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6 宇宙戦争です

遅くなりました。

現在、私は最悪に近い体調(強制入院の一歩手前)のため、次話の投稿時期はまったくの不明です。

教訓。身体に異常を感じたら早めに病院へ行きましょう。

 移動グリップに導かれた先は無重力の広間だった。

 ぶつかっても怪我をしないような柔らかなロープが縦横に張り巡らされ、移動の補助となっている。ロープは規則正しく色分けされ、自分が向いている方向を教えてくれる。

 俺はどこのロープにも触れず、宙に浮いたまま慣性だけでそっと進んだ。

 自分の身体で体験する無重力。心が踊る…はずだ、本来ならば。

 だが、今の俺には高鳴る胸の鼓動を生み出す心臓がない。殺人機械に襲われて痛くなる胃もなければ、仲間を傷つけられて煮えくりかえるハラワタもない。

 蘇っている様に見えても、今の俺の状態はせいぜいアンデッド。腐っていない分だけゾンビよりはマシな程度の存在でしかない。

 しかし、先程の殺人機械は最初は俺を狙って来た。

 こんなただの市販品であるらしいダッチワイフを壊して何の意味があるのか理解しかねるが、殺人機械の背後にいる『何者か』が入手した情報が限定されていると仮定すればそんなにおかしな事でも無いだろう。

 蘇った死者(という認識が相手にあるかは疑問だが)に関わる物体であるこの身体を入手すれば何かわかると考えたか、あるいは単純に研究の邪魔をしようとしたか?

 そこまで考えて、俺はリチャード側の対応に思い至った。

『敵対者』が誤解から何の役にも立たない目標を攻撃しているならば、俺ならば放置、あるいは囮にする。

 現状はそれではあるまいか?

 俺は別に問題ない。この身体が壊れても男性型ボディに変えてもらうチャンスでしかないし、もともとただの死者だ。あの世に帰るのはむしろ当然の事。

 だが、ジュディやオットーはまだ生きている。あまり嬉しくは無いが、あの変態もだ。それにこの宇宙基地には俺が会っていない人間がまだまだいるはずだ。


 守ってやらないとな。


 遠い未来の子孫たちのために、守護霊の役割ぐらいはしてやっても良いだろう。

 俺は自分の今後の行動方針を決定した。




「こっちだ」

 黒人男は慣れた手つきでロープをたぐり、無重力空間を華麗に泳ぐ。

 俺は必死でそれに追従するが、遅れがちだ。片腕に怪我人を抱えているためでもあるが…

「俺は無重力初心者なんだ。少しは手加減してくれ」

「ずっと重力下で暮らしてきたのか?」

「ああ、無重力なんてこれが初めてだ」

 俺が言うとオットーは笑った。

「だったら、この基地までどうやって来たんだ?」

「この身体はついさっき手に入れた物だからな」

 俺がかえすと、彼はバツの悪そうな顔をした。無重力を体感できないような難病か、身体の欠損でも想像したのだろう。ま、死んでいたというのは究極の身体欠損ではある。


 司令室。…正式には宙港指揮管制センターと言うらしい。

 閉鎖された隔壁を幾つも乗り越え、俺たちはようやくそこに到着した。途中で通路を警備する二人組に出会ったが、あまり兵士という風では無かった。武器らしきものは持っていたが、熟練度も風格も足りない。宇宙の戦士どころか、交通整理専門のガードマンがいいところだ。

 室内に入ったとたん、ジュディが俺の腕から奪いとられた。即座に治療に回される。

 室内のすべての視線が俺たちに注がれる。

 人数は30人ほど。『国際色豊か』と表現したくなるぐらい多様な人種が集まっている上、星際色まで豊かなのかも知れない。21世紀の人間の標準とかけ離れた身長の人からメカメカしいサイボーグまで色々いる。

 思わずネコミミやシッポを探してしまったが、さすがに居なかった。

 仕事中に見えるのはほんの5、6人だ。残りは非常事態と聞いて集まって来た人たちなのだろう。

 残念ながらこの司令室の中も統制がとれているととは言い難い。明確な指揮官が存在しないようだ。

「ヤバイぞ、オットー」

「今度は何だ?」

 オットーが頼りにされているのは間違いないが、彼が公的な役職についている様子が無い。ヤバイと言うなら、この司令室の中の組織図が一番ヤバイ気がする。

「つい先ほど、当基地から300kmの至近距離に人工物体が発見された。高度なステルス機能を持っているのか、突然その場に現れたとしか思えない有り様だ」

「相対速度は?」

「ほぼ同調されている。ゆっくりと接近中。このままだと一時間とたたないうちにここへ着くな」

 300kmが至近距離なのか? 時速300kmがゆっくりなのか? 色々ツッコミたい所ではあるが、宇宙基準だとその通りなのかもしれない。

「人工物からの通信は?」

「無い。直接本部棟へ行っている可能性はあるが、こちらは完全に無視されている」

「目で確認したい。光学カメラの映像をスクリーンへ」

「了解」

 司令室の正面には情報共有用の巨大なスクリーンが一枚、実は他には何もない。オペレーター達は網膜投影か何かで自分にしか見えないものを見て、空中に手を踊らせる事で情報入力をおこなっている。

 そのスクリーンに星々の輝く宇宙空間が映し出される。

 視界は回転拡大し、目標物を捉えた。見憶えのないシルエットだが、細部を見るとそうでもない。

「これは、さっきの奴か?」

「はい。汎用関節ユニットの集合体のようです」

 俺のつぶやきにアリスさんが答えた。わずかな間をおいて続ける。

「4351型ブースターユニット、ターレット型感覚器官など、先程の襲撃者が持っていなかったパーツも使用されています。また、パーツの数量も襲撃者とは違います。スクリーンに投影されている物一体で襲撃者100体分以上のパーツが使われていると推測されます」

「つまり、殺人機械100体がここへ接近中だって事か?」

「その可能性は存在します」

 周囲の人間が息をのむ。別に内緒話をしていた訳でもないが、俺たちの会話は皆に聞かれていたようだ。

 オットーが声を張り上げる。

「通信に応じない殺人機械の類似物か。これより、目標の物体を敵性と判断して行動する! サガラ、物体の名称を決定してくれ」

「俺が?」

「構わんだろう?」

 何で俺が、と思わないでもないが、拒否して押し問答する暇はなさそうだ。

 100体の集合体ならペリュ…とも思ったが、元ネタがはっきりしている方にしておこう。

「べリアル、悪魔の名だ」

「よし、これより目標の物体をべリアルと呼称する。迎撃態勢を」

「迎撃と言ったって、この基地には個人用以外武器なんてないぞ。宇宙(そら)を飛んでるやつになんか何もできやしないって。…で、そこの美少女は何者です?」

「彼女はサガラ・コタロー。コタローと呼んでくれ、との事だ」

「それなのにオットーはサガラ呼びなんだ」

「それ以外の呼び名は禁止、と直接言われたからな」

 ヒュー、ヒュー。

 口笛や冷やかしが大量に飛んできた。

 黒人男はニンマリと、とても良い笑顔を浮かべていやがる。

 色々と反論、反撃したいところだが、今は時間が惜しい。奴を睨みつけるだけで済ませたが、カエルの面に水ほどの効果もない。

 グヌヌヌヌと、背中に漫画チックな効果音を入れたい気分だ。

「俺たちのことはいい。べリアルを宇宙空間で迎撃することが不可能なら…」

「何かないのか? クジン戦訓とか」

 オットーのセリフを俺はさえぎった。

「?」

「効率的に造られた反動推進機関は同じぐらい効率的に造られた武器にもなる」

「いや、この基地は移動とかできないから」

「別に推進器でなくともいい。レーダーでも通信機でも、要はべリアルを破壊可能なだけのエネルギーを放出できればいいんだ」

「生身で浴びたら危険なぐらいの電磁波は出せなくもないが…」

「クジン戦訓か、その発想もらったよ。あたしらが出る」

 積極的に断言したのは身長1メートルほどの大人の女性だった。よく見ると彼女の周りには同じぐらいの身長の男女が集まっている。その全員が気密性の高そうな装備を身に着けている。あれが未来の宇宙服なのだろうか?

「タグボートに脚を装備しておいて。嬢ちゃんの言うとおりだ。アレを収束率最大で噴射したら、大抵のものは破壊できる」

「しかし、危険だぞ」

「殺人機械と生身で肉弾戦するほど危険じゃないさね。あたしらピグニーはGに耐えてこそだ。タグの装備、頼んだよ。…行くよ、みんな」

「ガッテンだ」

 小人たちはやくざの討入りの勢いで空中をすっ飛んで行った。

 ピグニー、と名乗った割に彼女の顔立ちはアフリカ系ではなかった。体の小ささにより高い対G能力を付与された後世の遺伝子操作人間なのだろうか?


 正面のスクリーンが分割され、どこかの格納庫が映し出される。

 あれが、タグボートか。

 口に出していう訳にはいかないが、球形の本体から二本の腕が突き出ているという強さを感じさせないデザインだ。腕が球体の赤道あたりについているし、もちろん頭頂部に砲塔もない。どこかの連邦軍の丸い棺桶とは別機体であるのは解るのだが…

「脚がついてないぞ」

 しまった、つい口走ってしまった。

「脚がない? そんなはずは…」

 いかに名セリフでも1000年もたっていては巨大ロボットアニメネタだと気付かれるはずもないな。

 オットーは特に不審に思わずに解説してくれた。

「あれが脚だ。補助推進装置つきの作業アームの事を『脚』と呼んでいるんだ」

「ややこしいな」

 現場での隠語が第三者には解りにくいのはいつの時代でも同じか。それにしても、二本の作業アームとは別に二本の脚を付けておいてくれれば俺の不安も少しは解消されるのだがな。


「タグボート、1から5番。各機パイロットの搭乗を確認。格納庫減圧を開始します」

「緊急事態中だ、構わん。大気圧そのまま。ハッチ開け」

「了解。手順省略、ハッチ開きます」

 大スクリーンの中で大気が渦を巻き、何かのごみと一緒に宇宙空間に吸い出されていく。

「べリアルの解析結果でました。べリアル単体での惑星間以上の長距離航宙は不可能。付近にブースターユニット、もしくは母艦の存在を推定」

「なんだと?」

 ステルスして隠れている母艦がまだいると?

 いや、その場合、べリアルが見えているのがなぜかと問う必要がある。

 俺は声を上げた。

「役目を終えたブースターをステルスしておく理由はない。見えているベリアルは囮だ。敵はまだ他にいるぞ」

「しかし、探知できない」

「全天を光学探査だ。手の空いている者は全員外を見ろ。可視光線によって敵を発見するんだ」

 オットーが指示を飛ばす。

 皆が眼鏡をかけたり空中でコマンド入力をしたりする。そうやって、外を見ている。俺にはそんな機能はないが。

 スクリーンの中でタグボートたちが宇宙に発進してゆく。彼女たちがうまくやれたとしても、別方向からの敵が基地にとりついたら、何の役にも立たない。

 俺には外を見る機能がない。

 本当にそうか?

 そんな訳ないな。

『外』を見て、小惑星イトカワを発見したのはつい先ほどの事だ。

 チート級能力をこの上なくはっきりと衆目にさらすことになるが、仕方ないだろう。

 オットーは敵を目で探せと言ったが、敵が古典SFに出てくる潜入用快速艇のように完全な『黒』で塗られていたら目による発見もほとんど不可能になる。


《アカシックゲート レベル1 開放》


 俺は超常の視力を発揮する。

 このゴル宇宙基地から離れてゆくタグボートたちが見えた。彼女たちに何かしてやれるような気がした。


《アカシックゲート レベル2 開放》


 俺は超常の力でタグボートたちに触れた。

 小人のパイロットたちが騒ぎ出す。

「司令室、そちらでやってくれたのか?」

「何のことだ?」

「こいつの脚に照準装置が追加されている。噴射炎の収束率のデータもおかしいよ。これなら脚にビーム兵器が追加されたようなものさ」

「訳が解らん。親戚の小人がプレゼントをくれたんじゃないのか?」

「そこまで小さな親戚はいないよ。まあいい、どんな奇跡か知らないがありがたく使わせてもらう」

 守護霊の加護だ。ありがたがって使ってくれ。


 それにしても《アカシックゲート》のレベル2は、アカシックレコードの書き換え=現実の改変かよ。自分でやった事ながら、チートにもほどがあるとつくづく思う。と言うか、現実のソースコードの改変なんて、本来の意味での不正改造(チート)そのものじゃないか。

 俺は軽く力をふるってレベル2の能力のほどを確認する。

 現実の大規模な改変は不可能なようだ。

 タグボートの腕を改造してビームライフル装備には出来るが、新しく脚を生やして人型にするのは無理。その程度だ。

 そしてもう一つの限界を発見。この力が使えるのは俺自身か俺に味方する者に対してのみ。敵対勢力あるいは俺が敵意を持っている相手には使用不可なようだ。

 ベリアルを直接改変して俺の支配下に置いてやろうと思ったのだが、残念だ。


 さて、《アカシックゲート レベル2》なんて物に目覚めてしまったため後回しになったが、俺の本来の目的は隠れている敵の発見だ。

 俺は《レベル1》の力で基地の外に視点を確保する。瞬かない星々を眺めて、宇宙の広さにうんざりする。

 普通の目で見るように索敵していたら、時間がいくらあっても足りなそうだ。

 俺の能力が宇宙の記録を見る力なら、こういう使い方があってもいいだろう。俺は付近の人工物を『検索』してみた。

 発進した5隻のタグボートが見えた。

 彼女らは長距離からビームで狙撃している。

 対するベリアルはボートと同数の5つに分離。無人機ならではの細かな動きで攻撃をかわしている。

 他には宇宙基地周辺ということで小さなゴミレベルの物体がいくつか。

 あとは…


 見つけた。


 母艦やブースターは見当たらないが、ベリアルの同タイプがもう一機、隠れている。

 広い宇宙でただひとつしかない隠れ場所。連邦の白い悪魔をはじめとして数々の宇宙の英雄達が身を潜めた場所。


「いたぞ、オットー。敵がもう一機、太陽を背にしている」

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