モブAモブBなのに世界を救う羽目になった。謝罪と賠償を要求する
『世界を救ってくださいませ! 救世の巫女様!』
何気に凄いことを言われた。確かに私の名前は『美子』だけど。
この状況はどうなっているのか説明してほしい。あ。やっぱり嫌だ。
「さっちゃんと栄子は?」
友人たちの姿が見えない。と思ったら隣に栄ちゃんがいた。どうして物騒な剣なんて持っているのかしら。
「勇者」
「はい?!」
「きくな。みっちゃん」
「はい」
前者のはいは『はい? あなた何を言っているの』。
後者のはいは『はい。わかりました。私も何も聞きたくない』。
大騒ぎして喜ぶ人たちに呆れる私たち。
あ。このスカートの生地良い物使ってるな。肌触りが凄くいい。
昨日栄ちゃんがつけてくれたネイルを見る。きらきらしていてその非現実感が今の日常とか現実とかぶっとばしたこのふざけた状況を忘れさせてくれる。
私、あんまりおしゃれは得意じゃないからなあ。ネイルつけたままで寝ちゃう時点でお察しよね。
運動も出来てお洒落も得意な栄ちゃんは遠目に見ても近くで見ても目立つ。顔立ち自体は私のほうが美人だと思っているけど。
さばさばした性格とすっきりした目鼻立ち。最低限のメイク。誰に対しても無難で堂々とした態度なので確かに『勇者』と言われてもしっくりくるかも。
よくわからないひとたちにお酒を出されたけど私は一応未成年なので断った。栄ちゃんが呑もうとするので軽く抓ってあげた。
私たちの意思を無視して、彼らは救世の勇者と巫女として私たちを盛大に送り出してくれた。
しかし二人の意思は決まっている。
「逃げよう」
「だよね」
私は友達にはくだけて話せるけどそうでない人は嫌いだし苦手だ。
高校時代には友人の男の子の顔に落書きしたことがあるけど、正直ドキドキだったし。
「冒険なんて無理」
「いうと思った」
鎧姿の栄子ちゃんはちょっと決まっていて、コスプレだったら可愛いのだけど。
「みっちゃんのその服も似合っているけどね。みっちゃんは可愛いからいいなぁ」
「栄子だって綺麗じゃない。彼氏が自慢していましたよ~」
そう指摘すると思うことがあったのか彼女は苦笑い。
「なんか言いたいことがあるようだけど、普通だから。普通」
「ほうほう。どこまで行きましたか。ぼっち連合の私に話してくださいませ。栄子様」
あ。嫉妬じゃないからね。私はオトコノコ苦手だし。ほら、愛でるのは好きだけど、告白されると逃げちゃって。実家にあふれたBL本を年末までに焼却せねば母が怖い。
「じゃ、帰りましょう」
「そうだね。悪いけどそんな義理ないし」
私たちは普通に帰ることにした。
「ばいばい」
「ばいばい」
変な世界に手を振って。
『誕生日プレゼントだ。願い事を一つかなえてあげよう』
道中接触してきた『作者』を名乗る不審人物に私はこう答えた。
「別に何もいらないけど、栄ちゃんは帰してあげてよ」
「君らはセットだから無条件にその願いは聞き届けた。では」
「セットってどういう意味! 失礼ね!」
「栄子でAさん。美子でBさん」
よくわからないけどかなり失礼な魔法使いだかなんだかわからないその人の言葉は本当で、私たちは気づけばいつもの駅のホームにいた。
「あ」
「どうしたの。えいちゃん」
「ごめん。みっちゃん。あのね。忘年会だからみっちゃんの誕生日をみんなで祝おうと思ってたんだけど」
それ、聞いていないよ?
「うん。黙ってサプライズしてあげようと」
両手で拝むように背の高い彼女が謝罪する姿はちょっと可愛らしい。
「たぶん、そんな時間じゃないよね」
「もう間に合わないかなぁ」
残念そうに言うえいちゃんにほほ笑む私。
がたんごとんと力強く走る列車の音、すしずめで苦しそうな人々。
帰ってきたんだなと思うとちょっとうれしい。
「じゃ、キャンセルしておこう」
「本当にごめん! 私もキャンセルしておくから」
うん?
「あ。私。そうそう。ごめん! ちょっと急用ができて?!
え、ホテル取った? 知らないから。好きにして。
あの子によろしく。じゃあね! バイバイ」
もしもし。えいちゃん。それどういうこと?
「いこ」
手を引かれてちょっとよろける。乱暴だなぁ。
「今日は呑むぞ!」
「いいけど、未成年なんだからね。私たち」
まぁ付き合ってあげても。ちょっとだけならいいけど。
風の冷たさが肌を焼く夜、私たちは大いに呑んで騒いで笑い合って、ちょっとだけ強くなった気がした。
「来年の抱負はもっと素敵な彼!」
この分だとえいちゃんの場合、無……。でも黙っておく。
男の子は怖いけど、女の子は嫌いじゃない。そういう趣味じゃ、ないけれど。




