魔法少女になれそうにない2 魔法少女はダウナー系
うだる様な酷暑。東京都台東区浅草駅前。
東武鉄道浅草駅松屋ビル前は今日もヒートアイランド現象でとんでもなく暑い。むしろ熱い。
このくそ暑い熱波と暑気は瘴気すら放つ破壊力にも関わらず、すぐそばでは当たり前のように水上バスが通り観光客のお父さんの禿げあがった頭を焼いている。
クーラーが効いているからって暑くないわけではない。暑いというより痛い。人力車のお兄さんお姉さんがスポーツドリンクを煽り、涼しいクーラーとそばの香りを尻目にお客さんを待つ。
二〇一三年。八月三日。
気温三十一度。湿度七十六% 降水確率二十% 風速五m。
気温は低いが蒸し暑い。雲はあるが余計うっとおしい。
一人の女子高生がアイスクリームを購入。
カップアイスの蓋をあけ、ぽいと蓋をゴミ箱に投げ入れる。地味に偉い。
少々面倒くさそうなヤル気のない顔立ちの少女は歯でぴりりとカップアイスの木製スプーンの包装紙を破る。
細い指がスプーンに絡みつき正位置に。彼女は歩きながらゆっくりとアイスクリームにスプーンを近づける。
暑気に逆らい清涼な香りと涼気を放つ白い輝きは廃材から生み出された白い板と擦れ合いゆっくりと溶け一塊の小さなきらめきと共に少女の唇に吸い込まれていく。赤い舌に触れたそれは体温を奪うとともに本来の液状へと戻っていくかに思われた。
……が。
「変身」
少女はすばやくスマートフォンを取り出す。画面がすばやく展開。お天気アプリが自動展開する。
太陽のマークに曇りのマーク。雷のマークが目まぐるしく動き、人の形を取って踊りだす。その中央に映るのは少女自身の映像。ヤル気のない彼女の本来の表情に反しアイドルのように営業スマイルを浮かべて周囲の天候マークと共に踊りだし可愛くポーズを決める。
それを見ていた少女は心の底から嫌そうに大きくため息を放った。口元からアイスの残滓が落ちそうになる程度には。
嫌そうに彼女の唇が言葉を放つ。モノを食べながらなのでお行儀が悪い。
「まじ……まじ……」
頬に少し朱が差す。
「『まじかるぷりりんぷるんぷるん アイスの力だ会津オン』だよ。美沙斗ちゃん」
突如謎の声が響く。驚いた人力車のお姉さんが周囲を見回す。
がつ。
少女の運動靴が地面の猫の絵を踏んづける。
『complete!』
スマートフォンの画面が輝き、音声を放つ。
少女のため息は唇から冷気を伴って漏れ、唇からあふれ出した白い白い氷の粒は彼女の身体を周回し雪の結晶となって舞う。
太陽の光と氷の粒とぶつかり鮮やかな虹色のプリズム光となって輝きアイスクリームの甘い香りと涼気が周囲を覆いその中央に立った彼女を包み。
やがて『別人』がその中央に立った。
中身は少女。美紗斗氏のままである。
「さぁ。叫ぶんだ! 魔法少女みさ……」
ガッ。再び彼女のヒールが猫の絵を踏んだ。
変身と共に運動靴はヒールに。普通のシャツはドレスシャツに。スカートはミニスカート風のキュロットスカートに変化している。地味に動きやすくて動きづらい。主に見栄えの問題で。
少女はだるそうに肩を落としてつぶやき、とある建物の中へ。
「しんどい。スタバで休憩」
そして猫の絵が喋る怪奇現象を尻目に居眠りを開始。
「ちょ、ちょっと。美沙斗ちゃん。ちゃんと仕事しないと」
「給料出せ。残業代も出せ」
「魔法少女なんだから人の為に役立たないと」
「めんどい」
そしてクーラーの涼気の元、すやすやと可愛らしく眠りだした。
「もうっ?! 額に『肉』とか書いちゃうよっ?!」
猫の絵の台詞にも耳を貸さない。
先日の花火大会の喧騒に疲れた彼女はそのまま眠り込んでしまった。
「この間の花火、すごかったね」「だね」
子供たちが騒ぐ中、変身を解いた女子高生は歩を進める。
足元に子供が投げた小さなゴミがぶつかった。少し面倒そうな顔をする彼女。
そのゴミを拾ってゴミ箱に入れた。
頭を照れくさそうに掻いて歩む少女。
美紗斗の額には『肉』と書かれている。




