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『芋ケンピ』を両親が貰ってきたので世界を救ってくる  作者: 鴉野 兄貴
芋ケンピを両親が貰ってきたので世界を救ってくる
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世紀末テスト

「今日恐怖の期末テストなんですよっ!!!! なんか、なんか、なんか!パニーックッ!!!!(´;ω;`)」


 佐倉家は相変わらず平和である。

「期末テストかぁ」


 いつも通り家を出た佐倉サチと兄であったが。

 佐倉サチは先日の英語検定の面接官の謎の笑みと言葉に困惑していた。


 ニコニコ笑う面接官いわく。

「いや、君があまりにも可愛いから微笑んでしまったよ」

 戸惑いつつとりあえず謝意を述べるサチ。

 にやりと厭らしい笑みを浮かべた面接官は無言で一枚の紙を差し出した。

『どーせ男という名前のクソ虫に惚れられるなら、多少面白みがなくても真面目で家にカネ入れて健康な男のほうがいいぞ。 by鴉野』


 サチは黙り込む。

 まさか。まさか。

「続編なんですか~~?! 鴉野さんッ?! いい加減にしなさ~~いっ!!!」

 い や だ ね 。(ヒュー)



「と。言うことがあったの」

「悲惨だな」


 冬空を歩く兄妹。

 兄もまた迷惑な友人の被害者だったりする。

 『兄上を元気づけるため』と称して二作も書かれた。

 最大の被害者は地味に二人の父である。

 多くは学校や職場で吹聴するとロクなことにならない体験の数々だ。

 間違っても知り合いに自分たちが小説の主人公になっているとかいえない。

 悪目立ちにもほどがあるというものだ。

「まー面白かったけど」

「あの経験をして『面白い』なんてよく言えるよね。お兄ちゃん」

 芋ケンピの大袋ひとつもって異世界に飛ばされた自分も大概だが、兄の経験は悲惨すぎる。

「大丈夫大丈夫」

「なに?」

 兄は無言で一枚の紙を差し出した。


「『サチを頼む』 父 母」

「……」


 冬の風が兄妹の間を横切った。

 ほのかに焼き芋の香りも混じっていたが。

「今度はナニをさせるつもりなんだろう」

「あはは」

 苦悩するサチに対して兄は余裕がある。


「テスト開始だ」


 唐突に声をかけられ、兄妹は振り向き同時に挨拶。

「あ。怖い顔の男さん。こんにちは」「こんにちは」


 兄はニコリと微笑んで続ける。

「愛想のいい男さん。こんにちは」

「いけねぇいけねぇ。俺のアイデンティティが崩れる」

 知り合いであった。


 彼の足元では目玉が小説の朗読をしていたり、耳が連れ立ってラインダンスを踊っているが、いい加減慣れた二人は今更驚くことはない。この男の周りはこういうものなのだ。

 臓腑が自ら飛翔して骨と投げ縄遊びをしているが、見慣れている医大生の佐倉兄は軽く流した。

「テストって何ですか」

「世紀末テストだ」

 なにそれ。


「世界が滅亡しても生き残ることが出来る生活力を得るためのテストだ。今日は容赦しないぜっ」


 この男、顔は怖いがお節介で優しいところが多々ある。多くは迷惑であるが。

 そんな男にサチは苦笑いして告げた。

「今から期末テストを受けに学校に行くの」

「世紀末テストを受けるというからわざわざ出てきたのに」


 サチは忍耐強く、しかし少し興奮気味に彼をしかりつける。

「期末テスト。き、ま、つ、てすとだって!」

「世紀末テストで良いじゃないか」ダメだ。話が通じない。

 そこに兄が口をはさむ。


「世界が滅びても今の僕等には期末テストのほうが重要なんだ」

「そうなのか」


「だよね。サチ」


 兄は軽くウインクをしてみせた。


「そーだな。世紀末テストを受けないように、期末テストを頑張るのはいいことだな」


 そう一人ごちる『怖い顔の男』。

 本来悪夢担当の夢魔らしいのだがどうにも悪夢を見せられない困った夢魔である。顔や周辺環境はさておき、結構いいヒトなのでサチは気に入っているのだが。


「ところで。俺と遊んでいて大丈夫なのか?」

「はい?」


 怖い顔の男に指摘されて背中から冷や汗を流すサチ。

「もしかして、今回『禁じ手』ですか」

「うん」


 顔に似合わず可愛く首を傾げてみせる『怖い顔の男』。

「みたいだよ。サチ。ぼくもこれから医大に向かうけど」

 頷く男二人。


「遅刻させるには忍びないし、知らせに来た」


 堂々と胸を張る残念な夢魔を無視してサチは瞳を見開いた。

 ここに兄はさておき夢魔がいるということは当然ながら。


 目を開いた彼女の瞳に映るのはよく見知った自らの寝室なわけで。

 日はとっくのうちに昇っているわけで。

 それは何を意味するかというと。

「夢オチなんて創作の世界では禁じ手じゃないですかああッッ」


 サチは大急ぎで学校に行く準備を整えるのであった。

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