【08 罵り合いのネタ滑稽】
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・【08 罵り合いのネタ滑稽】
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「今日はクラスメイトたちの喧嘩を生配信します。ヤヤスケもくるくるも喧嘩してしまって。仲裁もしたんだが無駄で、いっそのことこのまま喧嘩してもらうことにした。ヤヤスケが男子代表で、くるくるが女子代表として罵り合う」
《なになに? 喧嘩だって?》
《ヤヤスケとくるくるが喧嘩なんてネタだろ》
と元々星見のリスナーがコメントを残したところで、うちのクラスのヤツだと思われるアカウントが、
《弥助やっちまえ!》
と書いて、ぶっちゃけ飲んでいたホットココアを吹き出しそうになってしまった。
だって、ここでは”ヤヤスケ”というハンドルネームでやっているのに、普通に本名を出したからだ。
ヤバイ、この流れは、と思った刹那、
《志田も文章でぶん殴れ!》
というコメントが生配信上に載って、正直ひぃっ! と思ってしまった。
志田で”くるくる”はもうほぼほぼ本名じゃん! 弥助みたいにみんなに呼ばれているほうをハンドルネームにすれば良かった。
星見のリスナーが、
《何か本名出てるっぽいけど大丈夫か?》
と言い、マジでそれな。
LINEのほうを見ると、そっちでもコメントが飛び交っている。サクラ勢も頑張ってくれているみたいだ。それに乗せられて原因の男子女子も書き込んでいる。
「それでは! 細かいことは気にせずに! 喧嘩文章書いていってくれ!」
細かいことは気にせずに、って本当そうなのかぁっ? もう完全に私のほうがデジタルタトゥーじゃん!
こんなに表舞台に立つ気は無かったのにっ! マジで私が一番のフロントマンじゃん!
そんなことを思っていると、早速弥助が動き出した。
《そもそも女子がイジメを始めた。起因するほうが悪いに決まっている。男子は合わせてやったに過ぎない。ただの協調性だ。》
それに対してはLINEのほうで、
《男子がセクハラしたせいだろ 直接的でキモかった》
と言ったところで、弥助が一気に動き、それを星見も音読していく。
《
”男子がセクハラしたせいだろ 直接的でキモかった”
そのセクハラにも乗っていただろ! ガンガン、セクハラビートに乗っていただろ! 裏拍で裏スジだっただろ!
全部女子のイジメが裏にいっていたんだろ! もっと表で快活に悪口言えよ! じめじめしやがって!
男子のターンでもまるで中盤でタクトを振るって! トップ下か! ニヤニヤ・ヘラヘラのトップ下か!
レッドで退場しても、ヘラヘラしているヤツかよ! ちゃんと正面から自分たちがやったことを受け止めろよ!
》
正直、星見に”裏スジ”なんて言葉、読ませてほしくないけども、まあ流れ上しょうがないか。
すると女子側がすぐに、
《志田! オマエも言ってやれよ! そもそものところセクハラ最低だったよな!》
ときたので、こっちも返さないとと思って、
《
つこ:セクハラ男子、キモっ。
ボケ:そういう人間なんで。
つこ:それで許されるはずないじゃん。
ボケ:股間が全てなんで。
つこ:いやだからせめて言い訳しろよ、開き直るな。
ボケ:結果が全てなんで。
つこ:で、不登校じゃ最悪の結果になってんだよ。男子のせいだろ。
ボケ:でもセクハラしたかったんで。
つこ:やっと会話したと思ったら会話になんねぇわ、脳がクソ過ぎる。
》
LINEのほうでは《脚本形式?》とか《星見も読むの巧っ》とかそういうメッセージも流れている。
サクラ勢が本筋とばかりに《マジで男子はチンコがあるからキモい》と書いて、そこでまた男子がヒートアップし、
《女子は悪口があるからキモい》
と生配信画面に載り、LINEのほうも《何でもチンコって言えばいいと思っていて低能》と書いたところで、今度は弥助が動く。
《
というかさぁ、男子を悪く言う時に”チンコ”って言えばいいと思ってんの、性別差別じゃん。
俺も好きで男子で生まれてきたわけじゃねぇし、男性性の押し付け辞めてくれよ。
それでいて女子のほうはニヤニヤは女子の専売特許のように使ってきやがって。
まあ確かにね、陰湿なのは女子のほうですから、ニヤニヤ・ヘラヘラは女子のモノだろうな。
テメェらが陰湿の華を開花させたおかげで教室の磁場がおかしくなったんだろ。
湿っていて濡れていてクセェよ、女子というものはよぉ。
》
最後のところ、考え方によってはマジですごいセクハラ毒舌だな。
勿論、弥助はコメントを引き出して、さらなる反論を狙っているわけだけども、ちょっと味方の私から見ても不快。
というか普通に星見に”チンコ”って言わせてしまっているし。男子側も実況を一人用意したほうが良かったのかもしれない。今更だけども。
《最後のとこ、ヤバいだろw》
と星見のリスナーがコメントし、即座にうちのクラスの女子だと思われるヤツが、
《結局男子って下ネタばっかり そういうことばっか考えているんだよ》
さて、私も反撃の漫才書くしかないか。
弥助とリアルタイムで直接LINEやり取りしているわけじゃないけども、もう何か分かる。ここはつーかーだ。
弥助が攻めたら、攻守交替で私が攻める。この感覚はしっかりあるし、向こうもあるんだろうな。
《
ボケ:セクハラって大人がすることなんで。
つこ:ザコしかやんねぇわ。
ボケ:むしろ何の得も無いのに本来味方である同性を攻撃するほうがザコじゃないか?
つこ:まずそのセクハラが得をするという思考、マジで犯罪者。
ボケ:セクハラ気持ちいぃー。
つこ:終わってんな。ちゃんと自分がやったこと顧みたほうがいいぞ。
》
《でも男子ってマジでこうだよね》
とうちのクラスの女子がそう書き込めば、星見のリスナーが、
《だからって確かに同性を攻撃するのも意味分かんないな》
と書き込み、LINEのほうでスクールカースト上位女子が《志田! 向こうへのパスになってんぞ!》という言葉が飛んできた。
別にパスになっていいし、むしろパスしてんだよ、マジでオマエが顧みるべきなんだよ。気付け。
男子側がLINEに、
《マジ同性に攻撃するのはカス》
と書いたところで、弥助が動き出した。
そろそろ二十五行を意識するのだろうか。オチとかってつけられるのかな。まああまりそういうことは考えずに書いていいのかもな、今回は。
《
クセェ、クセェ、どこまでもクセェ、本当にクセェ、
マジで教室内が無限にクセェ、ちょっとベランダまで逃げるか、うわっ、こっちもクセェ……何なんだよ、
クサさが染み渡り過ぎだろ……待てよ、これ、もしかすると、ちょっと待て、待て待て……あぁ、そうか、
俺の息がクサかったのか……気付かなかった、クサさのオーバーキルだった、いや自滅点だっただけだけども、
いや待てよ、本当に息か……俺の息って下過ぎないか、俺の息のクサさ、下過ぎるような気がする……おいおい、
チンコがクサいだけじゃねぇか、じゃあ逆に良いわ、チンコ臭くても誰にもバレないだろ、
さてと、女子にチンコ押し付けるかぁ……ってダメじゃん! チンコ臭かったらダメじゃん!
でもまあイジメていた相手だし、ギリ大丈夫かぁ……いやさすがに羞恥心あるわ!
いやいやイジメなんかする時点で羞恥心無くね? というかそもそも女子がイジメだしたからだし!
俺がイジメたくてイジメたわけじゃないし! 周りの空気を読んでイジメしていただけだし!
……ってそれなら男子が女子の格下ってことじゃん! ナシナシ! 今のナシ!
女子がイジメていたからイジメていいヤツだと思ったなんて、女子の命令に従っているだけじゃん!
そんなことねぇから! 男子のほうが強いから! ほら! 嗅げよ! この悪臭!
悪臭強いほうが強いだろ! なんせ強いんだから! なぁ!
》
オチというオチという感じじゃないし、バラシというほどじゃないけども、ちゃんと展開を作っていてさすがだと思う。
ただ星見に”チンコ”とハッキリ言わせることは良くないけども。まあ流れ上、仕方ないのかもしれない。
ここでクラスメイトたちのコメントもLINEも止まり、星見のリスナーだけがコメントを流す。
《あまりにも格下過ぎるw》
《確かに悪臭強いヤツには勝てないもんな》
どうやらサクラ勢もどういう一手を打てばいいか迷っているみたいだ。
でももうちょっとヒートアップしてもらってもいいんだけどな。そっちのほうがより滑稽になると思うから。
ならば、と私はネタを打ち出した。私はあと十行。
《
客A:そうだ! そうだ! 顧みろ!
つこ:いや漫才していたら口挟まれた!
ボケ:俺らって漫才してんだ。オマエ、すごいボケだな。
つこ:私がツッコミだから!
客B:そうだ! そうだ! ツッコめ!
つこ:野次が結構ズレてる!
ボケ:まあイジメなんてズレている行為だからな。
つこ:マジでツッコミみたいなこと言うなよ!
ボケ:やったヤツは全員悪だし。
つこ:悪側がそれを言うな!
》
う~ん、オチみたいなのは全然つけられなかったな。
やっぱりコメントを拾いながら作るの難しい。
するとサクラ勢が私のメッセージ付きのパスを受け取ってくれたようで、LINEで、
《マジで顧みろよ 絶対女子のほうが悪いから》
《違うから 顧みるのは男子のほうでしょ 男子が全面的に悪いから》
と”顧みる”で言い合いを始めてくれた。
するとスクールカースト上位女子がコメント欄のほうで、
《もっとしっかり男子を攻撃しろよ 何か中途半端だぞ》
と書けば、星見のリスナーが、
《いやどう考えても、どっちも最悪なのでは?》
というコメントを流すと、意気消沈といった感じで、スクールカースト上位女子たちも男子側も誰もコメントをしなくなった。
そのタイミングでまた弥助が動き出した。もう一本書く気だ。
《男子のセクハライジメ実況生配信。女子の指示通りイジメをする格下男子の日常。どっちかが悪いとしか思っていない思考停止人間。》
星見が煽る。
「おっと! ヤヤスケのいつものパターン! 案を書き連ねるヤツだ! どれもクリティカルなネタができそうだ!」
星見のリスナーが、
《今日はどれも読みたいなw》
《おれは格下男子の日常が良い》
《ドMっぽいなww》
と書いたところで、同時接続が六十人に達していることに気付く。
またしても良くないネットで晒されたみたいだけども、今回はそれも追い風だ。
《ヤバイことしていると聞きつけて来ました》
《イジメの糾弾生配信なう》
《今北産業》
良くないネット、ユーモアが古いなぁ、と思いつつ、弥助が動き出した。
《
最後の確認、最後の確認、えっと、これが、こうで、こうだから……あ、あっと、ポケットに設計図があったはず、
あ、落としちゃった、水たまりに……ま、ま、いいとして、いいとして……うわぁぁああ! はいぃぃいいいいいいい!
すみません! 女王様! ドン臭くてすみません! 今日から女王様たちの指示通りにとある女子をイジメるんですよね!
女王様たちが先にイジメてくださったので、その舗装された道路を我々男子が走ります! よろしくお願い致します!
さぁて! 女王様のおかげでイジメができるようになったぞ! 全ては女王様のおかげ!
つまり女王様がイジメの根源だから俺たちは何も悪くないんだ! やったぞ! イジメ放題だ!
女王様が作ってくださったイジメの流れに乗って! 俺たちはイジメを遂行する!
》
星見のリスナーが矢継ぎ早に、
《マジで両方どうしようもない案件》
《今回バラシが無いけども、見たいものは見れてるw》
と書けば、良くないネット勢も嬉々としているようで、
《何かリアリティあるわーーー》
《これマジの喧嘩をネタにしてるっぽい?》
星見のリスナーが答える。
《そうっぽい。コメント遡って見てほしい》
《ハンドルネーム文化知らないおこちゃまが本名っぽいの出しちゃってるし、マジだと思う》
良くないネット勢も過去のコメントを見たみたいで、
《うはっ生臭い青臭いガキの言い合い》
《禿同wでも面白くはなってきてるw注視w》
正直こういう人たちに”志田”とかバレたくないけども、もうしょうがない。
私もそろそろ書くか。弥助もきっとそう思っているだろう。
《
客A:はいどうも、よろしくお願いします!
客B:漫才頑張っていきましょう!
つこ:いや私が主役なんだよ!
ボケ:やっぱりイジメの主犯格が主役ということで。
つこ:女子全員でイジメていたわけじゃないわ!
ボケ:でも一緒になって無視していたら一緒だろ。
客A:そうだ! そうだ!
客B:そうだ! そうだ!
つこ:……って! 客A・Bも男子じゃねぇか! 男子の圧力じゃねぇか!
ボケ:男子は女子に体格で勝っているんで好き勝手にできます。
つこ:発想が最悪過ぎるんだよ!
ボケ:でもスポーツ抜群の男子たちには負けます。一人の女子に集団で圧力掛けるしかできません。
客A:そうだ! そうだ!
客B:そうだ! そうだ!
つこ:いや確かにそうだったけども! サッカー戻り男子たちにイジメを無に還されていたけども!
》
さて、そろそろ両方に悪口というのも良くないので、まともな男子たちもいたということを書かないと。
良くないネット勢が学校を特定して、教室内全員カス扱いになって、ネット上に全員晒されたら困るし。
良くないネット勢だと思われる人たちがコメントする。
《陰キャが一人の女子をイジメていたってこと?w》
《スポーツ最強説w》
星見が音読し終えたら、即座に弥助がネタを書く。
《
でも待てよ、イジメに参加していない女王様たちもいるぞ……どっちの女王様たちを信じればいいんだ……教えて! エロい人!
男子がイジメている時もニヤニヤと煽ってくるエロい女王様たちを信じなさい……かぁ。よしっ!
じゃあイジメを率先して始めたスクールカースト上位女王様たちを信じる!
スクールカースト上位女王様たちに無理やりイジメを強要されていた女王様たちのリアクションは見ない!
やっぱりイジメの女王様たちに命を捧げたい! Sっ気が強いほうが導いてくれるから! 快楽に!
あぁ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!
イッてしまった……イジメていた女子が教室からどこかへ行ってしまった……そこまでする気は無かったのに。
指示通り、ずっとじめじめとなぶっていようと思っていたのに、もう教室には来てくれなくなった……ヤバイ、
やり過ぎたか? 女王様たち! どうすればいいですか! いや! こっちが悪いんですか!
俺たちはただただ指示通りに動いた格下男子なのに! 格下なんですから! 俺たち!
思考停止人間なんですから! もう何をどうすればいいか分からないです!
教えてください! エロい人!
OK、女王様たちのせいにして責任転嫁しなさい……かぁ。よしっ!
女王様たちのせいだ! 俺たちは考える能力なんてないんだから、思考した女王様たちが悪い!
こっちは思考停止してシコシコ精子するしか脳が無いんだよ!
女王様たちに責任転嫁! そう、責任天下! そっちで責任の天下をとれ!
――格下男子は隠した、自分の罪を……。
P.S.男子は格下過ぎて、おもんない駄洒落を連発するしかなかったのです。おもんないから。
》
これはもう、完全に女子も男子もディスっていることは明確だろう。
その流れに私も乗っかる。
《
ボケ:まともなヤツには負ける。それがイジメ。
つこ:さっさと全て負けてくれよ!
客A:むしろ負けることに興奮しています。
客B:女王様たちー!
つこ:ヤヤスケのネタの男子だったんかい! 負けろ! 全て負けろ! 自分が悪かったって吐け!
ボケ:……いや! オマエ! 顔をよく見たらイジメを主導した女王様側じゃねぇか!
つこ:だから男子が悪いって言えば解決するだろ!
ボケ:いつまで責任転嫁してんだよ! もう両方悪いだろ!
つこ:男子が全面的に悪い! 女子は生きているだけで偉いから女子のほうが偉い!
ボケ:じゃあ最初から同性の女子をイジメるなよ! 根源が! あれだからな! イジメって集団ストーカーだからな! キモっ!
》
星見の演技にも熱が入る。
星見は四人まで演じ分けられると言っていたので、ちゃんとしっかり声色を変えて音読してくれた。
ただ女子三人・男子一人の声色だったので、最後のバラシでスマンといった感じだけども。
コメント欄は星見のリスナーと良くないネット勢だけで盛り上がり、スクールカースト上位女子たちと男子側は勿論、LINEのサクラ勢も完全に沈黙した。
正直ここからは星見頼むって感じなんだけども、果たして星見が上手くまとめてくれるか。いや絶対にまとめてくれ。
そう願っていると、星見が口を開いた。
「まあ現実はこんなお笑いじゃなくて深刻な状況なんだけどな、でもネタでも書いてある通り、イジメはしたヤツが全員一律で悪で。だから全員謝罪しないといけないんだ。イジメって、上から目線で言っているけども、くるくるの言う通り、ストーカーでキモいし」
良くないネット勢が《おっ説教パートおつw》と煽っているが、星見は気にせず続ける。
「その全員にはアタシも勿論入っていて、アタシは鈍感でイジメに気付かず、ヤヤスケが一回イジメを止めたという話を聞いても何も動けなかった。良い案が無かったんだ」
すると星見のリスナー勢が、
《一旦イジメを止めたスポーツ勢ってヤヤスケなんだ、推せる》
と書き込むと、星見がうんと頷いてから、
「そうだ、ヤヤスケとその友達たちな。口火を切ったのはヤヤスケだったらしい。でもそんなヤヤスケもその一回だけなんだよな、多分。結局完全に断ち切らせることはできなくて。くるくるも何もできなくて悔やんでいた。でも何もできなかったらやっぱり一緒なんだ。悔やんでいようと何もできなかった事実しかないわけだから」
多分良くないネット勢の一人が、
《でもマジな話、イジメなんて起きたら普通何もできないんじゃないか?おれの高校もそうだった》
そのコメントを読み上げてから、
「でもやらないといけなかった。いやだからこそ今回、こういう場を設けたんだ」
良くないネット勢が《もう遅せぇだろ》とか《本人いねぇじゃん》と煽ってくる。確かにその通りだ。結局これも自己満足かもしれない。
星見は一息ついてから、
「でもだ。何かやらないと変わらない。それも人は劇的なキッカケを欲する。だからこういう喧嘩の生配信を始めたんだ。お目汚し、申し訳無いです」
と頭をさげた。
ちょっとした間、誰も何もコメントを書かなかったのでまた星見が喋り出した。
「もしこの件でそのイジメられていた女子に謝罪したいクラスメイトがいたら、ヤヤスケのフォームから送ってきてほしい。他アタシや、まあもう分かっていると思うけども、アタシとヤヤスケとくるくるはグルなわけだから、アタシたち三人への文句でもいい。そもそも喧嘩するにあたってヤヤスケが男子の大将で、くるくるが女子の大将のはずがないんだから。どっちも率先してイジメていたわけじゃないんだから。挑発的なこと言わせてもらえば、そんなことにも気付かないほどイジメていた相手を不登校に追い込んで混乱していたんだろう。でも混乱していたということは罪の意識に苛まされている証拠だ。もし謝罪があるならヤヤスケのフォームに」
と言ったところでヤヤスケのリアルタイムテキスト画面が動き、URLが表示され、即座に星見が生配信のコメント欄にそのフォームのURLを書いた自分のコメントを固定表示させた。
「というわけでヤヤスケ、検閲しなくていいからフォームの投稿はアタシにも全部送ってほしい」
ヤヤスケのリアルタイムテキスト画面が動き、
《分かった》
と一言書かれた。
そんな感じで生配信は終わった。でも謝罪をフォームで送るヤツなんて本当にいるかな? そして送られたとて一体何なんだというところもあるし。
一週間後、奇跡は起きた。
なんと川辺ちゃんが登校を再開してくれたのだ。
昼休み、私は即座に星見へどういうことか聞くと、弥助も星見の席にやって来て、すると川辺ちゃんまでやって来たところで、星見が川辺ちゃんのほうを見て頷いてから喋り出した。
「元々アタシがSNSを始めたのは、川辺のSNSを発見したからだ。コンタクトをとるために始めたんだ」
川辺ちゃんがうんうん首を縦に振りながら、
「突然星見さんからダイレクトメールが来てビックリしました。そして偽物だと思いました」
「だからまずは顔出しの生配信をして、本人だということをアピールしたかったんだ」
そういう経緯だったんだ。
じゃあ、
「人気がほしかったのは?」
「人気がほしかったのはアタシが大きい存在になれば、いろんな意見も通りやすくなるかなって。まあそっち方面には展開的にならなかったけども」
と星見は淡々と答え、そのまま続ける。
「オープンな即興短文の時も川辺は見てくれていて。褒めてもくれていたから、あの時に自分の判断で喧嘩の生配信をすることに決めたんだ」
弥助が即座に、
「それは自分の判断だけなんだ」
川辺ちゃんはフフッと笑ってから、
「まあわたしとしては何でも良かったですから勝手な判断で大丈夫でした、どうせ私は無い存在ですし」
そんな悲しいこと言わないでと思いつつも、何もできなかった私はただただ心が軋む。
星見がまた川辺ちゃんの表情を確認してから、
「まあ反対されなくて良かったよ。で、やるならやっぱり玖瑠実と弥助のチカラが必要だからあういう感じになって」
すると川辺ちゃんが私と弥助の顔をそれぞれ見てから、
「本当に五木さんと志田さんのおかげです。というか星見さんも司会や煽ったりしていましたけども、ほとんど五木さんと志田さんのチカラですもんね」
星見も同意するように、
「それは勿論。玖瑠実と弥助の才能に全乗っかりでいこうと決めたんだ」
と何故かちょっと偉そうにそう言った。
すると弥助が、
「あっ、俺五木という苗字好きじゃないから、弥助って言って。それはそうと、まあ俺と玖瑠実のカロリー高過ぎだろ」
ん? 何か志田呼びから玖瑠実呼びになっている……いや別にいいけども。
弥助は続ける。
「でも玖瑠実は天才だよな、コメント拾うだけじゃなくて俺のネタも使ってしまうんだから。マジで玖瑠実が後攻で良かったよ」
ここは、と思って、
「いやいや、弥助が先陣切ってくれて助かったよ。なんせネタの方向性が分からなかったから」
川辺ちゃんは笑顔で、
「わたしからしたら志田さんも弥助さんも星見さんもヒーローです。有難うございます」
私は、
「で、星見と川辺ちゃんがSNSで繋がっていたから、謝罪のメールも送れたということ? というか謝罪のメールなんてきたの?」
星見は当たり前って感じで、
「マジで全員きたよ、何なら弥助の友達勢からもきたよ。他の女子たちも。勿論、玖瑠実の分も届いているよ」
弥助も同調しながら、
「そうそう。本当に全員からきたから焦ったなぁ、俺も書かなきゃとか思ってさ!」
川辺ちゃんは優しい声で、
「本当に三人のおかげなんです。それに星見さんがわたしを即興短文の生配信メンバーに入れてくれるということで楽しみなんです」
私は何だか嬉しくなってしまい、
「わっ! そうなんだ! 川辺ちゃんも! よろしくね!」
と声をあげれば、弥助も、
「えっ! そうだったんだ! でも人数が多ければ多いほど楽しいからな! よろしくな!」
といった感じで、これからの即興短文に胸が躍ってきた。
二十五行という短いネット長文こと即興短文。
まさか新しい仲間が入ることになるなんて。
私と星見と弥助と川辺ちゃんの四人で、その昼休みはずっと好きなお笑いの話をした。
川辺ちゃんはどうやらシュールなコントが好きで、小林賢太郎がずっと好きらしい。
それから勿論四人で即興短文をすることもあれば、星見が実況をやって三人で三つ巴バトルをする時もある。
そんな日々を過ごしているとある日、ふと放課後に弥助と二人きりになった時、弥助がこんなことを私へ言ってきた。
「そう言えば、玖瑠実って好きな人いるのか?」
それって、というかその台詞って、鈍感な人以外はもう意味が理解できる台詞で。
というか本当に弥助が鈍感じゃない限り、もうそういう意味しかなくて。
「私はいないよ」
と、できるだけ平常心で答えとくと、弥助が、
「じゃあいいや」
と言うだけでさすがにおいおいおいと思ってしまい、
「どういう意味で聞いてきたの?」
なんてつい深追い質問をしてしまった。さら問いと言うヤツかも。もう追及するくらいの気持ちだ。
すると弥助は急にドギマギし始めて、
「い、いや別に……」
とか言い出して、
「というか、何でいつの間にか志田から玖瑠実呼びになってるの?」
「それはいいじゃん、別に」
と何だかホッとするように言った弥助。
そうだね、一旦追及の手が緩んだからね。
でもさ、
「あの喧嘩の生配信の時を一緒に闘ったなら分かるでしょ、私別に鈍感じゃないんだけども、それってつまりそういう質問?」
弥助は何かおどけるように、
「そういう質問て?」
「逆にこういうこと女子に言わせようとしているの?」
「おいおい玖瑠実、こういうことに女子とか男子とかジェンダー差はもう無いんだぞっ」
と、えっへんというポーズをとった弥助。
いやもう、
「じゃあそういうことなんだ、弥助って私のこと好きなの?」
弥助は生唾を飲み込んでから、声を荒らげた。
「そ! そうだよ! 悪いかよ!」
「別に悪くないけども、普通星見じゃないの?」
すると弥助は吹き出してから、
「星見じゃないよ! 星見は独自路線じゃん!」
「じゃあ私は簡単に迎合できる相手ということ?」
「そういうことじゃない! というかやっぱりあの時一緒にネタを書いて頑張り合った玖瑠実が好きということだよ!」
私は何だか違和感を抱いて、
「本当にそのタイミング?」
と言ってみると、弥助が、
「まあ本当はもうちょい前から好きだったけどもっ」
と呟くように言って、何か可愛かった。
というかそうか、それなら、
「私は授賞式の旅行の時から弥助のこと好きだったから、私が先だね」
「マジで? じゃあ玖瑠実の好きに当てられたわけかぁ」
「当てられたって何さ、瘴気みたいに言わないでよ」
「俺は正気だよ」
「そういう男子のおもんない思考停止駄洒落は辞めてよ」
「喧嘩のヤツを引用するなよ」
と笑った弥助は、一旦真面目な面持ちになり、
「俺、玖瑠実のことが好きだ。今すぐ付き合うとか難しいなら全然待つ。俺のこと見定めてほしい」
「別に。好きって言ってるじゃん。だからって付き合うと言っても高校生が何するわけでもないよねぇ」
「まあなー」
と、そこで“まあなー”と言ってくれる弥助が有難い。
すぐに性的なことに結び付ける男子はNGだから。
「俺もそういうことは自分のお金でしっかり稼いでからだと思うよ。というか扶養の状態で何かそういうことってダサいよな」
「じゃあ一緒に春になったらバイトする?」
「えっ? 玖瑠実から率先してしたいってこと? さすくるー」
「さすくるじゃねぇわ、そういうことではないし」
「まあ即興短文もこれから一緒にやっていくわけだし、バイトで同じ時間を共有してもいいか」
「そそっ、バイトも結構面白いもんだよ」
「まっ、俺と玖瑠実は即興短文だな」
と何か決め顔で言った弥助に私は、
「いや星見と川辺ちゃんもいるよ」
とツッコんでおくと、弥助は、
「まあそうなんだけどもさ、俺と玖瑠実も即興短文なんだよな」
なんとなく察して、
「その心は?」
と聞いてみると、
「二十五行で一つ、つまり、ニコイチ(25・1)ってところだな」
「だから思考停止駄洒落おもんな男子辞めろって」
私たちの二十五行は無限だ。
(了)




