『芋ケンピ』を両親が貰ってきたので世界を救ってくる
佐倉サチは頭を抱えた。
「なにこれ~??!」
サチの目の前には熊。……の死体。
「なにって言われても」
不思議そうに『冒険者』を名乗った少女は呟いた。その隣には可愛らしいツリ目の男の子。
曇天に覆われた空はサチの知る日本の空と異なり、トンでもない寒さの風を情け容赦なく彼女にたたきつけている。下半身が一気に冷え、スパッツを履いていないことに気がつくサチ。
「さ、さ、寒い」日本も冬場で寒かったが。
「寒いの?」
ツリ目の子。年齢は六歳位が呟く。
「うん。うん。寒い。たすけて」
ガクガクと頭を振るサチ。今日はろくな目に遭わない。
少年は黙って彼女に背中のマントをスカートのように撒きつけてくれた。
「妖精の装備だから、暖かいと思う」少年はそう呟く。
少女は少年の頭を黙ってなでた。照れる少年。
「ようせい?」
問いかけるサチに首肯する二人組。
「さっき、熊から助けてあげたじゃん」その熊はいまや鍋になっている。
強烈な悪臭にドン引きするサチだが、ポイポイと二人が葉っぱを入れて行くと美味しそうな香りになった。
ほうほうと梟かナニカの声にとまどうサチ。
空気の冷たさと、ナニカに見られている恐怖に震えるサチを尻目に、二人の『冒険者』は熊鍋を食べている。
くう。
サチの腹がなった。
「ほしければ、その袋の中のモノ頂戴♪」
赤い髪の少女がおどけて微笑んだ。
芋ケンピというお菓子がある。
サツマイモをフライドポテトよろしく細く切って甘くフライにしたものだ。マクド○ルドのポテトとちがってサツマイモで、塩じゃなくて砂糖だが。そしてその硬さはそこそこある。
サチの両親が祖父母にサチを預け、デートに旅立った後、『お土産』と称して持ってきたのは大量の芋ケンピだった。
「こんなに食べれるわけないじゃない」サチは膨れた。祖父母は優しかったが帰宅してから少々寂しかったのは事実だ。
「あら。大丈夫よ」「サチなら食べれる」
「ひっど~い!」
それからの記憶がない。
気がついたら森で黒い化け物に追われていた。熊だと解ったのも助かったからである。
「おいしいね♪」「うん♪」
美味しそうに芋ケンピを頬張る可愛らしい二人の自称『妖精』に微笑むサチ。
「お礼にそのマントあげる。あとこの森は危ないから、エルフの里に送ってあげるね」
子供たちは手を振る。気がつくとサチは一人森の中に取り残されていた。
「アン……ちゃん? ピート……ちゃん?」二人の名前を呼ぶ。
「アンジェリカが言う娘は貴女?」
背後から声をかけられた。燐光を放つ女性。
「その『いもけんぴ』という食べ物、私もわけてもらえるかしら?」
不思議な靴を貰ったサチは下半身が馬の青年に案内されて街に向かった。青年の歩みは速く。ごうごうと風を切る。って。
「と、飛んでるじゃないっ?!」
「うん? ケンタウロス族の『風の蹄』を知らないのかい?」
知るわけがない。
お礼を言うサチに「お礼よりも」と微笑む青年。
「はい。芋ケンピ一つだったっけ」
「うん。ありがとう」
「綺麗な森」
サチの口元から笑みが洩れる。
いつぞやの森は暗いし怖いし、死体のにおいのする酷いところだったけどこの森は鳥が謳い、せせらぎは清涼で、優しい香りが心を満たしてくれる。
「ねね。ケンタウロスのボブがおいしいものを貰ったって言ってたけど」
急に少女が絡んできた。何処から現れたのだろうか?
「私も欲しいな。『いもぺんぴ?』」
「芋ケンピ?」
火竜の化身の少女は嬉しそうに首を前に振って見せた。
古ぼけた木の実の首飾りを貰ったサチはその足取りを不思議な宿(?)のような建物に進めた。店主たちはとても親切で優しく、サチの世話をしてくれると約束してくれたが。
「なんか、フレアがおいしいものを貰ったって」
「……どうぞ」
また、芋ケンピ。
元の世界に戻りたい。
サチは宿の店主のツテでこの国一番の魔導士に掛け合った。
「異世界の旨い食い物をもっておるというではないか」老魔導士は微笑んだ。
元の世界に戻る魔法には『天使の羽』が必要らしい。
頭を抱えるサチの隣で店主もまた頭を抱えていた。
「妖精の靴があれば姫様にかかった石化の呪いを解けるのにッ!」
……ん?
サチは頭を抱えた。
膨大な報奨金を貰ってもこの世界の人間ではないので嬉しくはない。
「それよりはやく元の世界に戻りたいんですが」サチの訴えはごもっとも。
「ならば、王家の宝である『ユニコーンの角』を差し上げましょう」
そんなもの貰っても困る。そういったサチだが、押し切られた。
宿に戻ったサチだが、店主どころか店中の人々が泣いている。
「ティア!!」
「チーアッ?!」
店に出入りする冒険者が邪神との戦いで異次元に散ったという。
「神馬、ユニコーンならチーアを連れ戻してくれるのにッ?!」
チーアと呼ばれる少女はサチにもよくしてくれた。悲嘆に暮れるサチの襟を白馬が噛んだ。
「その角を、少し貸してくれないか」馬が喋った。
「あれ? 俺なんで生きてるの?」
不思議そうにするチーアに微笑むサチ。
白馬に「しゃべるな」と口止めされているので何も言わない。
「命の木の実と、妖精のマントが後一枚あれば邪神の攻撃を防げるのに」
二枚はあるが、後一枚がないらしい。
三人の冒険者とともに悩むサチだったが。ふと自分がスカートにしている布のことを思い出した。
「あっ?!!」
邪神は見事に封印され、異次元に消えたという。
なお、命の木の実は、サチが持っていた首飾りだったことを追記しておこう。お礼を言うチーアはマントに刺した一枚の羽根をくれた。
「サチ。これ、知り合いがくれたんだ。『天使の羽』らしいけど、いる?」
サチは首を縦に振った。図らずしもそれは捜し求めていたものだった。
芋ケンピというお菓子がある。
サツマイモをフライドポテトよろしく細く切って甘くフライにしたものだ。マクド○ルドのポテトとちがってサツマイモで、塩じゃなくて砂糖だが。そしてその硬さはそこそこある。
サチの両親が祖父母にサチを預け、デートに旅立った後、『お土産』と称して持ってきたのは大量の芋ケンピだった。
「こんなに食べれるわけないじゃない」
サチは膨れた。祖父母は優しかったが帰宅してから少々寂しかったのは事実だ。
「あら。大丈夫よ」
「サチなら食べれる」
「ひっど~い!」
「だってほら。もうあと一個じゃない」
「あれ? いつの間に?」
いぶかしむ両親にサチは微笑んだ。
「『みんな』おいしかったって♪」
甘くて硬い歯ごたえの芋ケンピをかじりサチはニッコリ微笑んでみせた。