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【06 SNSアカウント】

・【06 SNSアカウント】


 朝のホームルーム前の教室で星見がふとこう言った。

「SNSアカウントってどうやれば人気が出るかな」

 私は正直固まってしまった、けどもすぐにこれが嘘というかボケということが分かった。

 あの星見がSNSアカウントなんてものに興味が出るはずない、と。

 星見はどこまでも現実主義で、形あるものしか信じないほうだから。星見の自己顕示欲は目の前の人間から羨望されなきゃ反応しないイメージ。

 とにかくそれが今までの星見であり、これからの星見だと思う。

 ということは冗談の類だと思って、

「やりたいように運用すればいいんじゃないの?」

 と軽めに言っておくと、星見はう~むと唸ってから、

「いやちゃんと人気を出したい」

 と言ってきて、何かもっと良いツッコミをしないと話が進まないらしい。RPGのモブかよ。

 とはいえ、ボケとしても非常に弱いので、ここはもう当たり障りないことを言って反応を見てみるか。

「女子高生なんだから自撮り載せていればすぐに人気出るよ」

 どうだこの偏見あるある。でも実際そうでもあるだろう。

 SNSというものは女子高生が自撮りしていれば十分華になるのだ。

 さて、星見は何を言うだろうと思っていると、

「ありがとう、参考になった」

 と言うだけなので、おいおい、どうしたどうした、不調か?

 一応マンキンでツッコんでおくかと思って、

「どうせしないでしょ! 参考って小説でも書くのかよ!」

 と語気を強めて言ってみると、キョトンとした表情で星見が、

「いややるんだが」

 とボケてきたので、それそれー、と思いながら、

「やらないでしょ! ネット事情に疎いくせに!」

「いや勉強しているよ、今」

「禿同から始めてんでしょ!」

「残念ながらそのTシャツの言葉は一切出てこないんだ」

「残念でもないでしょ!」

 そんな感じで会話をして、ホームルームになり、授業&授業。

 昼休みになると、また星見は委員会でいなくなり、川辺ちゃんは走ってどこかへ行った。

 弥助は友達と体育館に行ったみたいで、他のクラスメイトたちも基本何かするみたいで、あんま教室に人が残っていない。

 まあ気楽にお弁当食べちゃおうということで、モグモグタイムに勤しんだ。

 余った時間は図書館へ行って、興味があったことの図鑑を適当に見て、教室に戻ってきたら、もう星見が席に着いているわけだけども、ずっとスマホとにらめっこしていた。

 星見がスマホをイジっているなんて珍しい。AIとかにハマったのかな? でもAIってイマイチだよ、やっぱり情報は図鑑に限る。今度教えてあげよう。そういう話になったら。

 放課後も星見は委員会があるらしく、保健委員ってそんなに仕事あるのかな? と思いつつ、私はそのまま家路に着いた。

 家で宿題をしたり、夕ご飯の手伝いをしたり、夕ご飯を食べたりした午後八時、急に即興短文のLINEグループに通知が飛んできた。

《SNSで生配信することにした。暇なら玖瑠実と弥助にも見てほしい。》

 えっ……絶句した。

 どう見ても星見のアカウントからメッセージが送られてきている。

 というか星見がSNSをしているって本当だったの?

 いやいやどういうこと?

《星見! 本当にSNS始めたの?》

《始めた。拡散力があったほうがのちのち有利だと感じて。》

《というか生配信なんて危険だから辞めたほうがいいよ!》

《大丈夫だ。勉強したから。》

 一体何を見て勉強したのだろうか、正直怖過ぎる。

 変に露出した格好をして、みたいなことだったら、即座に辞めさせないといけない。

 弥助からもメッセージが飛んできて、

《何するんだろ 楽しみだな》

 と楽観的で、こんなに心配になっているのって私だけかよ。

 いや弥助は星見のある意味良い部分しか知らないのかもしれないけども、星見は意外とアヴァンギャルドで。

 星見からURLが送られてきて、見てみると、なんと星見が制服の自撮りで生配信を開始していた。普通に部屋の様子が映っていて、マジで良くないかも。

 とはいえ、変な趣味というかヤバイモノは映ってはいなくて、簡素な部屋に中学校の頃に修学旅行で買った奈良のペナントだけが見えて、まあ大丈夫は大丈夫そう。

 でもハッキリ顔出ししているし、いやでも自撮りの写真とか言ったのは私だし、まさかこんなマジでやるとは思っていなくて、自分の思慮の浅さを憎んだ。

 映像の中の星見は、

「ということで今日は質問に答えていきます」

 と言うと、すぐにメッセージが飛び交い始めて、さすが女子高生の自撮りだ。

 ちゃんと、というかなんというか、ちゃんと制服だ。どこでどう勉強したかは分からないけども、女子高生は制服でいることにより、強さがアップするので、それは本当にその通りの恰好だ。

 というか同時接続、十五人って、私と弥助がいたとしても、十数人の見知らぬ人が見ているということ? 私はすぐにLINEへ、

《あんま個人情報出しちゃダメだぞ!》

 と送っておいた。どうやら星見の生配信はパソコンの自撮りカメラっぽい。だからスマホは見れる環境のはずだ。

《名前を教えて!》

 というオジサンのような絵文字付きの文章が配信画面に出てきて、正直吐きそうになってしまった。

 ほらほら、無名の女子高生ほどこういうオジサンが群がるよなぁ、というか絶対本名言うなよ。

「アカウント名の通り、星見だ。下の名前は言えない」

 と星見は言い出して、いや苗字も隠すもんなんだよ! 本来は!

《どこの高校に通っている?》

「それは言えないんだ」

 と言いつつも、その高校の制服を着ているわけだから特定班がいたら分かるのでは……やっぱりヤバイ! この生配信はマジで危険だ!

《制服でどこの高校に通っているか特定できちゃうかも! やっぱり辞めたほうがいい!》

 とLINEを送ると、矢継ぎ早に弥助から、

《確かにそうかも》

 ときたわけなんだけども、肝心の星見は見ているのだろうか。

《今すぐ配信を消して! アーカイブも消して!》

 と一応伝えたいことは全部LINEに書いていく。

 すると、星見が、

「制服脱ぐか」

 となんと画面の目の前で服を脱ごうとし始めたので、うわぁぁあああ! と叫んでしまったところで、

「いや画面オフにしないとダメか」

 と寸前で気付いて事無きを得た。

 再び画面がオンにされた時にはジャージを着ているわけだけども、それも学校指定のジャージで、合わせ技で特定が捗るじゃん!

 なんて緩いんだ! 星見! 胸に星見って書いてあるし! そのジャージ! 絶対ダメだよ! 何これ! そういうコントっ?

 弥助も心配そうなスタンプからの、

《ジャージも晒す形になってしまった……特定が進んでしまう……》

 と悲壮感溢れるメッセージが送られてきて、まさしくその通り過ぎた。

 星見は何かビックリした顔をしてから、

「ナシナシ、やっぱり制服に戻す」

 と言って、また画面オンのまま脱ごうとしたけども、なんとかギリギリで気付いて、画面オフにした。

 とはいえ、全然生配信を辞めようとはしない。その間も何かめっちゃ同時接続が増えていき、五十六人まできた。

 ヤバイ……何かヤバイところにこの生配信のURL、晒されている……もうダメだ……デジタルタトゥー残りまくりだ……。

 画面がオンに戻ったところでまた制服に戻っていたが、何度かの脱ぎ着により、髪が乱れていて、何か変なコメントが湧いて出てきた。

《乱れ髪だ》

《与謝野晶子かよ》

《乱れ髪って行為によって、ってことだからな》

《知見》

 そう、与謝野晶子の乱れ髪とは性行為中に乱れた髪のことを詠んでいる。

 だから正直学校で習うようなもんじゃないんだけども、みんなある程度は知っていることだけに、公然のセクハラ語みたいになっている。だからってハッキリ言うヤツは少ないけども、ネットはこういう輩ばっかりだからなぁ。

「与謝野晶子、まだ読んでいないんだよな」

 星見がそのコメントを多分素で拾って、何かさらに盛り上がっている。

 すると急に、

《可愛い》

 という、まるで若い子のようなアカウントから急にハートと共にそのコメントが飛んできたことを皮切りに、何かどんどん女子率が増えてきているようだった。

《化粧品 何を使っていますか?》

 は絶対女子の質問だと思う。

「化粧はまだ全然だな、とりあえず保湿液と日焼け止めはお母さんのヤツを使わせてもらっている」

《素でそれって可愛くないですか?》

「どうだろうか、可愛いというのは言った人の主観的なところなので自分ではよく分からない。でもそう言ってくれているということはご好意があるということだ。有難く受け取っておく」

《可愛いっていっぱい書いていいですか?》

「勿論。褒められているわけだから嬉しい」

 何か、急に民度が良くなってきた。変なオジサンのコメントが一気に駆逐されていっているというか。

 もしかするとこうやって女子が集まってくると、オジサンは怖くなって逃げ出すのではないだろうか。

 これならいいぞ、このままでいってくれ。

 結局生配信はこのまま緩いまま終わって、私は胸をなでおろした。

 とはいえ、まさか星見が本当にSNSに興味を持つなんて思わなかった。

 明日は早く登校してずっと説教しないとダメだな(あの脱ぎ着のくだり)。

 あと一個思うことがあって、それもかなりの懸念点なわけだが、このまま人前に出ることに快感を抱いてしまったら、また私は漫才を誘われるのでは? ということだ。

 生配信で漫才をしたいとか言い出す可能性はハッキリ言って高まったような気がする。いやいや私は絶対嫌だからしないわけだけども。

 確かに星見は昔から出たがり体質ではある。あのハロウィン仮装大喜利大会だってそうだし、授賞式の受賞ボードの件だって入れてもいいだろう。

 で、今回はSNS、ついにSNSに手を出してしまったか。できるだけ星見とネットの話をしなかったのも星見が興味を持たないために、というところもあった。

 星見は自己顕示欲が強いので、一度SNSでの自己顕示欲も良いかもと思ってしまったら、きっと抜け出せなくなるだろう。もう抜け出せなくなっている可能性もある。

 それならいっそのこと、生身の身体でフィジカルの漫才をしてあげたら良かったのか、いやいやそういうことでも多分無いんだろうなぁ。

 あーぁ、どうしよう、マジでどうしよう。

 次の日、すぐに登校すると星見がもう教室にいたので、即座に昨日の生配信のことを説教した。

 正直ちょっと強めに言った。さすがに星見が自分の意志で始めたことだから“辞めろ“という言葉だけは言わなかったけども、へこませるくらいの気持ちで。全然良くないとか、本名丸出しですなとか、脱ぎ着のところ最悪とか。

 でも星見は割と意志が強いほうなので「気を付ける。金言をありがとう」と言うだけで、辞める気はさらさら無いようだった。

 やっぱり”辞めろ”と言えば良かったかな。でもそれはさすがに過干渉というか、星見の観察者でいたい私としては、ちょっと手を突っ込み過ぎになるからなぁ。

 朝のホームルームになり、そこで担任から衝撃の一言が告げられた。

「クラスメイトの川辺由真さんは急病になり、これから高校へ来れなくなってしまいました」

 いや……絶対イジメが原因の不登校じゃん……ついに起きてしまった……マジでイジメとか辞めろよ、クソダサいんだよ……イジメなんて言い方しているけども、イジメって要は集団ストーカーだから本当にキモいんだよ……。

 このことを境に私たちの教室は黒い渦が巻き起こるようになってしまった。 

 なんとスクールカースト上位女子たちが直接的なイジメをしていた男子たちのことを弾圧し始めたのだ。

 また言われているその男子たちのグループの主張もあり、オマエらがイジメていたから、イジメて良いヤツだと思った、という。

 そういう女子たちと男子たちでギスギスして、責任の押し付け合いをやり始めた。

 正直どっちもどっちなわけだし、何ならどっちのせいでもあるわけだけども、両軍ともに自分は悪くないという言いっぷり。

 反吐が出るよ、マジで。

 そんな中、星見は相変わらず、教室の状況をあまり理解していなくて、私が察するに、星見は担任の言った”急病”をそっくりそのまま真に受けて、本当に病気で休んでいると思っているらしい。

 星見は機微を汲み取ることが苦手だ。というか下手だ。全然できないと言っていい。

 だから星見だけはいつも通りって感じで、昼休みに私へ快活にこう言ってきた。

「即興短文をもっと盛り上げる方法を思いついたんだ。朝は玖瑠実の金言トークで言う暇が無かったけども」

 そんなこと……いやそんなことでもないんだけども。今や私の一番の趣味だ。

 新潟は十二月になり、雪も降るようになってきて、バイトも何か億劫になって(帰りに雪があるとウザい)一旦辞めることにした。

 まあとりあえず話を聞くかと思って、

「盛り上げる方法って何?」

「即興短文を見世物にするんだ!」

「見世物?」

 小首を傾げる私に星見は熱弁を振るう。

「玖瑠実と弥助がリアルタイムテキストで配信し、アタシがその作る過程を実況する。勿論アタシが二人の画面を画像共有をしつつだ。アタシがそれぞれの書くところをクローズアップしつつ、リアルタイムで魅せていくんだ」

「もしかすると星見の昨日の生配信ってそれの布石?」

「そういうことだ」

 まさか目線の向こうに即興短文があったなんて。

 でも女子高生の自撮りが見たくて見ている層に、突然即興短文なんて刺さるか?

 とはいえ、やろうと思って即座に行動を移していくのは本当に星見らしい。

 行動力だけは半端無い。

 昼休みはずっと星見の夢物語を聞いていき、放課後になったところで、弥助を呼び止めて、その話を改めて星見がすると、

「俺は面白そうだと思う! じゃあネット長文やってる人たちにも声掛けて見てもらえたら見てもらうことにする! ま! みんな社会人だから忙しくて見る暇無いかもだけど!」

 そう言えば即興短文って、ネット長文というコミュニティの一ジャンルで、ネット長文というコミュニティもあるんだよね。

 私は弥助に伺うように、

「そっちの人たちに何か許可をとる必要とかないの? 即興短文の生配信をすることとかさ」

 弥助は疑問符を頭上に浮かばせながら、

「そっちってネット長文の人たちに?」

「そうそう」

 と私が首を縦に振ると、弥助は笑いながら、

「もううるさい人たちもいないらしいし、大丈夫じゃないかな。高校生のやることだと思って特に文句を言ってくるとかもないと思うよ」

「ならいいんだけども」

 星見は「ならいいんだ」まで言って、そこまでの部分は私とユニゾンしていた。

 さて弥助は乗り気なわけだけども、それってつまり私も生配信の一部になるというわけで。

 何か怖いというか、変なこと書かないか心配、いや変なこと書く気無いけどさ、誤字で変な文字出しちゃったら嫌だし。

 でも星見と弥助が共鳴しちゃって、わくわくしちゃってるので、水差すのも嫌なので、やってあげることにした。とりあえず一回は。

 というか誰も見ない可能性だってあるし、特に初回なんてそんなもんだろうし、と高をくくった。

 その当日がやってきて、早めにリアルタイムテキストを立ち上げて、その画面を星見が画面共有した。

 というか本当に勉強して、こういう生配信ができるようになったんだ。まだURLは知人のみバージョンだけども、ここから全世界に発信するみたいだ。

 LINEで、

《ではよろしく頼む。》

 という星野のメッセージがきて、私と弥助でスタンプを送り、ついにスタートとなった。

 画面共有で私と弥助のリアルタイムテキストが表示されていて、右斜め下には星見の小窓がある。

「さて、今日の生配信は趣向を凝らして即興短文の生配信をします」

 そこから星見が即興短文の説明、また対戦する”くるくる”と”ヤヤスケ”の説明をしたところで同時接続は十六人。

 この前のマックス五十六人ほどではないけども、全くいないわけではない。

 ちょっと緊張するところもあるけども、自分はネタを書くだけなので、できるだけ気にしないようにする。

「では今回のテーマはスイカということでよろしくお願いします」

 テーマは既にLINEで決めていた。そこでぐだぐだすることは良くないという弥助の判断だ。

 すると星見が即座に声をあげた。

「まずはヤヤスケがスイカというモノの要素をあげ始めた!」

 そう、弥助はいつもそうする。今回も迷わずそうしてみるみたいだ。

「スイカ割り! スイカの種飛ばし! 夏! 縁側! お風呂で冷やす! スイカ泥棒! 真ん中が甘い! 未熟果を漬物にする! 何か詳しいぞ! コソ練していたか!」

 いや実際、先にテーマを知っていたので、調べる時間はあったけども、それを”コソ練していたか”と表現する星見はやっぱり面白いと思う。

 あのハロウィン仮装大喜利大会の時も思ったけども、星見の瞬発力は予想以上だ。

「さぁ! くるくるの初手は何なのか! この時点でお手上げか!」

《そんなわけないわ》

 とまずテキスト画面に打ち込むと、

「そんなわけないわ、でした! いやぁ、聞かれていましたねぇ」

《聞いているに決まってるでしょ》

「ささ、ネタどうぞ」

《星見がチャチャ入れたんでしょ》

 と書いたところで、星見がまた声を張った。

「おっと! ここでヤヤスケに動きがあったようだ! スイカをお風呂で冷やすのを狙ってお風呂に入って待っているスイカ泥棒。未熟果のスイカ割り。真ん中の甘いところを飛ばすスイカ飛ばし。案がいっぱい出てきたぁ!」

 弥助は本当にいつも通りって感じだ。というかもう星見の音を切って自分の世界に入り込んでいる?

 というか弥助の最初の案っていっつも結構良いんだよな、と私が思ったことを配信のコメントで書いている人もいて、ちゃんと即興短文を楽しむ姿勢の閲覧者もいるらしい。この人はネット長文界隈の人かな? 元々即興短文を知っているというか。

《この前と全然違う配信だ》

《でも何か面白そう》

 と興味が湧いている新しい層もいるみたいだ。私も何か書かないと。

 さて、弥助がいつも通りのピンネタでいくのなら、こっちはやっぱりコンビネタのほうが見ているほうは見やすいだろうな。

 あと何かちゃんと楽しんでいる人もいるっぽいので、そうなるとちょっとかましたい。文字のお笑いならではのネタをしたくなるというか。

 今のところ弥助は実際に演じられるような、バラシのあるピンネタを書いているので、こっちは即興短文(ネット長文)らしい手法で攻めたい。

 というか今回星見はネタ書かないんだよな、あのリフレイン台詞も結構好きなのに。

 ちょっと、星見チックにしつつも、自分らしさのある感じにしたいな。

《二人:はいどうも、よろしくお願いします。》

 と私が書いたところで星見が吠える。

「おっ! くるくるは漫才スタイルだ!」

《漫才の台本を書くということ?》

《そっか、台本で読ませるんだ》

《それとも朗読するの?》

 すると星見がこう言った。

「そうだな。確かにアタシが最後、ネタを朗読したほうがいいかもしれないな」

 うわっ、星見がネタを朗読? ということはそれを意識したネタのほうがいいのかな?

 いやでも、ここは私の中ではもうある程度考えているので言っておこう。

《星見、ゴメン、今回の私のネタはあんまり朗読に向いていないかも》

「朗読に向いていないネタとは気になりますね!」

 と星見が言えば、閲覧者コメントも反応し、

《朗読に向いていない脚本ってどういうこと?》

《ラジオ脚本みたいなことじゃないの? でもそれなら朗読もアリなのでは?》

 とメッセージが表示されていき、何か、リアルタイムも割と悪くねぇな、と思ってしまった。

 というか癖になるかも。これ。それもこれも先立って生配信をしてくれていた星見のおかげということか? う~ん、じゃあまあ許す、あの生配信、許すことにしよう。

「おっと! ヤヤスケがついに動き出した! スイカ割りをテーマにするみたいだ!」

いや何なんだよ! スイカ割りぃっ? これの何が盛り上がるんだよ!

というか当たらないって! 絶対これ当たらないって!

当たって何になるんだよ! 盛り上がるかぁっ? いやいや無い無い!

絶対盛り上がらないから! 辞めようぜ! これ! 意味無いから!

マジで! 本当に! 食い終わったスイカでスイカ割りとか盛り上がらないわ!

「食い終わったスイカでスイカ割りぃぃいいっ! また独特なお笑い! そしてピンネタだ! ピンネタだと小説みが少しあって受け入れやすいかもな!」

 そうか、ピンネタってこういう時にそぐわないんじゃ、とか思っていたけども、一人語りということは小説に似るということか。

 それなら耐性というか、見る側もすんなり読むことができるかもしれない。そんなこと考えたことなかったけども。

 というか星見が音読するなら、当然一人だから演じ分けもいらないし、星見の生配信向きかも。でももう私はかますコンビ漫才にする気でいるし、このままいこう。

 星見の生配信に何でも合わす必要は無いから。

二人:はいどうも、よろしくお願いします。

ボケ:スイカの種飛ばししようかな。

つこ:漫才中に突然?

ボケ:●

つこ:ボウリングの球くらいデカいスイカの種!

 そう、私は今回こういった感じでいく。

 このボケの”●”をリフレイン気味に膨らませていく予定だ。

 すると星見が、

「くるくるの漫才! これは独特な漫才になりそうだ! ちょっとネタバレ良くないかもな。ここから画面共有は辞めてアタシだけ見られる感じでいくかな」

 と言うと、私と弥助のリアルタイムテキストを閉じて、自分の顔の小窓を大きくして、全面にした。

《ちょ、見たかった》

《書いてるヤヤスケのほうを見ていた》

《おれは見えたよ、めっちゃ独特!》

 というかそうだよね、ネタバレとかになるから途中までは共有してもいいけども、後半というか中盤以降は無いほうがいいよね。

 さて、星見はその時間どうするのかと思っていると、星見だけはリアルタイムテキストを見ているようで、ネタバレにならないように実況していく。

「ヤヤスケのネタ! 展開がでてきた! ピンネタで笑いどころを作りながらも話を進めるのって実はすごいことだから!」

 とか、

「くるくるはあの黒い●を最大限に活用していく! こんな笑いの作り方があるのか!」

 後半になると、全てがネタバレ含みになるので、星見が質問を何かしてほしいと振り、コメントの質問に答えだした。

 なんだかんだで飽きさせないような工夫があり、ついにネタ披露となった。

 私も弥助も既に作り慣れているので、予定の一時間よりも早く、四十分で完成になり、披露タイムとなった。

 勿論というか、星見が音読し始めた。まずは弥助のネタから。

 画面は弥助のリアルタイムテキスト画面を少し大きめにし、弥助も星見の音読に合わせて画面をスクロールしていく。


・《ヤヤスケ:スイカ割り》


いや何なんだよ! スイカ割りぃっ? これの何が盛り上がるんだよ!

というか当たらないって! 絶対これ当たらないって!

当たって何になるんだよ! 盛り上がるかぁっ? いやいや無い無い!

絶対盛り上がらないから! 辞めようぜ! これ! 意味無いから!

マジで! 本当に! 食い終わったスイカでスイカ割りとか盛り上がらないわ!

何この白い部分と緑の皮しかないスイカでのスイカ割りって!

薄くなってるから、相当屈まないと当たらないじゃん!

で、割れたとて何なんだよ! 皮が細かくなって捨てやすくなるだけかよ!

捨てやすくなって、ゴミ袋の効率があがってSDGsなだけじゃん!

盛り上がりはしないじゃん! 絶対に! 普通のスイカでやろうぜ!

というか誰の食い終わりだよ! 何かソイツへの風刺感もあるだろ!

ソイツの食い終わり皮は叩くことが何らかのディスを含みそうで心配なんだよ!

あと棒のほうもちょっと汚くなりそうじゃん! これ俺が持ってきた棒だから!

せめて食い終わり皮と棒の持ち主は一致させろよ!

一致させられても嫌だけどな! 実際は!

……あぁ、確かにスイカはみんな食べ終えたよ、そう、食べ終えたからね、

でもマジの丸いスイカじゃないと割っても盛り上がらないだろ! えっ?

スイカ割り自体盛り上がらないってっ? 嘘だろ! スイカ割りは至高だろ!

俺スイカ割りめっちゃ好きだからね! それは俺へのディスだからな!

スイカ割りの棒とか毎日磨いているから! 今日の朝は消毒してきたし!

ぶっちゃけ俺、スイカ割りの棒を抱いて寝ているからね!

……じゃあなおさら食い終わり皮でいいって……それは俺へのディスじゃん……。

クリティカルじゃん……何かさ……夏にクリティカルって良くないだろ。

まだ関係続くのにクリティカルすなよ、えっ、オマエの食い終わり皮?

クリティカル出したオマエの食い終わり皮? ……しゃおらぁ! 割ってやったぜ!



《面白いかも》

《オチわろた》

《音読巧っ》

 そう、確かに星見の音読も巧いのだ。

 星見は人前に立つ度胸があるので、こういうことは簡単にできるらしい。相変わらず変人ならではの肝の座り方、変人ならではのハイスペックというか。

 これなら私のネタも上手く音読してくれるだろうなと思っていると、星見は私のリアルタイムテキスト画面を弥助の時よりも大きく画面いっぱいにして、見やすくしてから音読を始めた。


・《くるくる:種飛ばし》


二人:はいどうも! 漫才頑張りましょう!

ボケ:スイカの種飛ばししようかな。

つこ:漫才中に突然?

ボケ:●

つこ:ボウリングの球くらいデカいスイカの種!

ボケ: ●

つこ:えっ? ドット絵のペースで飛ばす気っ?

ボケ:  ●

つこ:パラパラ漫画作る気なん?

ボケ:   ●

つこ:スイカの種がデカいから遅いな!

ボケ:    ●   〇(スイカ)

つこ:あっ! スイカが出現した!

ボケ:   ●    〇(スイカ)

つこ:ちょっと尻込みするなよ! 本物だ……ちょ、俺、無理かも……じゃぁないんだよ!

ボケ:   ●〇(スイカ)

つこ:スイカが一気に詰め寄ってきた! いけぇ!

ボケ:〇(スイカ)

つこ:いやどうなったんだよ! 完全に粉々に打ち砕いたのっ?

ボケ:美味っ。

つこ:口まできた(スイカ)食べやがった!

ボケ:●

つこ:スイカの種、また飛ばした! というかスイカと同サイズということは中身無かったんか!

ボケ:美味っ。

つこ:種食った! 風船ガムのように一旦出しただけっ? いや飛ばせよ!



 黒い丸のことは”デカ種”と表現し、動く時は”デカ種一歩””デカ種また一歩”と言って、原作以上に面白くしてくれていた。

《そうか、文章だからこういうのもアリか》

《ならではってことだ》

《よく考えるなぁ》

 とコメントもまずまずな感じで、自己肯定感があがってしまう。

 最後の投票はSNSの機能を使った、閲覧者投票となった。

 全部で九票集まり、五対四で弥助の勝ちになった。

 弥助のテキスト画面が動き出して、

《僅差! でもやった!》

 と勝利コメントを出すと、それを星見も読み上げた。

 じゃあ私も、と思って、

《種がさすがにデカ過ぎたので負けてしまいました》

 と軽くふざけると、星見も楽しそうに読み上げてくれて、

《今の入れたら、くるくるにしたわ》

 と書いてくれる人もいて、何か嬉しかった。

 そんな感じで意外と大団円で終わって、星見が生配信を閉じてから、LINEのほうに星見が、

《大成功。これを今後大きくしていきたい。》

 即座に弥助も、

《何かめっちゃ面白かった どんどんやっていこうぜ》

 と乗り気だし、私も正直良かったので、

《またやってもいいかも》

 と答えつつも、

《でも星見のネタも好きだから クローズドのヤツも並行してやっていこうよ》

 と私が書くと、星見が照れている人のスタンプを押し、弥助も、

《確かに星見のネタも見たいもんな》

 と書くと、なおも照れているスタンプを星見が押した。

 いや、というかマジで悪くないかも。

 このまま星見がこっちのお笑いに向き続ければ、生身の漫才にはもう興味が向かなくなるかもだし。

 星見にはずっとこの即興短文沼にハマらせておくことにしよう。

 そうすれば一緒にお笑いをしたいと言い出さないだろうし、そもそもこれこそが一緒にお笑いをしているということになるのでは?

 私は生身が出ないし、星見は楽しそうだし、マジでウィン―ウィンでは。


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