その後の佐倉さんたちの内政(NAISEI) 前編
『先輩に買い出しを命じられたけど寒すぎてすぐに教室に戻ったら買ってくるまで部屋に入れなませんって言われた(´・ω・`) 酷い(´・ω・`)早く買ってこよう(´・ω・`)』
【冒頭文二百文字】
その後の佐倉サチの近況を伝える。
今回は童話なので文体を少し優しくする。
進学校という言葉をしっていますか。むずかしい大学に。
やめた。面倒くさい。
進学校を卒業し、大学に無事合格した元女子高生佐倉サチ。
彼女には悩みがあった。
しょうもないtweetをTwitterに投稿するとなぜかそれらが斜め上に実現してしまうのである。
その主原因は、あるTwitterの知り合いである。
というわけでその後の物語なのである。
【その後の佐倉さん家の内政(NAISEI) ~~ プロローグ ~~】
大学生になった佐倉サチ。
ということは当然一年生。大学一回生になる。
つまり下っ端である。
中学高校を一度経験すれば最高位から下っ端に戻ることを数度体験して人間は世の中を知って進歩していく。
作者のように勉学を怠って大学に行けるのに行かないとかやってはいけない。後で通信大学に通う羽目になる。それはそうと本日の物語はある寒い日のことであった。
「佐倉ちゃん。ちょっと買い出し行ってきて」
先輩の命令は神の命令。
大昔の大学生ならそうだったし嫌な酒も呑まされたが今は現代である。
それでも毎年無理やり飲酒させられてしまったり、女性なら怪しいサークルで暴行を受ける羽目になる。 サークル選びは厳重注意すべきである。
しかし、今回は至極まっとうな命令である。
佐倉サチは素直である。当然その拝命を受けた。
受けたのだが。
受けたのだが。
「寒い」
びゅうびゅう吹く風は肌をピリピリに乾燥させる。
鼻水が出たっておかしくはない。
出さないのが乙女のたしなみだが。
歯がガチガチしたって非難はされないだろう。
目が乾いても耳が寒さで赤くなろうと命令は完遂せねばならぬ。
「先輩。寒くて行けません」
佐倉嬢は速攻で戻ってきた。手ぶらで。
すまし顔の先輩はおっしゃった。
『戻ってくるまで部屋に入れません』
軟弱すぎる佐倉嬢には酷な話であった。
呆れ笑いながらそっと扉を閉める先輩に抗議する佐倉嬢。
「せんぱいのおにー! せんぱいなんて異世界にいっちゃえ~」
「はいはい。ちゃんと買ってくるのよ。お釣りで新作の肉まん買ってきて良いから」
佐倉嬢の動きがタイムストップした。
「今すぐ行ってきます。ダッシュで」
最敬礼。
「一口食べさせてね~」
冗談のようなやり取りを経て駆け出した佐倉嬢。
肩をすくめて愛する後輩を見送る先輩方。
このような光景は毎年のことであり彼ら彼女らも経験済みである。
そんなことは今の佐倉嬢には関係が無い。
ぶっちゃけ寒い。
走ったほうが寒さは和らぐ。
日本列島の寒さが本格化するのは明日からと気象庁は予測している。
走るなら今のうちだ。
てくてくと走る佐倉嬢。
風が顔に当たろうが冷たい空気が喉と鼻を焼こうが冷気で目がちかちかしようが走るべきだ。しかし。
@KarasunoAniki:異世界にまた行きたいなんて殊勝だな
携帯が鳴り、そのメッセージに戦慄する佐倉嬢。
「いやいや。冗談じゃないですから」
@KarasunoAniki:行ってらっしゃい!
冬支度に忙しい街の人々、茶色くなっていく落ち葉。暖かそうな湯気。それらがひずみ、歪み、曲がって七色に染まり、彼女の足元はするりと形と重さを失い。
異次元へと飛んで行く自らの身体を知覚する佐倉嬢。
つまり手遅れ。
「もういやだぁあっ?! これで三度目ですよッ?!
ぜったい絶対?! もう許さないんだからぁッ?!」
こうして佐倉嬢は三度目の異世界旅行に旅立つことになった。
もっとも今回のこの受難は多くの人間を巻き込むことになるのだが。
大学の教室。
昔はボロイストーブ一つ、
今は設備もしっかりして暖房完備。
代わりにストーブでパンを焼いたりはしなくなった。
そんな教室の片隅でいまだ帰らぬ後輩を案じる若い娘たち。
「あの子、大丈夫かな」
「すぐ戻ってくるわよ」
先輩方は佐倉嬢の受難をまだ知らないので楽にできるのだがそれは少々甘かった。
「あれ? 扉が開かないのだけど」
花を摘みに行こうとした一人がぼそりとつぶやく。
「悪戯?」
不審に思った一人の人間が彼女の代わりに扉を開けようとして絶句。
なぜか扉は個室に直結。
『ご安心してお使いください。作者』
謎の張り紙にさらに絶句。
「な、なによこれ」
小用どころではない。
作者の現在の職場にはトイレが無いので他人ごとではなかった。
脅えさせてごめんなさい。
外の窓を見るとなぜか佐倉嬢が走っている。
「あの子、何をしているの」
冬だと言うのに汗だくで走る佐倉嬢。
汗だくどころか必死の表情。
ここまで先輩に忠実だと逆に引く。
むしろ先輩側としても申し訳なくなる。
「もう。佐倉ったら。そんなに息せきかけなくて……も??」
呆れる先輩の一人は違和感に気付いた。
「まって、この部屋」
明らかに荒野を走る佐倉嬢と彼女たちが知っている教室外の光景は一致しない。
「せんぱ~~いっ?! たすけえてええっつ?!!」
そして角の生えたイノシシもどきに追われている。
取りあえず助けたいのだが窓が開かない。仕方なく窓に机をぶつけたがそれでも割れない。
イノシシもどきから逃れる後輩も必死ならば彼女を助けんと懸命な努力を続ける先輩方も必死。麗しきは先輩後輩を想う愛情である。
しかし、どうやらこの窓、ダイヤより硬くゴムより丈夫。
そして友情愛情過剰に異常。
後者はコボルドより弱くトーレナ岩よりもろい。
「自力で、頑張るのだ」
あらゆる努力が無駄になった先輩方は苦渋の決断をした。
佐倉嬢に対して不動の最敬礼である。
「いやあぁっ?! もうやだあぁっ?!」
詳細は省くが佐倉嬢は見事イノシシもどきを手なずけることに成功した。
彼女は買い出しの材料を異世界で手に入れるべく、土つくりから開始した。
まことに現代社会の利便性を痛感する一件である。
『余計な雑菌を殺し、くうきたっぷりのふんわりにするために土を干す』
『腐葉土や灰、石灰などを蒔いて土壌改善』
『連作障害をなくすために前年使った土は別途に分けて保存』
『土壌:アルカリ性か酸性か』
『異世界の菌類は予測不能』
『緯度経度などその他もろもろの諸条件に気候は大きく左右され、人糞の類は発酵させねば肥料になってくれない』
『大豆は日本で育てれば痩せた土地でも育つ有望な作物だが、異国では必要な菌類がいないので育たなかった』
『その他もろもろ』
『人類が営みを行うには燃料がひつようだが、森が育たねば洪水でみんなパー』
農業以前に行わねばならない土壌改善。
これには果てしない努力が必要である。
では土を作るにはどうすればいいか。
水と風と大地が大きな要因となる。
そして土をきれいにすると海が育つ。
窓の外を眺め、後輩の四苦八苦をドン引きしつつも見守るしかない先輩方には恐ろしい勢いで四季が移り変わるのが見えている。
なぜか老衰しない我らが佐倉嬢。完璧に諸々の都合である。
森が育ち、海が豊かになるのは当然の話である。
人類は大河がある場所に文明を築き、伐採による燃料不足によって文明を崩壊させてきたと言って過言ではない。
我ら日本人の祖先は必死で植樹を繰り返して豊かな環境を手に入れてきた。環境は一日でできることはない。祖先に見習うべきである。
「つれないね」
「だね」
現在。佐倉サチはのんびりと釣り糸を垂らしている。
ボロイ竿を握り、吹き荒れる風にイノシシの皮のマントを被りなおす。
暖かな吐息を手に吐きかけ、耳元を少し揉んでまた釣竿を振るう。
そんな彼女の釣り針に手早く餌を取り付け、感謝の言葉に照れる存在がいた。
この連れの幼児たちは厳密には幼児ではない。
立派な大人なのだが、見た目人間の幼児のまま変化しない不思議な生き物である。
名前をファルコと呼ぶ。
先輩方は知らないが佐倉嬢にとっては知己の少年だ。
『水に浸すと無音で高速移動する小舟になるボトルシップ』『実質無限にものが入るかばん』などなど学者が聞いたら頭を抱えたくなるような品々をいくつも所有する。本人も大人顔負けの身体能力と様々な知識を持っている。
「サクラのねーちゃん。ふゆでも『ゆーぶいかっと』しないと」
ぽいと編みたての麦わら帽子を投げてくれる。器用なのだ。これもわずか三分で編んだ。手元が見えない。
「『木野喜久子』なの」
「気のきく子?」
「そうそれ」
恥じらうファルコの頭をなでなで。
照れていたファルコだが急に真顔になり、何か指先すべてをせわしなく動かしだす。
一〇本の小さな指先がたちまちのうちに投網を編み出していき。
ぽいっ。
ぱしゃぱしゃぱしゃ。本日は大漁なり。
「網のほうが良いね」
それは先に言ってほしかった。寒いのに。
さっそく遡上する鮭を取ることにした二人。
やがていくばくか取れた鮭をもって宴会とする。
「この時期にしか鮭は取れないのの」
余談だが日本だと毎日食べられるサーモンは鮭に似て異なる。
天然ものの北海道鮭を食べたければ冬のみだ。
そして寄生虫厳重注意である。
ゆえに、高級店でも百円寿司でもサーモンだけは同じ食材を使っている。覚えておくとちょっと自慢できるのだ。異世界に縛り付けられた現時点の佐倉嬢には意味のない知識である。
さて、仲間を得た佐倉嬢。
人が増えるとノルマを決めねばならない。
ノルマを決めたらシフトも決めねばならない。
文明崩壊の前に絆が崩壊する。
かの偉大なノーベル経済学賞受賞者ケネス・J・アローは民主主義を成立させるためには独裁者が必要なる結論を出している。
(※註訳:ノーベル経済学賞。正式名称:アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞。故アルフレッド・ノーベルの遺言に基づく賞ではないので一部遺族から疑問があるが、彼らの祖先は以下略)
そんなこんなで佐倉嬢とファルコは膨大な数式を紙に書いて答えを出すという離れ業をする羽目になっている。
何 故 に 数 学 を す る 羽 目 に 。
「こーすると短縮化できるのの」
「あ。ふぁるちゃん凄い」
「へへ」
照れるファルコだが現代の数学者も驚愕するレベルの数学技術を駆使している。
どのように凄いのか。
実のところ、現代社会の様々な問題はある程度一次式とExcelの駆使で何とかなってしまう。
ナントカなる。はずだ。
はずだというのは現代のパーソナルコンピューターの性能をもってしても計算時間が洒落にならないからである。
現代人が操るスーパーコンピュータの進化は四十倍四十倍と増えるが、それでも計算が追いつかないとか余裕でありうるのだ。
そのため数々の数学的テクニックを必要とすることになる。
こういう過程を素っ飛ばす人間の不可思議な思考過程は現在の科学をもってしても解明できていない。
ファルコのように子供の柔軟かつ奇抜な思考回路とオトナ顔負けの知能を持つレベルになるともはやブラックボックスと言っていい。
彼の隣では彼の同族である彼の兄が問題を作るのに従事している。
実のところ、この兄なる幼児。ファルコより先に佐倉嬢との間に知己を得ている。
名前はピートと呼ぶ。
問題を見て数式化するのと解くのは別問題だ。
前者も後者もセンスが必要となる。
意思決定を数理的手法で支援する行為をオペレーションリサーチ(略してOR。operations research の略。『作戦の研究』。もともとは軍事用語)という。
それまで人間の適当な感性や思い込みで考えられていた作戦をより効率化、合理化するために考案された科学的手法である。
また、合理的かつ皆に説明できる内容で独裁を防ぐこともできる。
もっとも、実際の計算結果と人間の感情は大いに齟齬があるのでかなり独裁者が頑張る必要がある。
病院の婦長さんは大変なのだ。今は看護師長というが。
『先輩。助けてください』
「ちょっと待ってね」
スーパーコンピュータ『京』は秒間一京の計算を可能とするが、日本の一般家庭三万世帯分の電力を消費する。そして人間の脳はたった一ワットでこれらの計算を可能とする。あくまで理論上であるが。
「はやくけいさんしろ~反乱がおきても知らんぞ~」
佐倉嬢が異世界で買い出し材料をすべて手に入れるまで、教室は開かない。
問題を出す少年、ピートはナマイキそのものだが仕事は真摯だ。
さて。
どのように計算は複雑なのか。
例として先ほど看護師さんのシフト問題を挙げた。
では読者の皆さんも佐倉嬢や先輩方とともに考えてみよう。
常勤、非常勤など勤務時間の制限がある。
ベテランと新米の区別がある。
有給の消化の問題がある。
土日、祝日の扱いがある(※職業柄、適用しにくいが明らかに来院患者数が上下する)。
夜勤明けの配慮、昼勤務の都合もある。
まだまだ問題は山済みだ。
数字で決めがたい現場の問題である。
特定の看護師の言うことしか聞かない患者もいる。
明らかに仲が悪い看護師同士がいる。
具体的にいうとその看護師を辞めさせるために患者に危害を齎しても痛痒を抱かない程度には仲が悪いことなど人間の世界ではよくある。
これらをすべて解決するために、婦長さんは日夜シフトとにらめっこする羽目になる。
もちろんシフト以外のこともいっぱい考えなければならない。婦長さんは大変なのだ。
これを『独裁者』と呼ぶのはあまりにも哀れと言えよう。
こういったシフト作成ソフトはべらぼうな値段が張る。
ファルコとピートを現代社会に連れて帰れば大もうけできるはずだ。
「こんなにシフト作成が大変なんて思わなかった」
「巡回サラリーマン問題って大変ね」
打ち込むだけで大変である。
こうやって人間はその能力は据え置きながら社会を発達させて進化してきた。
今後も人間の進化は続く。
……ただ、個人の脳みそがついていくかどうかは。
「もうやだあああ! 教室からだせー!」
「もうやだ~! 教室に帰せ~!」
……別問題である。
がんばれ。
【ついでに例題】
商品Aは1kgあたり一万円儲かる。
商品Bは1㎏あたり二万円儲かる。
利益が最大になるように生産したい。
商品Aを1kg生産するために1kgの材料
商品Bを1kg生産するために3kgの材料を必要とする。
商品Aを1㎏生産するために4時間の労働時間
商品Bを1㎏生産するためにも4時間の労働時間
一日当たりの述べ労働時間制約は48時間とする。
(※現実世界と同じく一日は24時間です。念のため)
商品Aを1kg生産するには2時間の機械作業時間
商品Bを1kg生産するためには1時間の機械作業時間を要する。
機械作業時間は一日22時間のみ。
一日当たりの最大化=商品A+2商品
制約条件
商品A+3商品B=<24 原料制約
4商品A+4商品B=<48 労働時間制約
2商品A+商品B=<22 機械稼働時間制約
商品A=>0 商品B=>0 非負条件
こういった数理的思考を身につけることが今後の現代人に必要な素質として日本OR学会は中高生からのOR思考を身に着けさせるために日夜活動を行っている。
異世界で人間を現代知識で動かす場合、こういった数学的諸問題が立ちはだかるのである。
なお、看護婦さんのシフト計算問題はググるとトンデモない量の式を見ることができる。
佐倉嬢や先輩方は理系ではない。脳みその負担がフルマックスでもまったく疑問ではない。というか作者の脳みそがパンクする。異世界人ならそれ以上だ。
この上、佐倉嬢と先輩方は現在、文明を築くべく奮闘を開始している。文明を築くということは社会制度を整えることである。あるのだが。
このややこしさは後編に。……続くのである。
って、作者でも頭抱えているのに読者さん。乙。




