魔法少女になれそうにない3 真夏の奇跡
ここは東京都台東区浅草。
都外でも有名な隅田川の花火大会はあまり大きな花火は使えない。
演出の妙技を競う花火大会である。
その日も華麗な組み合わせの妙を職人たちや演出家は競い合う筈だった。
「どかん」
手違いで全部に点火されなければ。
白ける江戸ッ子たち。肩を落とす関係者。
虚しく鳴る音楽。ヤジが飛び出した。
「変身」
少女はすばやくスマートフォンを取り出す。
棒アイスのフィルムを剥がして暑気に逆らい清涼な香りと涼気を放つそれに小さな唇を近づける。
放り投げたスマートフォンの画面がすばやく展開。お天気アプリが起動。太陽のマークに曇りのマーク。雷のマークが目まぐるしく動き、人の形を取って踊りだす。
その中央に映るのは少女自身の映像。携帯に浮かぶ彼女の映像は、ヤル気のない彼女の本来の表情に反しアイドルのように営業スマイルを浮かべ、周囲の天候マークと共に踊りだしFINISH! 可愛くポーズを決めた。
「ま、ま」
少し赤面する少女。
「『まじかるぷりりんぷるんぷるん アイスの力だ会津オン』だよ。美沙斗ちゃん」
謎の声が響く。
その発生元の猫の絵を運動靴が踏みつけた。
『complete!』
スマートフォンの画面が輝き、音声を放つ。
少女のため息は唇から冷気を伴って漏れ、唇からあふれ出した白い白い氷の粒は彼女の身体を周回し雪の結晶となって舞う。
太陽の光と氷の粒とぶつかり鮮やかな虹色のプリズム光となって輝きアイスクリームの甘い香りと涼気が周囲を覆いその中央に立った彼女を包み。
やがてすらりとした長身の乙女がその中央に立った。いつの間にかキャバ嬢もビックリのハイヒールになっている。これは恥ずかしい。靴含めて170センチを余裕で超える。転んでおかしくない。というか靴擦れ確実。
ちなみに中身は少女。美紗斗氏のままである。
「さぁ。叫ぶんだ! 魔法少女みさ……」
ガッ。再び彼女のヒールが猫の絵を踏んだ。
変身と共に運動靴はヒールに。普通のシャツはドレスシャツに。スカートはミニスカート風のキュロットスカートに。
彼女こそ氷の魔法少女。名前は『恥ずかしいから公表するな』らしい。
楽しい花火大会がおじゃんになった事に悪態をつく観客たちはその日奇跡を見た。
「雪?!」
白く、清涼な気を放つ白い輝きが舞い降りてきたのだ。
小さな女の子が手を開く。ひやりとした優しい感触に思わず手を引っ込めて驚く。
「えっ? えっ? ナニコレ? チョースゴイ」
地方から出てきた着飾った娘たちが騒ぐ。
天を舞う霜が渦を巻き、音楽と共に街の輝きを反射して蒼く、紅く、黄色く、虹色へ変化していく。
「ちょ。写メ写メッ?!」
「俺も撮ったッ」
「tweet tweet!?」
「『凄い花火なう』」
暑気を吹き飛ばす清涼な氷の香り、鮮やかなきらめきを放つ氷の渦は空に広がり、星と絡み合い、隅田川の水面に吸い込まれていく。
「おじいちゃん。綺麗だね」
「うん」
孫娘が老人の浴衣の裾を強く握り、カップルが抱き合う中その小さな奇跡のショーは幕を閉じた。
一方そのころ。
その氷のショーを生み出した娘は母親にお叱りを受けていた。
自宅玄関にてゴキブリに大規模氷雪魔法をぶっ放したからである。
別に花火大会の主催者たちや見物客の為に何かしたわけではなかった。
母親から散々お叱りを受けたのち、簡単な買い物の為に外に出る美紗斗。
天を覆う霜と星の輝きは勢いを減じており、見物客たちが帰っていくのが見える。
「転んじゃった。ばんそうこう誰かもってない」
「……」
無言で美紗斗は怪我した子供にそれを差し出す。
ヒールの靴擦れの痛みを少し我慢しながら彼女は家路についた。




