はじめてのあるばいと
『何か勢いでバイト応募しちゃった╭(°ㅂ°)╮╰(°ㅂ°)╯ そういえば髪色大丈夫なのかな、クリスマス前に染めたんだけどな、もう染め直しかな、、、╭(°ㅂ°)╮╰(°ㅂ°)╯』
佐倉サチは働くことに興味を覚えた。
良い傾向である。
しかし『はじめてのあるばいと』。である。
『夢魔募集。今なら本業、学業と並行して高収入。肥らない美味しい食事つき。勤務時間:就寝中』
見なかったことにしよう。
『魔法少女緊急募集。勤務地:東京都。詳細は採用後に』
勤務条件を明記しない怪しいアルバイトもパスである。
『君もクリエィティブに稼ごう。あなたの小説、動画、音楽、ダンスなどをわが社が全力でステルスマーケティングします』
よくわからないけれど『よくわからないは論外』。パス。
こうやって友人が見せてくれる求人冊子を見るのは結構楽しいが、中にはとても怪しかったり明らかに危ない求人もあったりして怖れ半分、興味半分。
「美子は何をしているの?」
「歯医者さんのアルバイト」
「人見知りする癖に?」
「子供は好きなの。苦手なのは無遠慮な男の子」
昼しか入れないけれどかなり安定していて良いとのこと。
「夜は薬局。内容は暇なスーパーのレジ打ち。でもやること多いの。お給金は安いけれど勤務時間を見て有給とかボーナスとかつけてくれるって」
では英子はというと『彼氏に稼がせる』との返答がかえって来た。
『……』『……』『……』
軽く笑いながら睨むと『ごめん。普通に居酒屋と結婚式場のスタッフ』との返答。破格の高収入だが行ける日に行く勤務形式で不安定なのと丸一日潰れることから実家が居酒屋を営む友人のヘルプを兼業しているらしい。
「単位どうしているの?」
「寝ないから大丈夫」
大丈夫じゃない。やめなさい。
結果的に友人の紹介でも彼女たちの貸してくれた求人誌でもない経路で勢いで応募してしまったが、少し問題がある。
『髪の毛は染めていても大丈夫だろうか』
応募規定にない。
「現場見て茶髪の先輩がいたらたぶんOKじゃない?」
知り合いはそういったが不安が消えるわけでもない。
「黒く染めて面接受かったら戻す最強とか」
「それで首になったりしませんか」
今の会社だと一度雇ってしまうとあまり不当な理由で首には出来ない。試用期間中は知らないけれど。
「せっかく染め直して『叱られるか』とか不安におびえたり、『ひょっとして可愛いと言ってくれるかも』とか思っていたら素で気づかれていなかったという乙女心がマッハで傷つく案件もある」
「それは怒って良いです」
「まぁその、娘の成長的に仕事に興味を持つとかは親御さんに相談すると喜ばれる案件だから」
むう。親に話すのはちょっと恥ずかしい。
「どうしようかな」
ニアミスで電話がつながらなかった。
不安がいっぱいだがテストその他もある。
やることは多いので順次処理していかねばならない。
実際のところ新卒に企業が求める能力はそういった複数の課題をこなしつつ遊びもできる余裕を持てるかどうかだ。
佐倉サチだけではなくほとんどの大学生にいえることである。
……。
……。
「鴉野君! ひっさしぶり~♪」
「ぎゃ?!」
「久しぶりだな。鴉野」
「ど、どうもお久しぶりです」
なんで登場人物が作者宅に突撃してくるんだよ?! 無敵すぎる!?!
……と、いうか。
うねうね。
妙齢の女性の抱く植木鉢には目玉がいくつも浮かぶ蔦だか肉だかわからない物体。
お子様ランチにつける日本国旗を振るその姿は。
「おっ? お前冬を越したのかっ? 日本触手学会から表彰される案件だぞ?!」
「コタツミカンで越冬余裕ね」
「マジでッ? 肉食ですよ? こやつの種族?!」
予期せぬ再会にお互いの無事を喜ぶ鴉野と触手(アザと~)。
寿命を過ぎたらある日突然灰になって滅ぶはずだった奴との再会。勢い余ってはしゃぎまくる。
「あ、そうそう。観察記録を娘が。不足分の補足は私が書いた」
こ。このレポートは万金の価値がありますぜ?! お父さん?!
「喜んでいるんだか襲われているのだか」
「うむ」
はしゃぎ合う男と触手に呆れる妙齢の男女。しばし待て。
「というわけで、さりげなく求人誌に入れた求人をスルーされたのだが」
賢明な判断だと思います。
「最近雇った夢魔の子が勤務時間中に太らないから良いと甘いものを大量に食べつつ現実世界から持ち込んだ教材でテスト勉強ばかりしてあまり役に立たなくて」
え。それって?!
「『変な夢見る』と言って仕事している意識が無い。困った」
いや、普通の反応だと思う。というか、そのバイト紹介してくださいッ?!
「時給一万円。ただし夢の外への持ち出し不可。私物持ち込みは可能」
良いんだか悪いんだか。持ち出し不可は面倒ですね。
だいたいですね。
副業とはいえ親の仕事に娘を入れるのはダメです。
ちゃんと異業種を経験させなければ視野が狭まります。
「可能なら大学も行かせたほうが良いですしね。コネクション的にも」
人にもよるけれどね。
「不安だ。もし娘が怪しいアルバイトに引っかかってしまったら?!」
過剰に不安がる姿は父親ゆえだろうか。大丈夫だと思うけどなぁ。
『ボーカルorダンスのセンター候補募集。未経験可能』
こんなミエミエの嘘に応募してメンバーの玩具とか、モデルやエステティシャン募集で行ってそっち系はないわけじゃないけれどよく見れば怪しいって解るはずだし。
「キャバクラとかガールズバーとか含めて、えっちなアルバイトって結構大変ですよ。何より変に収入が多い分『将来が狭まる』ことが多いのが問題です」
「なぜ君が知っている」
若さは買えるもんじゃない。
「スポット的に高収入なので家計簿つけてみたら格安だったとかもありますね」
「鴉野君詳しいね」
小説書いているといろんな人に会う。というか俺自身も。
「採用条件。『高額な絵を買う。買った分だけ売らねばならない。ボーナス代わりに高額な絵を買う。エンドレス』って仕事に採用されかけたことがあったっけ」
「そんなものは論外だ」
行ってみて解ることもある。
「鴉野君って整体師に就職しかけたことがあったんだって?」
「それもアルバイトで行くつもりがその日に正社員として採用。莫大な整体師の学校に行く費用を負担するから丁稚同然で働けと言われて断りました。というか逃げました」
ホントにあるんだから困る!
あと着物系も似たような条件である。
「だいたい探せば楽でそこそこのバイトはあるでしょう。娘さんは優秀です。経理などの資格系とか、あるいは市役所、教習所などの『人が必ず集まる場所のアルバイト』なども見つけることができるかと思われますが」
あ。郵便局やNTTもきついけどなかなか良かったですよ。
親御さん的に不安かもですが女の子の場合は郵便局員のナンパが絶えないけれど。
あとスターバックスとかもブランド重視でキツイらしい。
「不安だ。ついてきてくれ」
隠れて娘の成長を喜ぶ親御さん。
呆れつつもスタバの珈琲を買って飲む鴉野。
「まぁこういう週末もありか。楽しそうだし」
娘自慢をする妙齢の男女は結構可愛いものである。
「知り合いも生まれて間もない娘と奥さんの自慢と惚気を始めると丸一日かかるんです」
「わかるわかる」
「もっといろいろあるから楽しみにしていなさいってその子に言ってあげて」
「というか鴉野。オマエは」
「それ以上言ったら異世界にまた飛ばします」
「あ。でもファルちゃんたちには会いたいな」
「元気にしていますよ」
「懐かしいな」
……。
……。
『親に成長喜ばれてきました!』
良かったね。
キィボードを動かして伸びをする作者。
もうすぐ試験だ。俺も頑張ろう。




