青春十八歳切符
中津川駅は岐阜県に位置する小さな駅である。
2006年にTOICA導入。中央西線では、名古屋から当駅まで使用できる。
キヨスク、弁当屋、立ち食いソバなどがあるにはあるが。
「長いです」
寒風吹き荒れる一二月末。
青年、いっしーはいい加減待ちくたびれていた。
次の発着までまだまだ待たねばならない。
手をこすり合わせたくらいでどうにかなるわけでない指先の鈍い動きに苦笑い。濡れたため息で指先を温めるがままならず、仕方ないので軽く伸びをして空を見る。寒いくせに晴れていて変な感じ。耳たぶを大切に守り、鼻をかもうにも鼻水も出やしない。つまり暇である。
知り合い曰く。
@KarasunoAniki 刑務所の囚人だったとある人は、両手の指ををがっしり握り合わせて上下に激しく振って凍傷を免れたそうだなぁ
独房ならさておき。誰もいない、いたとしても少数な駅舎内でそんなシュールな光景を展開するわけにはいかない。暖かいものを探して瞳を巡らす。
シュー。プシュ。
振り返るとバスが駅舎にとまっていた。
線路の上に文字通りのバスが止まっているのだ。
「れ? れれれ? ……変ですね」
不審に思ってゆっくりと近づくと車掌が手を挙げる。
「待ち時間の間、少し周囲を旅行しませんか」
怪しい車掌はそう告げてほほ笑むが。
「いえ、時間に帰ってこないと困りますので」
勿論断るしかない。というか怪しいし。
「携帯の充電ができますよ」
「乗ります」
是非もない。
しかし切符を買わないといけないのか。
そう思うとなぜか懐から『青春十八歳切符』なる怪しげな切符が出てきた。
「切符を拝見」
「えと、こんなもの買った覚えないのですけど」
首をかしげる彼の傍、「ちょっと、早く乗ってよ!」と告げる声。
振り返ると高校時代の友人。
「え? どうしてここに?」
彼女はふしぎそうに小首をかしげる。
なぜか当時と同じ特徴的な学生服の彼女はふわふわの大きなマフラーをしており。
「それ、無くしたって言っていませんでしたか」
「何言っているの? 編んだばかりだし」
「お~!」
バスに入るとなぜかコタツが設置されていて、何人もの知り合いが手を振っている。
「……?!!」
知り合いじゃない人もいる。というかあの声優さんは去年亡くなったはずだが。
誰かがトランペットをとりだすと友人がピアノを範奏しだす。
「出発します」
男の子が生まれる病院。
おいしそうなケーキの香り。
冷たい雨の街。
春霞の中、合格の掲示板の前で泣き笑いする友人たち。
あるいはこれから友人になる人。
恋をした人、仲間と仲良く手を握って歩く道。
車窓の外に浮かぶ不思議な光景を眺めながら時は過ぎていく。
気が付くと指先はぽかぽか。スマートフォンの充電も終わっていた。
「もう、降りちゃうの?」
ほほ笑む人々を割って現れた少年。
一年前に鏡で見た自分の姿に彼は告げる。
「ええ。勿論」
手を振って下車する。
やってきた電車にさむいさむいと言いながら乗車。
目的地はもうすぐ。
一年前の自分を知るひとに会いに行くために。
一年前の自分たちに別れを告げて。
電車よ走れ急げ。
青い山脈乗り越えて、夜明けは近づく。




