表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

【03 遠出】

・【03 遠出】


 十一月のある日、星見が私に少し深刻そうに語り出したので、何なんだと思っていると、

「前に投稿していた川柳が受賞して、授賞式があるから一緒についてきてほしい」

「えっ? 授賞式! すごいじゃん!」

「ありがとう」

 とまだ返答の答えをもらっていないから星見は控えめって感じなんだけども、

「全然ついていくよ! 星見の晴れ舞台見せてほしいよ!」

「いいのか、ありがとう、玖瑠実」

 そう言って深々と一礼したところで弥助がやって来て、

「何? コント、謝罪会見?」

 あれから弥助とは二週間に一回、即興短文をしている。

 全体のコミュニティ名はネット長文らしいので、ネット長文と言ってもいいらしいけども、正しくは即興短文らしいので、私はちゃんと脳内でも即興短文と描写している。偉い。星見もそうみたいだ。だから星見も偉い。

 弥助とは結構仲良い感じになって、生身の弥助も嫌味が無いので、普通によく会話するようになっている。

 星見が矢継ぎ早に、

「いや今度アタシの授賞式があって、玖瑠実にもついてきてもらうことになったんだ」

 弥助は手放しに褒め称えるように、

「すごい! 俺も見に行きたい! 星見の晴れ舞台見たいよ!」

 私は表舞台に立つことが本当に嫌なほうなんだけども、星見は基本目立ちたがり屋ではある。

 よって、こんなこと言われると当然、

「ありがとう、弥助にも来てほしい」

 と喜びを噛みしめるようにそう言った。

 私としては星見と二人きりもいいなぁ、と思っていたし、男子とお出掛けとか普通に経験が無いので、軽く緊張を催してきた。

 対する星見はそんなこと全然気にする様子も無く、星見にとって性別というものは本当に些細なもんなんだと思う。

 星見から日程を聞いて、その時に弥助が断るかなとかも思ったんだけども、

「めっちゃ行ける! というか祭りなんだ! 俺六百円までなら何か奢るよ! いや星見だけじゃなくて志田の分もさ!」

 と言ったところで、弥助は必ず来なさいと思った。我ながら現金だと思った。

 そんな感じで日々を過ごしていき、ついに当日になった。

 会場には電車を乗り継ぎ、バスに乗ったら徒歩、という遠出だけども、それ以上に高揚感があった。

 最初に駅前に着いたのは私ですぐに弥助がやって来た。まさか弥助と二人きりになるパターン、想像していなかった。

 弥助の私服はスケボーのロゴみたいなのが入ったぶ厚めのパーカーとジーンズ、髪型の坊主と相まって爽やかな印象を受ける。

 私は適当に中着てダッフルコートで隠して、タイツを履いてのロングスカートなんだけども、もっと考えてきたほうが良かったか? とか思えてきた。

 すると弥助が、

「服似合ってるね! カッコイイ!」

 と言ってきて、正直一気にまんざらでもない気持ちになった。

 いやこういう時はこっちも褒めるのが相場と決まっている。

「弥助も爽やかでいいじゃん」

「マジっ? めっちゃ嬉しいんだけども!」

 そこから滑らかな出だしとなり、そのまま二人で結構談笑した。

 主にお笑いの話。私は勿論、弥助もかなりのお笑い好きで、最近見たバラエティの話をしたら止まらなかった。

 私が見ていない番組の話でも、最初にネタバレの確認をしてから、弥助が話すわけだけども、なんせ喋りというか描写が達者で、情景がすぐに浮かんだ。

 その時にふと思ってしまった怖いこと。

 星見が漫才コンビを私に打診してきて断ったら、弥助を相方にしようとしてそのまま星見は弥助とコンビを組んでしまうのでは、ということ。前も思ったかもだけども、喋りの達者さを改めて認識したことにより、その情景が完全に浮かんでしまった。

 いやいや星見はあくまで私のだから、なんて独占欲が通用する世界ではない。

 じゃあ私は嫌々でも星見の相方をしないと、弥助に星見がとられてしまうということ? マジか、マジかぁ、マジでどうしよう……。

 一瞬私の表情が曇ったんだろう、弥助が伺うように、

「どうしたん? というかちょっと星見遅いね」

 と言って会話が止まってしまった。クソ、私のクソみたいな妄想でこんなことになってしまうなんて。

 弥助も弥助だ、機微に気付き過ぎだろ。

 ちょっと何か、こういうのはマジで良くないので、

「ゴメン、一瞬宿題のこと考えちゃっただけ」

 と嘘は嘘だけども、ちゃんと言い訳を言っておくと、

「何それ! 俺も!」

 と優しく笑った時に何故だかドキリとしてしまった。

 いや、いやいや、何この胸の高鳴り、意味分かんない、意味分かんなくない? ときめくにしたってでもよ? いや私はこういうこと、一般常識が星見と違って分かっているほうだから、ときめきかもしれないとちゃんと描写ができるほうですが、ときめくにしたってマジで意味分かんなくない? このタイミングじゃないっしょ、私服が爽やかな時でしょうが、何その恋に落ちるのは突然だからみたいな、そもそも落ちてないし、さすがにこのタイミングじゃないし、このタイミングで落ちるヤツいねぇし、キモいでしょ、このタイミングは、と考えていたところで、急に弥助が爆笑して、変な天変地異? と思ったら、星見がやって来ていただけだった。

 否、やって来ていただけなんて話じゃないし、まあそれは私は慣れているけども、弥助は慣れていないか確かに。

 そう、星見の私服はクソダサである。

 まるでオタクが着ているような格子柄のYシャツを着て、まだそれだけなら星見は美人だから許されるのに、前のボタンを開けてTシャツが見えているわけだけども、そのTシャツがゴシック体で横書きで”禿同”と書いてある。なんて読むかは不明だ。でもカッコイイ漢字ではない。そもそもゴシック体は何でもダサく感じられるし。せめて行書体で縦書きで”一騎当千”とかにしてくれ。

 さらに十一月の下旬にホットパンツだし。もう、ちょっと寒いだろ。今年はもう、ちょっと寒いだろ。タイツは履いてるっぽいけども、かなり薄いヤツだ。

 星見が堂々と、

「視線釘付けだな」

 と自己肯定するところもテンプレートだ。

 弥助は指差しながら、

「その文字なにぃっ!」

 と聞けば星見は、

「アタシも知らん、カッコイイから着ている」

 と言ったんだけども、まずカッコ良くないだろ、一騎当千とか明鏡止水とかと同じカテゴリーじゃないだろ。

 私はスマホで写して、画像検索したところを星見に見せながら、

禿同はげどうだってさ! 激しく同意の誤字だけどそのまま使われるようになったネットスラングだって! 上のハゲという字はマジであのハゲの漢字らしいよ!」

 弥助はばっすんばっすん笑いながら、

「実は俺知ってた! あんま良くない世界のネットスラングだよ! そんなん着ちゃダメだって! 授賞式でしょ!」

 しかし星見は一切動じず、

「大賞受賞に激しく同意、いや禿同だ」

 と言い放ち、メンタルの強さ半端無いと思った。

 いや、というか、

「星見、大賞だったんだ。授賞式の知らせが電話できたとしか言っていなかったじゃん、あの時」

 星見はうんうん頷きながら、

「とはいえ、何も言わず授賞式と言われたら大賞に決まっているじゃないか」

 と答えてそれもそうかと思った。

 というわけで星見は切符を買って、私と弥助は交通ICカードで改札を通過して、一緒に電車に乗って会場へ向かった。

 トントン拍子で会場まで着いたのは、私たちの会話が盛り上がったからだろう。

 電車も人が少なくて、全然喋ってもいい感じだったので、小声は意識していたけども、三人でずっと喋っていた。何か仲良過ぎでは? と一瞬思った。星見はしきりに「川柳女王としては」と天狗ボケを繰り返していたが、本当にボケなのかどうか後半気になってきた。決して嫌ではないけども。なんせ事実だから。

 授賞式が行なわれる祭り会場に着き、受付のようなところで星見が、

「星見奈子です。りんご部門の受賞者です」

 と言うと、安全ピンで付ける花柄のバッジをもらって、どうやらをそれを付けないといけないらしい。

 受賞者丸出しで祭りを堪能しないといけないんだ、と私は思ったんだけども、星見は誇らしげに付けていて、人それぞれの感性だね、と思った。

 授賞式までまだ一時間あるらしく、とりあえず待つことになったんだけども、祭りといっても本当に神社の境内にちょっとした出店があるだけの小さな祭りだった。

 ただしデカい舞台が作られていて、そこにあがって表彰状とか受け取ることは明白だった。ただ何故かドラムが置かれていてそれは謎だった。

 弥助がとあるほうを指差しながら、

「これ受賞者のボートじゃない?」

 と言ったので、そちらを見たところで、私は驚愕してしまった。

 星見も「川柳女王のお通りだ」と電車内で時折言っていたことを言いながら見たんだけども、きっと絶句していると思う。

 何故なら、

「星見! アンタ大賞じゃないよ!」

 なんと星見は優秀賞という第二席で大賞ではなかったからだ!

 星見は電車内の会話で「川柳女王としては」みたいな不遜ボケをしていたのだが、なんと女王じゃなかったのだ!

 弥助が星見の私服を見た時のように吹き出して笑い、私はさらにとあることに気付いてしまい、震えた。

 私は星見がなんて言うか待っていると、星見が満を持して、

「のびしろだな」

 と納得したように頷いたので、どうやらあっちのほうには気付いていないようだったので、指摘することにした。

 この本名と順位が張り出された受賞者のボード、これをよく見ると、

「星見、星見って星見奈子だよね、奈良の子で奈子だよね」

「まあ実際は新潟の子だが」

「ほら、名前が奈良の子じゃなくて、菜っ葉の子になっているよ、菜子になっているよ」

「うわぁあああああああああああ!」

 拳銃に撃たれたみたいなデカい声を出した星見に運営者と思われる人が近付いてきて「どうしたんですか?」と言ってきたので、ショックを受けている星見に代わって私が説明することにした。

 すると、どうやら三位の山田菜子という人の名前に引っ張られて、星見の奈子も菜子になってしまったらしい。

 運営者の人は即座に何かを確認して「表彰状のほうは合っているな……いやいや申し訳御座いません」と謝ってくれたので、星見も納得してその場は流れた。

 いやでも、と思ってあの運営者さんがいなくなったところで私は、

「三位に引っ張られて二位の名前が変わるって何、普通逆じゃない? よく分からないけども逆じゃない?」

 弥助も頷くように、

「確かに。二位が三位を喰うイメージだよな、上から順に書いていくだろうし」

 星見は呆然と受賞者のボードを見ながら、

「私の名……」

 と呟き、一応あの場では納得していたけども、星見自身は残念だろうなと思った。

 もし仮にこれが私なら、むしろ本名を晒さなくて良くて嬉しいくらいだけども、星見は自己顕示欲が強いから。

 でも星見も気持ちを切り替えたのか、柏手一発叩いてから、

「よし、弥助、奢ってくれ」

「何でもいいよ!」

 と快活にサムアップした弥助。星見は第一印象から決めてましたって感じで、

「新津りんご祭りなのだから、当然アップルパイが食べたい」

 と言って指差した先にはアップルパイ(四百円)と書かれていた。

 私はふと、

「星見、弥助は六百円までおごってくれんだよ?」

「だから六百円使ったつもりで、アタシと玖瑠実と弥助自身が買えば、ちょうど千二百円じゃないか」

 これはマジでさすほし。こういうこと天然でできる星見はいろいろ持ってる子だ。

 弥助はパァッと明るい顔になり、

「星見すげぇ! 買ってくるよ! どこか場所とってて!」

 と言って買いに行った。

 さてさて”場所とってて”と言っていたけども、組み立て式の会議室テーブルとパイプイスのあるゾーンは全て誰か既に先着がいる。

 授賞式の一時間前に来た私たちの席なんてもうない。地元の祭りといった感じで、もうそのゾーンには全員住民が座っているっぽい。

 するとさっきの運営者さんがパイプイスを三脚持ってやってきて、

「これを木陰に置いて座っていてください」

 と言ってくれて、それはマジで有難いと思って、感謝を述べつつ受け取った。

 私が二脚受け取って、星見は別にいいのにという顔をしつつも一脚持ちながら即座に、

「玖瑠実、この木の下にしよう。直射日光は暖かいが紫外線もあるからな」

 と言って、パイプイスを開いて置いた。

 ここからは立地的に舞台は見られない。目の前にそのテーブルとイスとパラソルの席があるからだ。

 でも別に何かの出し物するのかどうかも分からないので、座れるならどこでもいいって感じで、私もパイプイスを置いたところで弥助が戻ってきて、

「イス生えてきたの?」

 私はツッコむように、

「大きめキノコじゃないから」

 と言うと弥助は笑ってから、

「はい! アップルパイ! 勿論奢りだから!」

 そこから三人でアップルパイを食べ始めた。

 パイ生地はパリパリで、中のリンゴはしっとりで甘くてとろける、シナモンが利いているほうの本格的な味で私は大満足。

 星見も大興奮で、アップルパイの美味さを語り、弥助も奢り甲斐あるなぁ、といった面持ちだった。

 でもちょっと、喉が渇いた。

 生地のパリパリさもさることながら、リンゴが本当に甘かったからだ。勿論嬉しいことだけども。

 そんな時だった。一人の女性がクーラーボックスを持って近付いてきたと思ったら、

「受賞者の星見さん一行ですよね! わたし、さっきの運営の者の妻です!」

 星見は満面の笑みで、

「そうなんですかっ、はい、アタシが星見です。星見奈子です」

 と軽く挙手しながら答えてくるわけだが、これはもしかするとお茶をくれるのでは、と期待が込み上がてきた。

 そう、この祭り会場は普通に神社なので、自販機の類が無いのだ。勿論飲み物は売っているけども、祭り価格でちょっと高い。

 ここでクーラーボックスの中に入っていると思われるお茶がもらえれば、なんたる渡りに船。

 運営の者の妻と言うお方がクーラーボックスを笑顔で開けると、なんとそこにはおにぎりが入っていたのだ!

「わたしが今日握ったおにぎりです!」

 そう言いながら私たちに渡してくれた。おにぎり……! 好きだけども、嬉しいけども、お茶ではない!

 その運営の者の妻と言うお方はさらにクーラーボックスの底から、タッパを取り出して、開けると、そこにはきゅうりが入っていた。ちょい水分だ。

「これはきゅうりの漬物でわたしが漬けたモノなんですっ、良かったらどうぞ」

 と手際良く、爪楊枝を三本差してくださった。

 弥助はすぐにきゅうりの漬物を口に入れて、

「甘めで美味しいですね! 俺んち、砂糖入れないほうなのでこういう甘いヤツ新鮮で嬉しいです!」

 運営の者の妻というお方は笑顔で、

「あらそう言ってくれると嬉しいねぇっ」

 と言い、星見はおにぎりをもぐもぐしてから、

「カリカリ梅のおにぎり、こうやって中に入っているんじゃなくて、まぶしていると味が均等でいいなぁ。今後真似したいです」

「うふふ、有難うっ」

 私もそれなりの感想を言うと、運営の者の妻というお方は漬物をしまって、バイバイした。

 星見と弥助はほっこりとした笑顔を浮かべているが、私はどこかお茶もほしかったと思ってしまった。卑しい人間で申し訳無いけども。

 手に持っていたおにぎりを食べ終えたところで、何だかステージのほうが騒がしくなってきた。

 テントの隙間から、ギターを持っているような人間が見える。どうやらバンドの演奏があるらしい。

 というとあいみょんとか、ワニマとか、ゆずとか演奏するのかなと思っていると、バンドの三人組のボーカルと思われる人が声を出した。

「えー、わたしはー、GLAYがとにかく好きなんで、まずGLAYを三曲やっちゃいます!」

 と言ったと同時にドラムが激しく叩いて、始まったわけなんだけども、町の祭りで、神社で、GLAYだと……? 合ってるのか、そのチョイス。

 すると弥助が立ち上がって、

「俺GLAY好きだから、前のほうで見るわ」

 と言ってそそくさとステージのほうへ走っていった。

 星見のほうを見ると、テントの隙間からそのバンドのほうを腕組んで見ていた。敏腕プロデューサーみたいないでたちだ。

 バンドの演奏の時は静かにしないと、と一瞬思ったけども、すぐにこのバンドの音がデカいことに気付き、気にせず星見へ、

「町の祭りで、神社でGLAYって変わってるね」

 と言うと、星見は小首を傾げながら、

「そうか? 神社なら好きなモノをするべきだからいいと思うぞ?」

 と言って、そうか、星見にそういう常識は無いんだった。むしろ、神社は好きなモノをするべきという謎の理論を引き出してしまった。

 私は、でも私がおかしいのかなと思いながら、GLAYを聴いていた。演奏も歌声も最高だったので良かったけども。

 その後、ティックトックで流行っていると言われている曲をやって、正直私も星見も、多分弥助もピンとこなかったみたいで、弥助も戻ってきて席についた。

 バンドの三人組はバンドの三人組でその流行りの曲をよく知らないみたいで、何かあわあわしながらやっていた。本当に流行っているのか。

 バンドは大学生らしいし、私たちは高校生だし、どこにも流行っていないのでは? いや何か小学生の中で人気とか言っていたけども、本当だろうか。

 最後に思った通りのワニマをやって、バンドの演奏は終わった。一応万雷の拍手をしておいた。

 まだ授賞式まで時間があるっぽい、と思っていると、ステージの前のほうに子供が集まってきて、めっちゃダンスし始めた。

 テントに座っていた人たちが大盛り上がりだ。どうやら早くからテントで陣取っていたのは、親御さんたちだったらしい。

 相変わらずテントやテーブルがあるので、マンキンでは見れないけども、一生懸命踊っていることは伝わる。

 星見も後方彼氏ヅラで、うんうんと頷いている。弥助は妙に背筋を伸ばして見ていて、何だかおかしかった。

 子供ダンスが終わり、ついに授賞式だとなったその時、なんとテントに座っていた人たちがどんどんいなくなっていったのだ!

 そのいなくなり具合に星見も少々焦る。なんせ星見は自己顕示欲の塊なので、自分が主役の時に人がいなくなるのは悲しいのだ。

 すると弥助が、

「良い席で星見のこと見れていいな! 志田!」

 と笑顔で話を振ってくれたので、

「そうだね、星見を良い場所で見られることはすごく良いことだよ」

 と星見を鼓舞するように、ちょっといつもよりも高い声でそう言うと、星見も嬉しそうな顔になって良かった。

 私と弥助は最前列に座って、星見はテントの傍で立って、いつでも舞台上から声を掛けられても大丈夫なように備えた。

 ふと、私がステージ隣の運営側のテントを見ると、そこに二人、胸に受賞者のマークを付けた人たちが立っていたので、私は星見へ、

「星見もあっちへ行くんじゃない?」

「いや、アタシはまだ言われていないからこっちにいる」

 と星見は答えた。

 そんなこんなでついに授賞式が始まって、運営のお方と区長さんがステージ上に立ち、運営のお方が司会進行をしている。

 まず一人、運営側のテントに立っていた受賞者がステージ上に呼ばれて、階段をのぼってステージ上に立った。

 区長が表彰状を渡し、司会進行も賞品をプレゼントする。どうやら先に大賞(第一席)を表彰してから、優秀賞(第二席)を表彰するみたいだ。

 星見は優秀賞なので、大賞の人の後だ。今は新津部門をやっている。星見はりんご部門なので、次の次かな?

 新津部門大賞の人の表彰が終わったところで、なんと次はりんご部門の大賞が呼びこまれた。

 ということは、優秀賞はステージ上にあがらず、裏で表彰状と賞品をもらうって感じ?

 私は星見のほうを見ると、何か、サッカー選手がライン駆け引きしているように、運営側のテントとこっちの観客席のテントの間をうろうろしていた。

 ちょっとカッコ悪いなぁ、と思いつつも、確かに運営のお方から運営側のテント側に呼び込まれていないので、どうすればいいか分からないって感じだ。

 まだ神社部門があるので、もしかしたら優秀賞は三人揃って表彰されるかもしれないし、と私が思ったところで、ステージ上から、

「りんご部門優秀賞、星見奈子さん」

 と呼ばれて、急いで星見はステージ上に行こうとしたわけだけども、急に呼ばれたので、何かめっちゃ狭いところをグイグイ通過して、ステージ上にあがっていった。

 さすがに星見もそれどころじゃなかったのか、階段で転ぶギャグとかはしなかった。何か表情が終始慌てている。

 でもまあしっかり表彰されて一段落ついたみたいで、笑顔でこっちの観客席のテントに戻ってきた。

 どうやら新津部門の優秀賞の人は今日来ていなかったらしい。その後、神社部門の大賞・優秀賞は地元の人らしく、それぞれ仲間内で立っていた場所からステージ上にあがっていったわけだけども、地元の人はちゃんと導線の話があったらしく、スムーズにステージ上にあがっていた。

 星見ばっかり、あわあわ壇上でダサかったなぁ、と思ったけども、それも思い出だね、と思った。ちょっと面白かったから、まあいいだろう。

 授賞式後、私たちはお祭りをあとにして、電車に揺られて帰ってきた。

 電車内で星見が、

「もっとサクラのように盛り上げてはほしかったよ」

 と言った時に、私も弥助も吹き出して笑ってしまった。

 その場合はもうサクラとかじゃなくて、知り合いの普通の歓声だろ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ