エピローグ 鏡の中のわたし
「なにこれ」
真っ暗な空間。上下もおぼつかぬ中に浮かぶ銀色の鏡。
佐倉サチは呟く。変なことなんて言ったっけ。
ちょっと思案。頬の産毛に触れる指先の感覚。匂いも味も感じない不思議な感覚。
一切の音がしない不思議と違和感に自然独り言が漏れる。
「ねね。鴉野さん。また人を小説のネタに」
「今回はちょっと違う」
ほら。見てみな。
そういえば『鴉野』の顔を彼女は見たことがない。
『彼』の指さす先には、先ほどの鏡。
「お兄ちゃんだ」
他にも学友たちや、自分自身。
「あれ。あの子たちだれ」
「君たちの知らない子たちもいる」
鏡の中の自分たちはある時は笑い、ある時は落ち込み、また立ち上がって奮い立ち。
「あれ? でも、ちょっと」
「違うんだよな。似せようとは思ってるけど無理な部分も多い」
鴉野はにやりと笑うと告げる。
「あれは『現実の君たち』なのさ」
「え? どういうこと?!」
「tweetが即座に実現したりするならその間の時間軸はどうなっているんだってなる」
「あ」
驚きはやがて収まり、今なお残る動悸を胸に彼女は問う。
「私たち、偽物なの?」
「そんなわけない」
ある時はあきれ、ある時はにやりと微笑み、ある時は勇気を奮い起こす。怒ることもある。悲しむこともある。
「そんな記憶は、その人だけのものだ。その記憶には君たちもちゃんと入っている」
くじけそうなときは勇気をもって。あるいは本当にくじけて落ち込み泣くだけ泣く。
あ。
佐倉サチと鏡の中の自分の瞳が合った。
鏡の中の自分は相変わらず忙しそうだ。
佐倉サチはぐっと親指を出してサムズアップしてみせる。
『がんばれ。わたし』
そのしぐさが見えたわけではないだろうが、鏡の中の彼女自身もまた満面の笑顔を浮かべる。
「本当はこの話、三話目らへんで終わらせるつもりだったんだよな」
「長引いたのね」
誰かの物語は誰かの物語に悪影響を与えようとしたり、その逆もあり得る。それを少しでも支えたり、あるいはよい結果が起きればいいかもしれないがそうとも限らない。
「私、少しは私の、『みんな』の役に立ったのかな」
「さぁ。わからん。所詮俺に人の心はわからんしな。わからんから書くしかない。でも、ほら、この感想を見る限りはそうじゃないっぽいよ」
現実世界の人間はめまぐるしく変化していく。
歳を重ね。過ちを繰り返し、あるいは善行を目指す。
いいことばかりじゃないし悪いことばかりでもない。
小説の主人公のように何かすごいことができるわけでもない。
「でも、世界を動かしているのはキミたち普通の人だ」
ばいばい。私。
そして。がんばれ。
くじけてもいいよ。
時々私を。『みんな』を思い出してね。
一度もあったことのない私。一度もあったこともない『親友』。
私はきっと、あなたのことを忘れない。
私たちの冒険を応援してくれた『みんな』。
本当にありがとうございます。
~~ END ~~




