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4 なんて恐ろしい反地球

すいません。少し遅れたうえにやや短めです。

 TSキャラに対する考察。


 俺は部屋を出る前にもう一度身だしなみを確かめる。そして、自分の行動が女性のそれだと感じて不機嫌になった。

 外見が女性だと中身が男でも、女性らしい行動をしなければならないと社会的な圧力がかかる。それはもう経験した。

 あの変態の醜態だ。

 思えば俺にも責任の一端はあった。魅力的な女が裸のままいつまでも目の前に寝転がっていれば、男ならそれは理性が飛んだりもするだろう。そういう事態を避けるためにも、俺は女性らしい『恥じらい』を発揮しなければならなかったのだ。

 ま、俺が恥じらわなければならない状況を作ったのは奴の自業自得だから同情してやるつもりは無いけどな。

 というか、もし奴がもう一回手を出して来たら、今度は遠慮無く蹴りつぶす。

 男の身体で潰しちまったら大問題だが、女の身体でなら遠慮する必要は無いだろう。うん、そう決めた。

 しかし、だ。

 俺が女の身体である限り、俺は常に男の視線を気にしない訳には行かない。正負どちらであれ、自分の見た目が男にどんな影響を与えるか意識し続けなければ、またどこかでトラブルを誘発するだろう。

 女性が化粧や服装選びに異様なまでに時間をかけるのは、けっして理由の無い事ではなかったわけだ。

 世のトランスセクシャル主人公たちは、常にこういう社会的圧力に身を晒しているのだ。と、俺はしみじみ思う。

 そして、社会的圧力に負けた者から心のチンポまで喪って行くのだ。

 なんて恐ろしい!

 俺はなるべく早く男性型ボディを手に入れようと、硬く硬く決心した。


 それはさておき、このダッチワイフボディを起動した部屋から出ると、そこは長くまっすぐな湾曲した廊下だった。

 なんの事か、って?

 左右方向へはまっすぐだが、先へ行けば行くほど上に向かって湾曲していただけだ。一目見ただけで『ここは宇宙基地の内部ですよ』とわかるような、遠心力という言葉を象徴するような光景だ。

「しかし、ずいぶん寂しい廊下だな」

「はい。ここ研究棟は現在あまり使用されていません」

 幅の広い廊下だというのに人間もロボットも何も通っていない。

 俺はアカシックな視力を使って、左右に並ぶ扉の向こうを覗き見た。

 アリスさんの言葉を裏書きするように、そこはまったくの空き部屋か見知らぬ機材が詰め込まれた倉庫のどちらかだ。一室だけ大きなマットレスが敷かれた部屋があったが、精神衛生上それの用途は考え無い事にする。

《アカシックゲート》は便利なチート能力だが、あまり使っているとボロを出しそうだ。当面は秘密にすると決めた以上、使用の方も最低限にしておこう。

 俺は適当な方向へ歩き出しながら声をかけた。

「アリスさん、この基地について教えてくれないか?」

「了解しました。ここの名称は第195ゴル研究宇宙基地。軌道要素は…」

「それは数字を聞いてもわからないな」

「はい。地球とほぼ同一の軌道上を太陽を挟んだ反対側で回っています」

 やっぱり、か。

「この基地の構造は? 大雑把でいい」

「第195ゴル研究宇宙基地は第1から第4までの4つのリングと中央スペースポートから構成されています。各ブロックはそれぞれ独立した動力と生命維持装置を備えていて、非常時には各ブロック単独での行動が可能となっています」

《アカシックゲート》の力で見たとおりだ。


 アリスさんの話によると第1から第4までのリングはそれぞれ、本部棟、特別棟、研究棟、一般棟と呼ばれているそうだ。

 本部棟はあの触手男(リチャード)がいるところで、基本的に長命者以外は立ち入り禁止。指令室と偉いさん用の居住区を兼ねた存在らしい。

 特別棟は宇宙(そら)ホタルの採取装置をはじめとする特殊な機材が置かれているところ。俺の本体になっているハードもここに置かれているらしい。

 研究棟は今俺たちがいるところだ。本来なら多数の研究者が入っている予定だったが、研究対象が『俺』ぐらいしかないという事で閑古鳥が鳴いているらしい。研究者が全くいないわけではないらしいが、本部棟の宿泊施設を利用すれば十分、だそうだ。

 一般棟はスペースポートをはじめとする各部の保守整備を担当する人員の居住区らしい。ここの住人はほとんどが短命者だそうだ。短命者が労働者階級になっているのは間違いなさそうだ。


 色々解説してもらったが、古い時代からのSFファンにとってはとても重要な問題が残っている。

「ところで、この基地の動力源は何だい?」

「普通に電力ですが…」

「電力を生み出す方法は? 1000年以上の未来なら対消滅か、それとも縮退炉でも出来上がっているか、まさか真空からエネルギーを取り出す方法が実用化されていたりは…」

「太陽光です」

「え?」

「基地の外壁で受けた太陽光を電力に変換し、余剰分は超電導リングに蓄えています」

 俺は目をパチクリさせた。

 まさか、普通の太陽電池とは。

 恒星間航行も可能な未来世界にしてはずいぶんとまた枯れた技術を…

 いや、恒星間はともかく超光速航行の技術は異星人のオーパーツ頼りだと聞いたから、こんな物なのか?

 俺は未練がましく続けた。

「未来世界なら、せめて核融合ぐらいは…」

「天然の核融合炉が目の前にあるのに、これを利用しない手はありません」

 ごもっともです。


「で、ここは何かな?」

 変りばえのしない無機質な廊下を歩き続けた後、俺たちは上が吹き抜けになったちょっと広くなった空間に出た。21世紀の知識から考えるとエレベーターホールのようだが、エレベーターにあたるものは何も見えない。

 いや、壁から何か生えている。

 何かの持ち手?

 壁から生えた持ち手。

 これって、アレか?

 某有名ロボットアニメで木馬の艦内の移動に使っていたやつ。

 珍しく俺の言葉に対する反応が遅れたアリスさんは頭上を見上げていた。

「問題が発生しているようです」

 言われて上を見ると、子供が落ちてくる。

 まだ小学校低学年ぐらいの少年だ。余裕のない必死の表情。

「大きな問題はありませんが、落下地点にいないように注意してください」

 そういわれても、いくら0.3Gでも、20メートルも30メートルも上から落ちてきて無事に済むとは思えない。子供の体重なら命ぐらいは助かるかも知れないが、打ち所が悪ければひょっとするかも。

 墜落災害の現場に遭遇するなんて、一生に一度あれば沢山だ。あ、その一生はもう終わっていたか。

 俺はアリスさんの助言と逆に落ちてる真下へ移動する。このボディは普通の人体より頑丈らしい。子供一人受け止めるぐらい、何とかなるだろう。

 が、俺が受け止めるより早く、子供の身体は突然出現したネットに包まれる。

 大きく減速して落ちてくる子供。

 これなら死にはしないだろうが、床にぶつかればそれなりには痛いだろう。

 俺は両腕で抱きとめてやった。

 子供が俺に触れた瞬間、足の下の床材が柔らかく変化していたようなのでいらない世話であったようだが。

「さすが未来世界、ずいぶんダイナミックな移動方法だ」

「いいえ、今のはあくまで非常時の対応です」

 俺の照れ隠しに対してアリスさんが白い目を向けた、ように思えたのはあくまで気のせいだろう。

 子供を受け止めたネットは役目を終えると空気中に溶け込むように消滅した。

 エネルギーネット?

 最初から大気中に揮発するような成分で作られていたのかもしれない。

「ありがとう、お姉ちゃん」

 俺の腕の中でませたガキが顔を赤くしていた。

 子供相手に『俺は男だ』と返すのも大人げない気がして俺は硬直した。

「こらぁ、待ちやがれクソガキ!!」

 かわりに頭上から声が降ってきた。

 厳つい大男が、こちらはきちんと落下せずに降りてくる。

 さっきの想像通り、艦内移動用のグリップをつかみ、また別の何かに片足を乗せているようだ。

 彼は最後の3メートルばかりを飛び下りて着地した。

 子供は俺の腕から抜け出し、俺の後ろに回って服をつかんで隠れている。

 完全に『女性に対して』保護を求める姿勢だ。

 生前の俺なら子供にここまで好かれなかった。

 大男は俺たちを見て恐縮したように頭を下げる。

「これは、別嬪さんがた、お騒がせいたします」

 これは…


 社会的圧力が現れた。


 生前の俺なら、背中に回っているクソガキを大男に突き出していたと思う。

 どう見ても悪戯をして逃げ回っている風だし、俺にとって近しいのは女子供ではなく肉体労働者風の大男だ。

 だが、子供に『やさしいお姉ちゃん』と思われて背中に隠れられると、それを突き出すのは…

 大男に対しても、一対一の状況なら『誰が別嬪さんだ、コラァ』と返せたと思う。

 しかし、子供を背中にかばっている状況でそれを言っても、説得力は皆無だ。


 俺は上を見上げるが、そこにあるのは天ではない。おそらくはスペースポートへ続くのであろう垂直移動用のシャフトだ。

 一般住人との初接触にして、早くも俺の男性性を奪い取りに来るのか。

 恐るべし、第195ゴル研究宇宙基地。

ストックが切れた上に、今回は体調不良と仕事の忙しさが重なってしまいました。

こんな事がないように次週はお休みをいただき「5 スぺオペの始まり」は12月15日19時に投稿の予定とさせていただきます。

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