魔法少女になれそうにない10 あめのちはれてマジカルガール
ふわり。ふわり。
どこからか聴こえる歌声にあわせて鼻歌。
やさしく湯気が膨らんであっちっち。
おたま片手にちょっと味見。
「うん。味噌汁は極めた」
久々登場美紗斗嬢。
最近一人暮らしに挑戦中。
「うん。出汁の具合が絶妙だし温度もちょうど。ずごいよみさとちゃん」
「うむ」
なんか余計なのもいる。
所謂魔法少女のサポートキャラだがそんなものは要らない。ねこのえである。
「はいSANちぇっく~~」
「うわまじゆるさん」
「ねこのえさん外道!」
「もうショットガン持つ」
TRPGのマスターもやってくれる。
On-lineTRPG女子会でポテトチップスが飛ぶ。今じゃがいもは高いので辞めましょう。
でもやっぱりコレ一人暮らしにならないので実家にいてもらっていいかな。
「みさとちゃんは一人暮らしができるフレンズだ!」
「すっごいねー^^ ……じゃない。からかわないの」
そんなわけで一人暮らしが始まった。
思えばあいつとは中学生以来の付き合いだな。高校かも。こうしてひとりだと思うところが。
「……」
寝台に転がってなんとなくぼーっとしてみる。
タイマーがあるので少し料理から目を離しても大丈夫。小うるさい他人がいないのは楽しいが何か物足りなくてちょっとSNSを除いてみると知り合いがまた何かやっている。
『このやろー! SNSブロックしてやる!』
『このやろー! SNSブロックがえしだ!』
おまえら仲いいだろ。
にっと笑って寝台から跳ね起き、ちゃっちゃとお弁当を仕込んでいく。今日は100円で美味しいコマ肉が手に入ったので片栗粉で固めてごぼうを中に入れて漫画肉にしてやろう。油揚げも使ってヘルシー。
勿論on-lineTRPG中に画像アップして飯テロしてやる予定だ。
「これは……SANチェックね」
「なんでだ!」
こんな感じで美紗斗は今日も普通に生きている。
「いや、本当に美紗斗ちゃんは出来る子」
「SANチェックは冗談だよ! 本当においしそう」
そうだろうそうだろう。画像を見て実家にのこしてきたねこのえたちがほめてくれた。
「がんばってもう一年魔法少女」
「ぬっころすぞ」
はたちすぎたっていってるだろ。
もう大人の女性になにをぬかすか。
日本国東京都に暮らす普通の女の子美紗斗は魔法少女である。日本語ならば支障があるがマジカルガールなら今のところ問題はない。
「いくぞ」
「おう」
テーブル側にはもう一人の美紗斗。
彼女の魔法で作った氷人形である。
見た目はおろか体温まで本人と同じで記憶も共有できるため二人分の経験があっという間に手に入る。
テーブル側で下ごしらえ。
電子調理台前で本仕込み。
「あ~~おいしい」「おまえまじゆるさん」
調理器具が冷たくなる前に片付け中の隙をついてできた料理を食べてしまう氷人形。
「美味しさは二倍だよ!」
「だがゆるさん!」
食べた記憶は共有できる。
でも許せん記憶も共有なのでやっぱり喧嘩する。
「くっそあつい。溶ける。ばいばーい! またね!」
片付けを本体に任せて逃亡を図る氷人形を捕まえる。魔法少女二人が暴れたら一人で片付けは出来ないので当然の措置である。
片付けが済んだらゴミを出しに行く。
なんでも一人でやらなければならない。
だからこそ大変。だからこそ気楽な一人暮らし。
「そういえば」
ねこのえ元気かな。絵だから風邪は引かないだろうけど。今日は美紗斗の誕生日。
「イケメンの彼氏。賢くて理系の話できて」
LINEから届く美紗斗のプレゼント希望に対してやる気なさげにPCを操るねこのえ。
「この人がいいよ」
「お。良い感じって……ゴリラやろぬっころすぞ!」
ねこのえが見せた写真集には見事なシルバーバックのイケメンゴリラが映っており。
「頼りがいあるよ」
「よし、実家から動くな。説教だ」
にっこり笑って携帯をオフ。ゴミを片付けて簡単なメイクをしてちょっといい服とともに飛び出す。ヒールにも最近慣れてきた。
小さなかばんを肩に担いで雨上がりの空を見上げてみればまだまだ残る灰色雲。花粉が多いのかすこしむずむずするけど心地いい。
アスファルトを踏みしめ、白いガードレールの脇を歩く。信号機が赤になる。携帯を取り出して連絡を入れる。
「たんじょうびだけどなにもいらない」
「うん。じゃモノはあげないけどプレゼントとして一分で作れるお菓子のレシピを教えてあげるから取りにおいで。ついでに試食もしてくれるとありがたい」
「いく。あと一分エクレア教えてあげる」
信号が青に変わった。
ぴょんと水たまりを飛び越して歩きだす。
小さな水たまりにうつって広がる大きな青空。
その上には小さなお日様が輝いている。
お誕生日おめでとうございます。
良い日々を。




