誰だ。私がめっちゃ楽しみにしてた杏仁豆腐食べた人!!! 許せん!!!!(笑)
「誰だ。私がめっちゃ楽しみにしてた杏仁豆腐食べた人!!! 許せん!!!!(笑)」
佐倉サチは憤慨した。
必ずかの邪智暴虐の徒を除かなければならぬと決意した。佐倉サチにはその者の奇行の訳は解らぬ。佐倉サチは高校三年生である。受験勉強をし、友と遊んで暮らしていた。
サチの足がせわしなく動き台所に進む。
「杏仁豆腐食べたのお母さん?!」
そんなサチに母はニッコリと笑って返した。
「ああ。それなら」
「心当たりあるのね?!」
ぷんぷん怒る娘に微笑む母。
「会いに行ってらっしゃい」
「へ?!」
焦げるような臭いと共にぐらりと視界が揺れ、手を小さく振る母と家で何故か飼っている|触手(あざと~)がお子様ランチ用の小さな日本国旗を降る姿を視界に焼きつけながら彼女は意識を失った。
「いたた……。\(゜ロ\)ココハドコ? (/ロ゜)/」
彼女が慌てるのも無理はない。さっきまで自宅にいたのに一面に広がる荒野。右を見ても左を見ても荒野。地平線しか見えない。砂を踏みしめる足の感触といい、頬にあたる風の匂いと言い、どうみても日本ではない。
「『また』変な世界に飛ばされた~~~~~?!」
『また』ってどんな日常送ってるの?!
(※ 拙作 『芋ケンピ』を両親が貰ってきたので世界を救ってくる 参照)
「(゜-゜)(うーん)。チーアさんやファルちゃんやロー・アースさんのいる世界じゃなさそうだけど。何処だろ」
前に飛ばされた世界では両親の友人を名乗る『冒険者』達に大いに助けてもらったがここでは人間の影すらない。
「というか、野宿?! ((+_+))」
そうなるかもしれない。
「あんたこんなところに突っ立ってどうしたの?」
こんなところにも救いの神。
突如声をかけられて驚くサチ。
「うわっ?!」
サチの言葉は声帯から音波の流れとなって空間に響き、その言霊は世界に繋がるアカシックレコードによって変換され、彼の脳裏にこう響いた。
『誰だ。私がめっちゃ楽しみにしてた杏仁豆腐食べた人!!! 許せん!!!!(笑)』
「知らん。と言うか杏仁豆腐ってなんだ? 食ったことないな」
「貴方誰? ここは何処? と言うか元の世界に返せ~! お母さんのばかー?!」
サチの言葉は世界に繋がるアカシックレコードによって変換され、彼の脳裏にこう響いた。
『誰だ。私がめっちゃ楽しみにしてた杏仁豆腐食べた人!!! 許せん!!!!(笑)』
彼はこう思った。「関わらないほうがいいかも」賢明である。
「あれだ。町まで行きたいなら俺の移動魔導陣に乗るか?」
「ありがとうございます」
サチの言葉は音波となって周囲に届くと同時に世界線の彼方にあるアカシックレコードによって変換されこの世界の住民にはこう聴こえる。
『誰だ。私がめっちゃ楽しみにしてた杏仁豆腐食べた人!!! 許せん!!!!(笑)』
青年は取り敢えずサチが人の良い笑みを浮かべて礼を述べている様子をしていることから悪気はないと判断し、金色に輝く魔導陣の上に彼女を誘った。魔導陣は空気抵抗となる逆風を封じ込め、二人の重量を前方に転換して滑るように空を駆ける。
「わ~?! 速いッ?!」
繰り返すが青年の脳には『誰だ。私がめっち(以下略)』。
街につくと首が異常に長いキリンのような住民や耳が垂れ下がった妙なヒト、はっきりとカバやロバに似た顔を持つ人、その体色もピンクや緑と目によろしくない。そういった人々が並ぶ街の配色はサイケデリックでありながらどこか出鱈目な楽しさも持っている。
「ようこそ。我らの街に」
歓迎する衛兵さんにサチは告げる。
「素敵な街ですね」
しかし、サチの言葉は空間を超えた世界線の上にあるアカシックレコードの変換により彼にこう聴こえた。『誰だ。私がめっちゃ楽しみにしてた杏仁豆腐食べた人!!! 許せん!!!!(笑)』と。
「アンニンドーフ? うーん。そんな賞金首の話は聞かないけど」
「? いえ、私は素敵な街だなと」
「だからアンニンドウフって奴だろ。俺は知らない」
「いえ。杏仁豆腐は私がこの世界に来た切っ掛けみたいなものでモトはと言えばお母さんが」
「アンニンドウフと言う奴はそれほど恐ろしい魔物なのか。注意しよう」
会話がかみ合っていない。
賢明なる佐倉嬢はしばし考えて一つの結論に達した。
「まさか、今度の世界って『誰だ。私がめっちゃ楽しみにしてた杏仁豆腐食べた人!!! 許せん!!!!(笑)』って周りに聞こえているとかッ?!」
その通り。よくできました(ヒュー)。
街中でそんなことを叫べば嫌でも注目を浴びる。
サチの言葉に一斉に振り返った奇妙な人々はアンニンドウフなる食べ物は何か聞いてきた。説明しきれるわけがないが、サチの言葉はアカシックレコードによって変換され、杏仁豆腐の歴史や文化背景やどう食べるか、食感や味などを彼らに正確に伝える事に成功した。そんなチート能力あっても嬉しくない。
「おいしそうだな。俺も作ってみよう」
背の高い男には首が無かったがどうやって食べるのだろうか。
そう思ってサチが首をかしげると彼の右手に下げられた生首がニッコリ。サチの頬から血の気がごっそり。
「ああ。俺も食べてみたいから作ってくれ」
「俺、その材料探してくるわ」
ワイワイと騒ぐ街の人々にサチは慌ててそんなに作れないと話すが。
「そうか、そんなに杏仁豆腐とやらを食べられたのが口惜しいのか」
街の人々は斜め上の解釈をしてサチの肩をぽんぽんと叩いて慰めてくれる。気持ちはありがたいが嬉しくない。
街の人々の懸命の捜索と努力の甲斐があって杏仁豆腐の材料がひとつ、またひとつと揃っていく。その過程でサチが『誰だ。私がめっちゃ楽しみにしてた杏仁豆腐食べた人!!! 許せん!!!!(笑)』としか喋れないことも周りに浸透してきていた。
「之が杏仁豆腐ねぇ」
「ぜんそくの薬になるそうだ」
「おいしそう」
「領主様に献上しよう。確かご子息がぜんそくに悩んでいたはずだ」
ワイワイと叫ぶ住民たちと一つの事業を成し遂げて喜び合うサチ。
でもまわりの人々にはアカシックレコードを(以下略)。
領主様のご子息のぜんそくが綺麗に治ったということでサチはやっと杏仁豆腐を口にすることが出来た。可愛い領主の息子の感謝の言葉に頬が緩むサチ。その器に妙に見覚えがあるのはスルーしようと彼女は誓い、自らの為に住民たちが作ってくれた杏仁豆腐を口にする。
一口に含むと甘い感触とぷりぷりした触感が喉を通っていく。懐かしい。家族の事が愛しい。
「うん。美味しい」
「よかった。喜んでもらえて」
気が付くと母の前。
「え? え? どうなっているの?!」
慌てふためくサチに母はウインクしてこう答えた。
『誰だ。私がめっちゃ楽しみにしてた杏仁豆腐食べた人!!! 許せん!!!!』
母は皿を洗う手を止めて気取ってみせた。




