻き込まれましたが、ご当地ヒーロー達五人によって助け出され、怪我人等は居りません。また、竜巻に巻き込まれたご当地ヒーロー五人が行方不明ですが、このご当地ヒーロー達は新開発された災害救助用の特性スーツを着ていた為、何処かで生存している可能性が多いにあります。警察、自衛隊が多数の人員を持って懸命に捜索活動を行っておりますが未だ見つかっていないと言うことです。』
夕方のテレビに、心配する人達の前で現状が伝えられる。まだ警察も消防も捜索活動中であり、詳しい事は何も判っていないのか、内容は短くあっさりしたものが、ほんの僅かな時間流れただけであった。
感想、誤字脱字、評価、挿絵。感想は批判でも甘んじて受けますので、如何か宜しくお願いします。
感想返しは、リアルの時間の都合上、全部返せるとは言えませんが、必ず目は通しますので、面白い、期待できると思った方はドシドシお書きください。