朝行き朝帰り一〇分旅行
旅行行きたい。
高校三年生、ウッチャンは微妙に疲れていた。
今日は日曜日だが英検があるので何処かに行くわけにはいかない。
自転車に飛び乗ってひゅうひゅうとどこかに行くのはなかなか爽快なのだが。
「……」
友人の兄から色々あって預かった妙な鉢巻を手に入れて一か月になる。
『合格祈願』と書かれたそのダサい鉢巻は『落ちない』力を持ち、結果的に飛行を可能にする。
『あれ? この話現代が舞台だよな?』
読者の皆様は疑問に思うかも知れないが事実である。
そこに。
「ウッチャン」
友人の声が聞こえた気がする。
気が付くといつもの光景が反転。空に蒸気機関車が飛び交い、砂の大地に帆船が走る妙な光景になっていた。
「説明を求める」
プラチナで出来た甲板に立って抗議するウッチャンに友人、いっしーはバツの悪そうな顔をした。
「『掴む』襷を使った」
彼はなんでも掴み取る妙な襷を所有している。
見た目はやはり『合格祈願』と描かれたダサダサの襷であり、これらの異能の品々は普段彼らの鞄の奥深くに封じている。普段は使うことはない。繰り返すが見た目がダサいのだ。
「異世界にいても相手の位置が特定できたら手繰り寄せることが出来るらしい」
なにそのチート。ウッチャンは巻き込まれたらしい。
砂上船の帆が大きく開き、水のように砂を掻き分けて彼らの乗る船は進む。
ぶわ。
近場の砂が大きく動き、砂の中から竜の頭が飛び出す。
竜は砂を振り回し、二人の衣服を大いに砂まみれにすると、バツが悪そうな表情を浮かべて大きな翼をはためかせて飛んでいく。
ふわりと空気が空間ごと揺らぎ、透明な波動が二人を打つが不愉快ではない。
ざざざ。砂が揺らぎ、波を作る。
砂の間から飛び出した砂鳥たちが歌を謳い、竜を称える。
「客人。また面白い話を聞かせてくれ。なんせ船旅は退屈でね」
近寄ってきた船員たちにネタが尽きたんだと告げるいっしー。
船員たちは暇つぶしに真の竜を称える歌を歌いだした。
振る舞われた飲み物を覗くと輝く星々が入っている。
恐る恐る口にすると、小さな星々が口の中でぱちぱちする妙な口当たり。
味はというと甘いとも苦いとも言えないが、何故か『美味しい』と感じる。
ふわふわと身体がざわめく妙な感覚。少し身体が浮いている。ちょっと面白い。
いかつい船員たちが甲板の上で不細工なクロール泳ぎを披露して宙を舞い、時々バタンとバランスを失って落ち、大笑いする姿はなかなかほほえましい。
説明を求めるウッチャンに今回の事件の発端を告げるいっしー。
以前異世界を救った体験を思い出し、「また変な世界に行きたいな」といって。
「『異世界を掴んだ』とか言わないよね」
「正解」
なんてことをしてくれるんだ。
「元の世界に戻れないの?」
「基本は良く知っているモノしかつかめない」
「落ち着いて、しっかり元の世界を掴むようにしよう」
「了解」
何気なく携帯を取り出してTwitterの位置情報を確認してしまうが、やっぱり異世界。位置情報は出ない。
いっしーはちょいちょいと襷を振るうが結果は芳しくなく、空に浮かぶ魚を釣り上げては船員さんたちのウケを取っている。
「そろそろ帰ろうよ」
「待って。なんとか元の世界に引っかかった。と思う」
思いのほか手ごたえが重くて引っ張れないと訴える相棒を手伝い、ウッチャンも襷を引く。
「なんか抵抗している」
「かまうか。引け」
英検試験に遅れたらたまらない。
ぐいぐい。ぐいぐい。
意外と抵抗が激しい。二人で一気に引き抜く。
反動で甲板に転がる二人の上に何かぶつかってきた。
ずぺん。
二人掛かりで引いた『物品』は知り合いの女子高生だった。
彼らは数時間。現実世界にして一〇分程度異世界に滞在することになる。
その多くの時間の用途は元の世界への帰還への努力ではなく、知り合いへのSEKKYOU対策であった。




