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【05 魅せるということ】

・【05 魅せるということ】


 また今週の即興短文の日がやって来た。

 全員パソコンでリアルタイムテキストというアプリでテキスト配信しながら、即興短文をすることが決まっているので、みんなでLINEにURLを送った。

 まあ基本的に私はパソコンで長文ネタを作っているし、他の二人もそうみたいなので改めて大変なところは無い。

 ただ誤字・脱字が一瞬見えてしまうので、そこが恥ずかしいだけだ。あと何か二人分を見る余裕は多分私には無い。

 するとLINEのほうが鳴り、見てみると弥助で、

《ちゃんと伝えたいことは通知音が鳴るLINEのほうでやろうぜ》

 と書いてきて、それは確かにな。

 矢継ぎ早に弥助から、

《今日のテーマどうする?》

 星見が、

《サッカーとかいいんじゃないかな。結構テレビとかでもサッカー関係の笑いとかあるし。VARとか。》

 と書いたので、全員同意して今回のテーマはサッカーになった。

 そのタイミングで、弥助が、

《二人ともサッカーのこと どのくらい知っている?》

 ときて、なるほど、あんまマニアックになり過ぎたら良くないと思ったわけか。

 いやでも、

《私は日本代表戦は必ず見るくらい》

 で、星見は、

《NHK BSでやっているの暇な時に見る。》

 と答えて、弥助が、

《じゃああんま知らないとか考えなくていいな 思った通りに作っていくわ》

 と返信がきた。

 私は割と野球のほうが苦手なので、サッカーになったことは得と言えば得だ。

 とはいえ、星見がNHK BSのヤツまで見ているとは思わなかった。星見とはお笑い動画の話ばっかりだったから。今度何かオススメの選手でも教えてもらおうかな。

 というわけで、みんなそれぞれそのリアルタイムテキストで書き始めたわけだけども、なんというか序盤は見てしまう。

 何故ならネタ被りをしたくないから。

 弥助は前回と同じようにまず要素を書き連ねている。

《サッカー:イエローカード、レッドカード、VAR、審判、オフサイド、PK、FK、CK、ハンド、神の手》

 神の手というヤツだけよく分からないけども、あとは大体分かる。

 いつも通りの弥助ならそれを組み合わせていくはず。

 すると案の定、

《いろんな色のカード、審判のオフサイド、VARでPKから審判が蹴るPKに》

 結構荒唐無稽なアイデアも浮かんでいるみたいだ。

 審判が蹴るPKなんてないわ、ドロップボールとかならあるけども。

 さて、星見のほうはどうかな。

星見:

くる:

星見:

くる:

星見:

くる:

星見:

くる:

星見:

くる:

星見:

くる:

星見:

くる:

星見:

くる:

星見:

くる:

星見:

くる:

星見:

くる:

星見:

くる:

星見:

 最初に全部台詞の部分を書くほうなんだ。二十五行ということをミスらないためのアイデアなんだろうな。

 私は流れで打っていって、かつ、最後に文字変換するから『q:とw:』で書いていくけども。それぞれの書き方が見えるって確かに面白い。

 星見は空いているスペースに、

《PKを蹴りたい、CKを蹴りたい、FKを蹴りたい》

 と書き始めて、駄々っ子FKマイスターか、と思った。否、多分本来蹴る役目じゃないヤツが駄々をこねている感じがする。

 すると星見が一行目に、

《星見:今日はアタシに絶対PKを蹴らせてほしい。》

 と打ち始めて、あっ、もうこれ流れで書き出すヤツじゃない? と思って、星見のリアルタイムテキストを見ることは辞めた。

 多分星見は今の台詞をリフレインさせるつもりだ。大体それがいつものパターンだからそうだと思う。

 でもまあ星見のやりたいことは分かった。PKのワンシーンを書く気だ。というと今回はコントっぽい?

 いつも漫才だけどもこの流れならコントかもしれない。いやツッコミはコントインせず、だらだら喋るいつものヤツかもしれないけども。

 と思いながら、ずっと星見の画面をそのまま出していると、

《くる:いや下手なんだからさがってろよ。》

 で完全にコントだということが確定した。ツッコミのほうも最初からコントインしている。

 じゃあバランスを考えて、今回は私が漫才にしようかな。どうせ弥助はいつも通りピンネタだろうから。

 多分弥助もバランスを考えて、ピンネタをやるようにしているんだろうな、というのは薄々感じている。

 でも違うのかな? ちょっと思い切って聞いてみるかな。

 弥助の画面を見てみると、既にちょっと作り始めていて、

いや退場させられないですねぇ、いや分かるよ、分かるけどもさ。

あぁ、ちょっと選手が集まってきちゃった、あのですね、

最近ルール変更でキャプテン以外とは審判は対話できなくて、ね。

 と書いていた。いやそうなんだ、最近ルール変更でキャプテン以外と審判が対話できないんだ。

 まあそこは置いといて、弥助のチャット欄に、

《今回もピンネタっぽいけども 弥助ってバランスを考えてピンネタにしてくれているの?》

 弥助からは即座に返信がきて、

《違うよ 俺はピンネタが好きなだけ》

 さらに間髪入れずに、

《本当のこと言うと こういうネット上の 文字上のお笑いだけどさ いつか舞台でもできるように 俺一人で演じられるように ピンネタにしているんだ 地味なこだわりでしょ》

《そんなこと考えていたんだ》

《じゃあ俺は書くのに集中するから というか志田は余裕?》

《私は全然 これから》

 チャットはこのくらいにして私も作り始めるか。

 弥助も審判がメインのネタっぽいけども、私も審判ネタにしようかな。

 サッカーの動きのあるところは文章と相性が悪そうなので、やっぱり一旦止まる審判をネタにしたほうが伝わりやすいような気がするし。

 星見もそこを意図しているのかどうか分からないけども、試合が止まった瞬間を描いているし。

 まあ基本こっちは漫才だから、試合が止まってるとかないけども。

 あと私の心情というか地味なこだわりとして、できるだけ文章でしか表現できない笑いというモノを追求したいと思っている。

 勿論、星見から『生身で漫才をやろう』と言われた時に断るための布石でもあり、またそれこそが即興短文(ネット長文)の醍醐味だと思っているから。

 せっかく文字の世界なんだから、それを生かしたい。

 私もちょっと書き始めたわけだけども、悪くない感じ。でもオチが浮かばないところはある。漫才なんだからオチはビシッと決めたいよなぁ。

 ちょっとヒントを探るつもりで、同じ審判が話のメインになっている弥助のほうを見ると、

いや退場させられないですねぇ、いや分かるよ、分かるけどもさ。

あぁ、ちょっと選手が集まってきちゃった、あのですね、

最近ルール変更でキャプテン以外とは審判は対話できなくて、ね。

でも分かるよ! 分かる分かる! 言いたいことは分かるよ!

でも退場させられないんだよ! いや引退試合とかじゃなくて!

無いよ! 引退試合とか無いよ! この人に!

この人! 線審だから! 線審を主審が退場とか無いから!

 ともうバラシのところまできていて、ちょっとネタバレになっちゃったかなとは思った。

 いやでもそうか、線審か、そうだ、サッカーには主審以外にも線審がいるんだった。これは使えるかも。

 ネタ披露の時、弥助のネタを新鮮な目で見られなくなったけども、まあいいか。

 私はオチも思い浮かんだし、まずは思うままに漫才を書いていくと、星見からチャットが入った。

《今回はトリオ漫才なんだな。》

《トリオというか ちょっとニュアンスは違うけどね》

《そうやって漫才を作ったことがなかったから 新鮮な発想だ さすが玖瑠実 さすくる》

 星見は相変わらずチャット欄でも”さすくる”なんだ。

 いや最近”さすくる”を頂いていなかったから今回だけは純粋に嬉しいけども。

 さて、逆に星見のほうは、と思ったけども、あんまネタバレしたくないし、

《ネタバレしたくないから星見のほうは見ないよ》

 とチャット欄に打ち込んだんだけども、返信は無かった。

 そうだよね、誰がどこを見ているかみたいなのが分からないから、会話が空を切ることあるよね。

 三人でリアルタイムテキストをやるのは確かに楽しいんだけども、何か、歯がゆいところも同時にあるなぁ。

 いやLINEで通知して会話すればいいんだけども、そこまでしたい会話じゃないし。届けたい台詞じゃないし。

 そんなこんなでネタ書き時間が終了し、披露タイムとなった。

 まずは弥助から見せていくことになった。 


・《弥助:退場》


いや退場させられないですねぇ、いや分かるよ、分かるけどもさ。

あぁ、ちょっと選手が集まってきちゃった、あのですね、

最近ルール変更でキャプテン以外とは審判は対話できなくて、ね。

でも分かるよ! 分かる分かる! 言いたいことは分かるよ!

でも退場させられないんだよ! いや引退試合とかじゃなくて!

無いよ! 引退試合とか無いよ! この人に!

この人! 線審だから! 線審を主審が退場とか無いから!

確かにさっき線審がコーナーキック蹴ったよ! 異常だよ!

でも線審を退場とか無いから! 余ってる審判とかいないから!

J2だから! VAR無いから! いや! VARの審判を余ってる審判と言ったつもりでは!

そこ突かないで! 線審を退場させないことに怒ることは分かるけども!

私の今の失言を突かないで! とにかく線審は退場させられないから!

いや! お客様の中に線審やったことある人いませんか! じゃないよ!

飛行機内の医者かよ! んでいるのかよ! でもホームチームのユニフォーム着てるからダメだよ!

判定が寄りになるよ! 絶対に寄ってしまうよ! 審判ってそういうものだろ? って!

それは暴言! イエローカード出します! いや線審には出さないけど選手には出すよ!

じゃあ分かった! 線審にもイエローカード出す! イエローまでなら平気だから出す!

……殴ってきたぁ! 線審が殴ってきた! これは見過ごせない! 見過ごせないけども!

さすがに線審を退場にしたら! ゲームが成り立たないから!

線審は旗持って定位置について! いや旗持っては差別的発言じゃないよ!

サッカーは差別に厳しいけども、旗持ってをアジア人への目を吊り上げるみたいに言うなよ!

えっ? 私がイエローカードっ? 線審が何でイエローカード持ってんのっ?

いや差別じゃない! 線審差別じゃない! 全然差別じゃない! 区別!

いや確かに差別と区別のこと言い出すヤツは大体差別しているヤツだけども!

主審が線審から退場処分っ? いやその前に! はい! 私が先にレッドカード出した! 私の勝ち! 線審退場だ!



《大人げないオチだ》

 と私はすぐにLINEで書き込んだ。

 星見からは、

《本当に弥助はバラシが巧いな》

 と感心しているようだった。

 それ以外にも感想を書き込んだわけだけども、やっぱりバラシを知っちゃっていたから、読む楽しさという意味ではちょっと半減かな?

 まあアイデアのインスピレーションとかもらったから、しょうがないけども、何か、十割全で楽しめている感じじゃないんだよなぁ、何か方法無いのかな?

 次は星見のネタとなった。


・《星見:PK》


星見:今日はアタシに絶対PKを蹴らせてほしい。

くる:いや下手なんだからさがってろよ。

星見:今日はアタシに絶対PKを蹴らせてほしい。

くる:いや前回、奇跡の三回連続ミスしただろ、もう監督も私というジェスチャーしているよ。

星見:アタシに絶対PKを蹴らせてほしい、今日は。

くる:小さい倒置法だな、でもまあいいか、今日8-0で勝ってるし。

星見:今日はアタシに絶対PKを蹴らせてほしい。

くる:いやだから譲るから。

星見:今日はアタシに絶対PKを蹴らせてほしい!

くる:あぁそうか、私がコイツから離れればいいんだ。

星見:今日はアタシに絶対PKを蹴らせてほしい!

くる:サークルから出てくるなよ! オマエ一人がそこに立てば始まるから!

星見:今日はアタシに絶対PKを蹴らせてほしい!

くる:ちょっと! マジで! 審判も何か怒ってるっぽい!

星見:今日はアタシに絶対PKを蹴らせてほしい!

くる:ん? 監督のジェスチャーが変わった……! 私交代っ? 何でっ?

星見:今日はアタシに絶対PKを蹴らせてほしい!

くる:コイツが私から離れないからっ? そんなことあるぅっ?

星見:今日はアタシに絶対PKを蹴らせてほしい!

くる:……マジかよ……マジで私交代なんだ……こんな交代あるんだ……いや! オマエ! ちゃんと定位置につくなよ! 私を交代させたかったのかよ!

星見:そうだ、オマエがいるとPKキッカーがオマエになるから。

くる:いやもう先に譲っていただろ! 見ろよ! 監督の渋々顔! イングランド出身の監督があんな渋々顔することないぞ!

星見:スマン、今日だけはPKを蹴りたかったんだ。

くる:じゃあ私がピッチをさがる前に、何でそんな蹴りたかったんだけ教えてくれよ。

星見:いや、得点入れた選手へのボーナスの二十万円で買いたいバイクの部品があるんだ。



 案の定リフレイン・コントだった。

《ツッコミ側が生き生きというか 臨場感がある感じで いつもと違って面白かった》

 と私が感想を送ると、即座に弥助が、

《それな でもリフレイン台詞でコントするって何気に難しいと思う 面白いし巧いと思う》

 と送って、その感想を私も送りたかったなぁ、と思った。いや勿論重複するけど送るけども。

 わいわいと会話したところで最後は私のネタとなった、ところで、私のチャット欄に星見が、

《見てくれてもいいのに。》

 と送ってきて、時間差がマジでもどかしいな、と思いつつ、私はフォームで弥助にネタを送って、弥助がブログにアップした。


・《志田:審判遊び》


二人:はいどうも! よろしくお願いします!

審判:ピッ!

ボケ:何だ?

つこ:マジで何だ? 観客席から近寄ってきて。

審判:二十五行しかないんだから最初の挨拶いらない! 遅延行為!

つこ:いやゴールキーパーが長くボール持ったみたいに言われても!

ボケ:あっ、口頭での注意だけで観客席に戻って行った……。

つこ:ちょっと、これからリアルなマジ漫才なのでお客さんは黙ってください!

審判:ピッ!

ボケ:またきた……。

審判:キャプテン以外、審判と会話してはいけない!

ボケ:そうだぞ。

つこ:いや急にボケも審判側! 自分がキャプテンになれたからって!

ボケ:審判戻って行った、というか俺以外にツッコむなよ。

つこ:嫉妬すんなよ、ツッコまないといけないでしょ。

審判:ピッ!

つこ:もう一回一回戻るなよ、このストロークの時間が無駄だよ。

審判:試合中に暴言は良くない! イエローカード!

ボケ:ほらぁ、もうオマエは強めにいけなくなったなぁ。

つこ:そんなこっちをディフェンダーみたいに言うなよ、というか漫才の台詞だから暴言じゃないです……おい審判! 無視するな!

ボケ:いやキャプテンとしか会話しないらしいから、じゃあ俺が言ってやるよ、審判さん、これ漫才なんでツッコミの口調が強いのは許してください。

つこ:……いや無視されてる! ボケもキャプテンじゃなかったんかい!

ボケ:マネージャーがキャプテンとかなのかな……あっ、何かフラッグがあがったけども、何だろう?

審判:オフサイド!

つこ:いいや! 線審かよ! だから定位置があったのかよ! じゃあ線審がカードとか出すなよ!



 弥助がすぐに、

《最初にまず二十五行ということをイジるメタネタいいなぁ 文字で表現することが一番なネタ書くの 本当に志田は巧いというか面白い 好き》

 という最後の”好き”という文字が妙に脳内でリフレインしてしまった。いやあくまで私のネタが好きという意味なのは分かっているけども、何かちょっと、いやいや、全然そういうのじゃないけども。

 星見もすぐに、

《まさかこんなオチになるなんて、内容もめっちゃ面白い。》

 と高評価っぽくて嬉しい。そうそう、私はそもそも星見から認められることが嬉しいんだから。

 最後に投票して、今回も私が二票で一位、私の一票で星見が二位となった。

 弥助が、

《ちょっとまた俺も一位獲りたいなぁ 頑張ろう!》

 と書けば、すぐに星見が、

《いや今回は玖瑠実が良過ぎた》

 と、どっちに対しても良いようなことを書いてくれて、本当に星見って裏表無く良いヤツだな。

 そんな感じで今日の即興短文も終わったんだけども、リアルタイムテキストは今後、やりたい人だけすることにした。私はいいかな。でも星見と弥助はまたやる気らしい。まあ見るのに集中すれば見ることができるかもなぁ。

 月曜日の朝、いつも通り星見とお笑いの動画の話、だけじゃなくてサッカーの話を振ってみると、星見が生き生きと喋り出して、星見ってサッカーも好きだったんだと知れて、何かお得だった。

 そんなこんなの授業&授業で、昼休みになった時、事件が起きた。

 星見は朝に言っていた通り、委員会の仕事へ行き、私は一人でお弁当かなと思っていると、斜め左前のほうで川辺ちゃんが何か男子に囲まれだしていた。

「ブスの写真集作ろうぜ」

 という声が聞こえて、ゾッとした。

 男子たちはスマホを川辺ちゃんに構えて、めっちゃシャッター音が聞こえだした。

 私は正直怖くてそちら側も見られない。何でそんなイジメをするの? そんなイジメを進行させるの? そもそもスクールカースト上位女子たちが何か暇潰しでいろいろ言っているだけじゃなかったの? いや”だけ”ってかなり語弊があるけども、だからって何で男子まで、しかも直接的というか物理的というか。身体が硬直してしまい、私はお弁当を食べることもできない。もしこの男子たちの集団がこっちにきたら私は何もできないかも。いや川辺ちゃんを助けなきゃ。でもそんなことできない。男子たちの暴力の前では私は何もできないんだ。なんて無力。非力。中学生までは女子も男子に強くいけたけども、体格が徐々に差がついていき、もう男子たちがその気になれば女子なんて簡単に制圧されてしまうもので。あぁ、川辺ちゃん、川辺ちゃん、どうしてそうなってしまったんだ。私がだらだらお笑いに興じている間にこんなことになっていたなんて。

「おい、ちょっとバナナ持てよ」

「ブスなんだからバナナぐらい持てよ」

「つーかオマエ、バナナ持ってきたんだ」

「いや小道具あったほうがいいだろ」

 何言ってんの? いや何だ、マジのバナナだよね? さすがにそうだよね。でも目視して確認はできない。

 すると女子たちの声で、

「ヤだー」

「やらしー」

 というニヤニヤな笑い声が聞こえてきた。

 そのくらいの反応なら多分本当の、果物のバナナに違いない。これはまだホッと一息……なんてできない。そんなあからさまなセクハラみたいなのがのさばってしまっている。

 何で? そんなに偏差値低い高校じゃないじゃん。どうしてこんなイジメがのさばっているの?

 すると、私は他の女子に話し掛けられた。

「志田さん、わたしたちと一緒にお弁当食べない?」

 いつものグループだ、でもそこには前にいた川辺ちゃんはいない。

 というか何で川辺ちゃんがこんなことされているのに、みんな平常心でいられるの? 私がおかしいの? 私が感情移入し過ぎているの?

「あの、私は、お弁当の気分じゃない、ゴメンなさい……」

 と妙に先細りで小さな声が出てしまった。

 するとその女子が、

「具合が悪いなら保健室に行ったほうがいいよ」

 と何でその優しさを川辺ちゃんに向けることができないの? 一体私と川辺ちゃんの何が違ったの? 一緒でしょ?

 私は、

「でも大丈夫」

 と頷きながら答えると、その女子は「また今度ねっ」と優しく言ってくれて、自分たちのグループの輪の中へ戻っていった。

 言え。

 私よ、言え。

 川辺ちゃんを助けろ。

 ここで助けなきゃ、私は星見の隣にいる資格は無い。

 星見だったら絶対に止める。

 星見は人の機微には疎いけども、嫌がっていると分かれば絶対に止める。

「おら、バナナをメガネに押し付けようぜ」

「汚せ汚せ、バナナでメガネを汚せ」

「うわ何かバナナって汚れになると汚ねぇな」

「ほら、疑似精子とかもバナナジュースから作るって言うじゃん」

「オマエ詳し過ぎだろ」

「常識だろ」

「何かメガネに付いたバナナ、精子っぽくね」

「オマエさぁ、ブスで欲情すんじゃねぇよ、B専かよ」

「欲情してねぇし、というかメガネ外して、バナナの汚れ舐めろよ」

「そうそう舐めろよ、ブスが舐めてるとこ貴重じゃね?」

 言えよ!

 私!

「……何かさ、メガネ外すと意外と可愛くね?」

「B専がよぉ」

「いやマジで」

「舐めろよ」

「おっ……ちょ、マジで……」

「いいじゃん」

「スマホ撮るぞ」

「つーかさ、軽く脱げよ」

 スクールカースト上位女子たちの声が聞こえる。

「ヤバイかもー」

「エロぉ」

「というか川辺もノリノリじゃん」

「エロ川辺じゃん」

「胸元開けろよ」

「谷間見せろよ」

「顔にもバナナ押し付けておくか」

 もう男子が喋っているのか女子が喋っているのかどうか分からない。

 みんな低音で暗い声をしている。

 そんな時だった。

「雨降ってきたな」

「あと数分あったら俺のバイシクル決まっていたのに」

「んなわけねぇだろ」

 グラウンドでサッカーをしていた別のグループの男子たちが教室に戻ってきたみたいだ。その輪の中に弥助もいる。

 するとそのサッカーをしていた男子たちの一人が、

「おっ、何やってんの?」

 と川辺ちゃんを囲んでいる男子たちに近付き、

「今、エロい写真集撮ろうと思ってんだよ」

「コイツ、メガネ外すと結構エロいんだよ」

「ほら、バナナ舐めろよ、バナナ」

 弥助は即座にその集団の中に入っていき、バナナを奪って一言。

「いや糖分補給助かるわぁ!」

 そう言って、そのバナナをモグモグ食べ始めた。 

 最初からいた男子がちょっと引き気味で、

「いやそのバナナ、川辺のメガネに押し付けたヤツだから汚いから」

 弥助はバカデカい声で、

「でも俺は綺麗だからさ! というかさ、スポーツ帰りの俺たちのセクシーな汗の写真集撮ってくれよ!」

 と言ってポーズを取ると、グラウンドでサッカーをしていた男子たちが次々とセクシーポーズを取り、中には、

「おれの裸で文句ねぇよなっ」

 スパダリのような声で一気に上半身裸になって、ダブルバイセップスをする男子もいた。

 すると川辺ちゃんを囲んでいた男子たちも爆笑して、

「テメェらの裸なんざどうでもいいし!」

 と言いつつも、何か川辺ちゃんをイジメる流れが無くなった。

 あぁ、そっか、星見の隣に立つべき人間は弥助なんだ。

 すごいよ、弥助。

 こんな淀んだ空気を一変させて。

 星見と弥助のカップルなんてお似合いかもしれない。

 そんなことを思っていると、スクールカースト上位女子たちが、

「つまんねぇ」

「犯せや」

 とか言っていて、背筋が凍った。

 何なん? というかむしろやっぱりスクールカースト上位女子たちのほうがヤバくない?

 一体この教室、今後どうなってしまうんだ……?

 星見は昼休みが終わる予鈴のチャイムで教室に戻ってきて、そのまま授業&授業になった。

 放課後になり、川辺ちゃんはまるで走るように教室からいなくなり、スクールカースト上位女子たちが後ろ姿をクスクスと見下すように笑っていた。

 星見はまた委員会があるみたいで、バッグを置いていなくなり、他の生徒たちもぞろぞろといなくなり、一人の男子が、

「弥助、今日ゲーセン行く?」

「いや今日はいいわ」

 と答えて、弥助も何か用があるんだと思った。

 私は誰もいない教室でぼんやりと川辺ちゃんの席を見ていると、

「志田」

 という声がして、えっ、と思いながら振り返るとそこには弥助がいた。

「何か用があったんじゃないの?」

 と思ったことをそのまま口から出すと、弥助が、

「志田と喋りたかっただけ」

 と言って左隣の席に座った。

 私とサシで会話って意外と無いので、少しドキドキしていると、弥助はこう言った。

「なぁ、俺たちがいない間の川辺ってどうだった?」

 急に川辺という単語が聞こえて、昼休みの光景というか声がフラッシュバックする。

 顔が強張ってしまったんだろう、弥助は少し困惑するように、

「いや話すのが嫌ならいいんだが」

 と言ったんだけども、実際にやられている川辺ちゃんは耐えているのに、話すだけの私が、いや話すことによってカムアウトみたいになってしまう? いやでも弥助は川辺ちゃんのことを助けたいに違いない。ならば教えることが一番だろう。

 そこから私は川辺ちゃんが受けていてイジメの内容を言うと、弥助はすっかり参ったように溜息を吐き、

「そんなことが、か……」

 と後ろを振り返って窓のほうを見た。

 でも、というか、

「弥助の行動、すごかったよ。私、弥助のこと尊敬したし」

「いや……咄嗟だったけども、合ってたんかなって……」

「合ってたよ、弥助本当にすごいよ、でも私は全然で……」

 弥助が私のほうをまた向いて、

「志田」

 と言ったところで、私は嘔吐するように言葉が溢れてきた。

「私無力だよ、何もできないよ、川辺ちゃんの傍でずっと座っていたのに、男子が束になっていたらもう女子って何もできないんだよ、情けないよ、こんな気持ちになんてなりたくないのに、なんて自己嫌悪する権利も無いのに、本当に何もしていなかったんだから」

「志田!」

 弥助は急に大きな声を出して、私はビクついてしまうと、弥助は優しい顔でこう言った。

「志田が苦しむ必要なんてないんだよ、それだけは絶対に違う、志田は何も悪くない」

「でも傍観者だって……」

「それは本当に傍観していたのか? 志田の話しぶりで分かるよ、きっと震えていたって。直接イジメられてはいないけども、志田も一緒になって苦しんだんだよ。志田がただの傍観者のはずないだろ?」

「でも何もできていない私なんて一緒に苦しむ権利なんてなくて」

「いいんだよ、共感していつか何か誰かを助ければいいんだよ、急に無理して動き出す必要も無い、志田は志田のために生きる、それで十分だ」

 涙なんて流す権利なんてないはずなのに、私は瞳から零れてきた。

 弥助はずっと囁くように、

「大丈夫、大丈夫」

 と言ってくれたんだけども、やっぱり私が弥助を抱えることはおかしくて。弥助の優しさは川辺ちゃんに向くことが正しいはずなのに。

 その時だった。

「弥助、玖瑠実のこと泣かしたのか?」

 バッとそちらのほうを見ると、星見が鬼神のような面持ちで弥助のことを睨んでいた。

 私は間髪入れずに、

「違うよ」

 と言ってから、今あったことも、川辺ちゃんのことも全部説明すると、星見は私の右隣の席に座りながら、

「まさかそんなことがこの教室で起きていたなんて……」

 と、どうやら絶望しているような顔だった。

 少しの沈黙後、星見が口を開いた。

「とはいえ弥助は素晴らしい。アタシもそんな人間になりたい。弥助は最大限に賛辞されるべきだ」

 と言って拍手をした。

 弥助は私が褒めた時よりも何だかずっと嬉しそうで、心がモヤってしまった。

 いやいや、こんなことで嫉妬している私よりも、同じ場面に出くわした時、きっと同じように動く二人のほうがきっとお似合いで。

 星見にはやっぱり何も敵わないな、と思っている間もずっと星見は弥助のことを褒めていて、弥助は照れ笑いを隠しもせず、

「もういいよっ、こんだけ褒められると俺ダメになっちゃうよ! じゃあな! また明日!」

 と弥助が立ち上がり、急いでバッグを持って、教室の外に飛び出した。

 今度は星見と二人きりになった私。

 すると星見は真剣な表情で、私の目を見ながらこう言った。

「玖瑠実、やっぱり私は生身の、フィジカルのお笑いがやりたい。一緒に漫才してくれないか。世の中を元気にしたいんだ」

 私は、ただ思っていることをまず言うことにした。

「それって、川辺ちゃんを元気付けるために?」

「そういうことも含めてだ」

「そんなに上手くいくかな」

「上手くいく、玖瑠実と一緒なら何でも上手くいく」

 川辺ちゃんの傍で何もできなかった私が何かできるはずないし、そもそも、

「あんまそういうのに、下手に触れたら良くないものだよ」

「でも笑いは生きる活力になるし」

 と食い下がってきた星見。

 いやでも、

「時と場合によるよ、お笑いって受け手側にも多少余裕が無いとダメなんだよ。まあ人それぞれだとは思うけども」

「そうか……」

 と肩を落とした星見は言葉を捻りだすように、

「アタシはそういう人間の機微は苦手だからな……」

 でも、と思って反射で言葉が出た私。

「あくまで私がそう思っているだけで、弥助にコンビを組みたいと言えば」

 と言った瞬間から自己嫌悪。

 結局私は星見と私よりも、星見と弥助のペアのほうが良いと心の底から認めてしまっている。

 あまりにも情けない、でもそれはもう事実だから受け止めるしかない、胸が重くなるくらいに悲しい事実だけども。

 すると星見は「うん」と少し頷いてから、

「いやアタシは玖瑠実がいいからなぁ……弥助と組みたいとは思わないんだ」

 何それ、ちょっと嬉しいかも。

 そっか、星見の中ではまだ私のほうが大きいらしい。ちょっとだけ自尊心が戻ってきた。いやこんな時にそんな話だけども。

 星見はゆっくり立ち上がり、

「玖瑠実も帰ろう。今日は疲れただろう」

 と言って私に手を差し伸べてきた。

 私は黙ってその手を握って立ち上がり、校門まで一緒に行って、バイバイした。


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