魔法少女になれそうにない5 いそべもちと最後の戦い(てすと)
寒波渦巻く日本列島。
日本の平和。もとい東京都台東区浅草の守護を担当する一人のヒロインがいた。
「さぁ! 今日も叫ぶんだ! 『まじかるぷりりんぷるんぷるん アイスの力だ会津オ』」
運動性に優れたヒールレスのロングブーツ。
その持ち主は室内であるにも関わらずそれを履いたまま流暢に喋るロボット掃除機を蹴った。
猫の絵が描かれたロボット掃除機は怒りを示すかのように左右に揺れて部屋の掃除をしている。なぜか空を舞うはたきにふきんに雑巾。今から正月の用意で大変有能な奴だ。
「ひどい。ひどいよ美紗斗ちゃん」
「うっさい」
「寒波が酷いよ。日本列島が危ないんだよ! 冷気を自在に操るぼくら、『氷の魔法少女』の出番じゃないかっ?!」
「寒い」
超ミニスカートにスパッツで絶対領域完全武装。
一見露出の多い服装だが、首下から手首まで覆う黒いそで下。
寒そうに時代かかったストーブに手を伸ばす少女は魔法少女らしからぬ台詞を吐いた。
「寒い。しんどい。おうち出ていきたくない」
びゅうううううううう。
外では寒波が大暴れ。スカイツリーは寒さで揺れている。
雪が降ったら遥か高空から雪の塊が落ちてくるかもしれない。
人力車を操るお兄さんお姉さんは手のひらをこすり合わせ、蕎麦屋さんは寒くなったと言いながら家路を急ぐ。煙草を吹かす伯父さんの吐くそれは息か紫煙か。都心を襲う初雪。サラリーマンたちが塊になってお互いをかばい合う。
唇にリップをぬり、頬にニベアを塗る女学生。無遠慮にナンパするヨッパライを避けて寒波の中暖かそうな飲食店を目指して進む。
「だ、だからこそ、氷の魔法少女の出番」
「最後の期末テスト」
言葉少なに自らの事情を話す美紗斗。
そう。期末テストがあるのだ。彼女は学生である。
今出動したら当然ながら勉強は。
ぷう。
香ばしき匂い。
ストーブの上で膨れ上がるそれを彼女は瞬時につまんで熱そうに操り、旨みたっぷりの醤油につけて、網の上にまた放り投げる。
ぷっくり膨れるお餅をじっと見つめる少女に声をかける猫の絵。
「ベンキョウは?」
「いそべもち」
猫の絵の描かれた掃除機はキレていい。
丸い身体をくるくるUFOのように回して部屋を駆け回る。
「勉強じゃなくて、磯部餅焼いているじゃないの?!」
「いそべもちおいしいから」
はふはふ。いそべもちを火傷しないように箸でつまんで慎重に口に運ぶ美紗斗。甘い唾液でアツアツの醤油を含むお餅の香りのスープを冷まし、息を吹きかけてその熱さを堪能する。
美沙斗のその身体には分厚い布団がまかれている。
そばには大量の餅。海苔。そして醤油。
見た目もまるでいそべ餅。焼くのもまたいそべ餅!
それは明らかに一歩も譲らぬ戦闘態勢である!
「わかった。勉強はゆずる。最後の期末テストだからね。涙を呑んで世界の平和より君の将来を考えて」
「将来は網になる」
美紗斗は己の将来の展望を語った。
『将来はいそべもちの網になる』と。
今決めたのだ。ゆえにこの場は譲らない。
己の将来がかかっているのだ。
「あの。その。みさとさん。いえ。みさとさま」
「なに」
明らかに戸惑いの声を出す掃除機。
空中をふらふら。ふらふら。そして排気音。
排気音を抑える特別機能を作動させて彼は疑問を口にする。口などないが。同時にみさとの手が焼きたての磯部餅を掴む。
「何ゆえに網になりたいと」
「いそべもちおいしいから」
その甘味は心を満たし、その温かさは胃袋と手足に血液をめぐらし、旨みは甘い唾液とともに臓腑から体中に彼女に幸せをもたらしてくれる。
まさに至高にして究極の将来像。平和の象徴と言わざるを得ない。
「ダメダメダメ~~~~~~~~! 出撃しろ~~~~!」
師走に騒ぐ妙な掃除機を無視し、みさとは両の耳を暖かい耳当てでふさいで見せた。
霜が降り、すっかり寒気が覆う早朝。
小さな子供たちが霜を集めて雪だるまを作っている。
「あ。できた」
「もう。溶けちゃうよ。しっかり固めてよ」
ずるりとこけそうになる女の子を支える女子高生。
「ありがとう! おねえちゃん!」
「たまたま立ってたから」
不愛想に返す彼女に子供たちは手を振って去っていく。
「風邪ひいちゃった? でも治さないよ」
「要らない」
そっけなくふるまう猫の絵。
くしゅんとくしゃみをして彼女は期末テストに向かう。
「ちゃんと将来を考えないと」
「考えている」
その足取りはまっすぐに。
その行先は何処に向かうのか。
『魔法少女になれそうにない』 ~~ Fin ~~




