0 死後の世界から
ここにはすべてに意味がある。
ここのすべてには意味が無い。
ここには悠久の時が流れている。
ここには如何なる時間も存在しない。
すべてがあるのは、何もないのと同じことだ。
ここはそういう場所。
すべてがあるがゆえに、何も存在しない。『自分』という存在も含めて。
そのはずだった。
ええっと、俺って誰だっけ?
確か俺って死んだはずだよな。
俺の名前は相楽虎太郎。太陽系第三惑星地球の日本という国に20世紀から21世紀にかけて生存していたはずだ。
俺の死に様はどんなだったかな?
そうだ、仕事でクレーン作業をしていて、吊り荷と仮設足場の間に挟まれたんだ。
一緒に作業していた奴らには悪いことをしたな。俺はすぐに意識を手放したから平気だが、そうとうにグロい有様になったはずだ。
想像しただけで胃がムカムカして…来ないな。今の俺には胃なんか無いから。
アレ? 誰かが呼んでいる…様な気がする。
こんな所で誰が話しかけてくるんだ?
《神》
なんだって? 神様?
いや、俺は信心薄いから。
《人間、制裁。汝、派遣》
なになに?
近頃、人間どもが調子こいてるから、ちょっと行ってヤキ入れて来い?
アッラーだかエホバだか便所神だか知らないが、そういう魔王か勇者みたいなのは自分の信者に頼めよ。救世主とかおだてあげればいろいろやってくれるんじゃないのか?
《否》
怒ったのか?
いや、便所神は大事だろう? 厠を護ってくれる神様だぞ。超重要な役目じゃないか?
《否》
《要請、否定。命令、否定》
要請でも命令でもないって言いたいのか?
じゃあいったい何だよ?
《通達、肯定》
通達って事は、ひょっとして俺の意思は関係ない?
《肯定》
さすが、汚い。神様、汚い。
身体がない状態でこんなことを言うのもなんだが、俺は今どこかへ移動している様な気がするんだけど…
《肯定》
これってひょっとしてアレですか?
いわゆるひとつの異世界転生というヤツですか?
《否定、肯定》
どっちなんだよ⁉︎
と言うか、異世界転生ならチート内容ぐらい先に選ばせろ!
《否定》
……。
こうして死後の世界らしき場所から、この俺相楽虎太郎の情報体は消滅した。
いや、情報体だからここから先の俺はここの俺から派生したコピー品で、ここの俺は元のまま。って可能性も高いんだが、確かめようが無いからな…
兎も角、次から俺の大冒険がスタートだぜ。