【02 即興短文】
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・【02 即興短文】
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次の日の月曜日、昨日の余韻が残る星見と共に、ハロウィン仮装大喜利の感想戦をンキャンキャ言いながらしていると、一人の同級生の男子が話し掛けてきた。
「星見、すげぇよ! 昨日見たぜ!」
星見は小首を傾げているが、私はちょっと、と思いつつ、
「五木くんだよね、そう言えば昨日会場にいたよねっ」
正直星見が五木くんのことを一切認識していないだろうなということは分かっていた。
星見はクラスメイトにあまりにも興味が無いから。
五木くんは饒舌な感じで、
「いやぁ! 星見の大喜利普通に面白かったし! お笑いの才能あるんだぁ! と思ってさぁ!」
星見はまんざらでもない表情をしながらも、
「でも玖瑠実がいろいろ案を出してくれてな。あの仮装も登場のコケも」
と言うと、五木くんは目を丸くしながら、
「あのコケってわざとなのっ? しかも志田の指示ってこと! それすげぇ! 志田も勿論、演技だとバレずやり切った星見もさぁ!」
何かめっちゃ褒めてきてくれる。何か下心でもあるのか、ってくらい。
正直私は心の中で一歩引いて五木くんのことを見ているんだけども、対する星見は全ての事柄を真正面から受け止めるほうなので、段々鼻高々になっていっていることが手に取るように分かる。
星見はサムアップしながら、
「まあな。アタシと玖瑠実がやればこんなもん楽勝だよ」
だいぶ分かりやすく天狗になり始めている。
ここで何か星見がデートに誘われたら、絶対断らせてやる。星見に寄り付く虫は全部払ってやるんだから。
五木くんは五木くんで機は熟したみたいな顔をしてから、
「でさ! 星見は勿論、志田もさ!」
ん? 両手に花デート? そんなことさせるか! ふしだらめ!
と声に出そうとしたその前に、五木くんはこう言った。
「一緒にネット長文というか即興短文やらないっ? 即興短文! こっから冬になるし、家の中で遊べるお笑いゲームみたいなもんだから、絶対星見にも志田にも合うと思う!」
「そっきょう、たんぶん……?」
アホみたいな声で私も星見もユニゾンした。
五木くんは想定していたような顔で続ける。
「お笑いの台本というか脚本みたいなモノで競い合う遊びさ! 三人でそれぞれ書いた二十五行のお笑い脚本を三人で審査し合う遊び! 実際に昔はネット上でたくさんやっている人たちいたんだぜ!」
私は知っている。
星見がお笑いに興味を持っていることに。
さらに星見が最近私にも何かやらせようとしてくることも。
そしてそれを総合して考えた結果、私と漫才コンビを組もうと画策しているんじゃないか、と思っているんだけども、私は表舞台に立つことは絶対嫌。
で、この誘いを加味して考えるわけだけども、延長線上に漫才コンビの道がありそうで正直断りたい。
でも知っている。
それ以上に知っている。
星見は――
「何か面白そう! アタシやってみてもいいかもな!」
と目を輝かせながら、こっちを見てきた星見。
いやいや、
「やるなら二人でやってよ」
と、できるだけ塩対応な声でそう言うと、五木くんが、
「いや審査し合うことを考えると、最低でも三人いないと成立しないんだよ! 自分以外のネタに投票するシステムを採用するからさ! 三人は必要なんだ!」
さてさて、ここが考え時だ。
どうやって切り抜けるか。上手く切り抜けないと、最終的に星見と共に漫才を披露する世界線へ行ってしまう。絶対嫌だ。練習中に星見のことを嫌いになる可能性もある。
だからって、星見と五木くんだけにやらせて、星見のことを観測できなくなることも嫌だ。変に親密になったら腹立つし。
そうだ、この方法があった。
これでいこう、
「じゃあさ、星見と五木くんだけで書けばいいじゃん、私は審査だけするから」
そう、私は書かずにいて、少しだけお笑いから距離をとり、かつ、星見からは距離をとりすぎないように審査員として傍に居続ける、これが最善手だ。
星見はう~んと他に策が無いか考えているようだけども、付き合いが長いから分かる、星見は私の最適解を越えられない。
このままイケると思ったその時だった。
五木くんがこう言った。
「ダメだ、志田はそもそも星見側なんだから、志田は星見を優遇してしまう。やっぱり自分も書いて参加して、ちゃんと公平に審査しないと失礼だという責任感が無いと、ちゃんとした審査はできないと思う」
何だその論は。
いや分かる。言いたいことは分かる。でもたかが遊びだろ? って言ったら、何かちょっと違う空気には既になっている。
何故ならその五木くんの案に星見も思い切り同意しているようだったから。
私が今持っているカードは一つ、遊びに責任感とか無いでしょ、というカスみたいなカードだけだ。
勿論それで乗り切れる可能性もある。ただし人としての信頼度をさげる発言ではある。
このカードはこの世の遊びに対して全部に言えてしまうものだからだ。
遊びのサッカーなんだし、手を抜いていいでしょ? 遊びのマリオカートなんだし、手を抜いていいでしょ?
そんなわけない。
真面目にやるから面白いんだ。
うわぁ、結構良いこと言ってくるなぁ、五木くん、軽く認めたよ、君のこと。
じゃあもう分かった。
逆にこっから星見に漫才コンビへ興味を示させないようにすればいいだけだ。
要はこの遊びに夢中にさせて、漫才コンビという発想に至らないようにすればいいだけだ。
というか星見がネット長文というモノでお笑い欲をガス抜きさせれば、むしろ得なのでは?
よっしゃ、こっからは私の暗躍次第だ。
「う~ん、じゃあいいけどもぉ」
と一応あんまり乗り気じゃないような言い方をしておいたが、内心は結構もう腹が決まった。
星見がリアルな笑いに向かないように頑張るぞ!
といったところで、星見が、
「五木くん」
と言うと、即座に五木くんが、
「俺あんま五木って苗字好きじゃないんだよね、だから名前の弥助にしてよ、くん付けとかもいらないし」
ちょっと近くないか? と思ったんだけども、星見は気にせず、
「じゃあ弥助、早速ネット長文についていろいろ教えてくれないか?」
と言ったところでチャイムが鳴ったので、
「じゃっ! 昼休みからでいいっ?」
と弥助が言うと、星見はうんと大きく頷いてから、
「昼休み一緒にご飯食べながら!」
と言った。まあじゃあ今日はそういうことか、と思って私も席に戻った。
そこからはいつも通り授業&移動教室&授業で。今日は移動教室あったわ、授業&授業オンリーじゃなかったわ。
昼休みになったところで星見のところへ、私も弥助もやって来て、弥助は妙に丁寧そうな口調で、
「では早速即興短文についてお教えします」
と一礼した。
いや、
「厳かボケどうでもいい」
と軽くツッコんでおくと、弥助が嬉しそうに、
「おっ、志田も面白いじゃん」
と言ってきて、何か、全然こっちは普通だけども、響いてなんか全然いないけども、テンションはあがった。志田”も”か……うん、まあそれなりに、悪くはないね、と思ったところで星見が、
「あぁ、玖瑠実は最高に楽しいヤツだから」
それに対して弥助は、
「頼もしいメンバーだ!」
と手を叩いて喜び、小さな青春を感じた。有難い、こんなのはナンボあってもいいですから。
というわけで、といった感じに弥助が柏手一発叩いたところで、
「じゃあ早速即興短文についてなんだけども、まあネット長文というコミュニティで遊ばれる企画の一ジャンルで、とりあえずツイッターでネット長文サイトまとめと調べれば基本的にはそれで全部事足りるかな」
コイツ、Xのこと未だに頑なにツイッターって呼ぶほうなんだと思いつつ、私は、
「ツイッターなんてしてないよ」
と嘘をついておくと、星見も同調するように、
「そうだな、SNSって怖いからやっていないんだよな」
とまあ星見はマジだろうな、星見がSNSするイメージ無いから。
弥助はスマホを私と星見に見えるように構えて、
「じゃあ俺のツイッターから見てほしいんだけども」
と言った一瞬、見ていいのかなと思ってしまった。
だってアカウント名とか見えちゃうし、何か、変なポストをリポストしているの見たら引いちゃうし。幻滅した相手とずっと会話したくないと思っていると、アカウント名は弥助と本名丸出し。
でも本当に苗字の”五木”のほうが好きじゃないみたいだ。アカウント名に五木を入れていないことにより、良い感じのリテラシーになっている。
一瞬見えたのが、お笑い芸人さんの面白ポストをリポストしていたこと。これは全然良い。高評価。おおむね異常性が無くて良かった。
ネット長文サイトまとめで検索して、出てきたアカウントのホームページを拝見する流れになった。
弥助が見せながらも、
「まあつまりネット長文自体は1999年からネット上で続けられている遊びって感じかな、やっている人は入れ替わり立ち代わりで。テキストで競い合うんだ。で、俺がしたい即興短文は二十五行のお笑い脚本対決をチャットを使って即興でやる遊びで、記録には2009年からこちらも管理人は立ち替わりで行なわれているんだ」
私はふ~むと息をついてから、
「めっちゃ歴史あるじゃん」
星見も興味津々といった感じに、
「こんなコミュニティがあるなんて知らなかったな」
弥助は改めてといった感じに、
「で、現在のネット長文そのものなんだけども、これがもうビックリするくらい過疎ってます。ということは俺がしたい即興短文もそういうことです」
私はついデカい声で、
「過疎ってんのっ?」
と言ってしまうと、弥助はケロっとした感じで、
「そそー」
と軽く言って、いやいや、
「過疎ってる文化を紹介したん?」
「そそー、だから好きに即興短文やネット長文をやっても文句言う人ゼロだよー」
星見は強く頷いてから、
「それはやりやすいな」
私はおいおいおいと思いながら、
「そんなストロングポイントみたいに感じるなよ」
弥助はニヤリとしてから、
「まっ、どんなネタしても、どんなネタを公開したとしても誰も何も言わないから、マジで誰も何も言わない」
私はツッコむように、
「マジで誰も何も言わないはちょっと物悲しいんだよ」
すると弥助が「まっ」と言ってから、
「一人だけめっちゃ読んで感想くれる人いるけどもなっ、だからそんなことはないぜ!」
私はどうかなと思いつつ、
「いや、それは一人だけ突出した例外がいるだけで、文化全体のアレじゃないでしょ」
弥助はあっけらかんと、
「それはそう」
と答えた。
星見は良く吟味するように頷きながら、
「まあある意味入りやすい環境ということだな、変な横槍は無いんだろ?」
というか、
「元々変な横槍とかも無かったでしょ!」
と私が言うと、弥助は悲しそうに首を横に振って、
「いやいや、昔は『俺から高得点取れなきゃ一人前じゃない』みたいな高圧的な審査員がいたらしいよ、超毒舌の」
私は目を丸くしながら、
「趣味の世界でそれは怖過ぎるだろ! その人、お金もらって審査員してたのっ?」
弥助はまあまあといった感じに、
「そんなことはなかったんじゃないかなぁ、詳しくは知らないけども、その世代じゃないから」
星見が改めて弥助のスマホ画面を見ながら、
「まあ昔はアマギフとかも無かっただろうしな」
弥助が同調するように、
「そうそう、1999年とか、というか2000年代~2010年代前半あたりはまだ無いでしょ」
お金をもらっていないで毒舌はただのストレス発散なんだよな、お金をもらっているから誰かを批判してもいいわけだから。
例えば、書評とかも雑誌に載って掲載料をもらっているから批評を書いていいわけで、野良で書いていたらただの憂さ晴らしなんだよな。
それを履き違えて、批評という名でネット上で匿名で書いている人いるけども、責任の伴っていない批評は個人攻撃だから。
でも、って感じに弥助が、
「まあ昔はそういう場ということで、批判されること覚悟だったらしいけどね。でも今は全然そんなんじゃないし、そもそも審査する人も少ないし。とはいえ審査コメント必須の企画は今もキツイ言葉はあるよ」
私は即座に、
「あるんかい!」
とツッコんでしまった。いやこれはツッコむしかないだろ。
すると星見が、
「審査コメント必須じゃない企画もあるのか?」
弥助はそうそうといった感じに、
「もう簡単に、noteでスキ押すだけで審査とみなしている緩いところもあるよ」
星見はフフッと笑ってから、
「逆に緩すぎるな」
まあいろいろあることはあるみたいだ。
要はどれが自分にとって一番いいのかって感じだ。
批判覚悟で審査コメントがほしければそういう企画に参加して、批判されることが嫌ならば緩いほうに参加するということか。
ところで、
「何か、褒めてくれるだけの感想って無いの?」
星見はやれやれといった感じに、
「それは甘い幻想だろう、玖瑠実にしてはさすがじゃないぞ」
ところが弥助は、
「だから感想めっちゃくれる一人がそういう人だよ、多分だけども人様のnoteやブログに自らやって来て書く場合は褒めるしかしないと決めているんじゃないかな? でも確かに自分のウェブログにコメントが届いて、それが批判だったら絶対ブロックするもんな」
星見は私を指差しながら、
「さすが玖瑠実、さすくる、合っていたな」
と言ってきて、弥助の前で”さすくる”やるの、辞めてほしかった。
その二人だけのノリを全然他者がいる時にもやるの、勘弁してほしい。
すると案の定、弥助が、
「今の何?」
と粒立ててきて、私はただただ恥ずかしそうにするしかできなくて、対する星見は、
「玖瑠実はさすがと言うしかないことをよく言うので、定型文にしているんだ」
と、そういうことなんだ、と、いや全然知らなくて良かったわ、というようなことを言った。
弥助は笑いながら、
「めっちゃ面白いじゃん」
と言って、何も面白くないだろ、と思った。
星見が何故か得意げに、
「玖瑠実はさすがでしかないから」
と、もう一回足してきて、それはもういいだろ。
いやいや、私が話を変えよう。
「というかさ、即興短文というかネット長文の歴史や現状は分かったからさ、次はその即興短文の書き方について教えてよ」
すると矢継ぎ早に星見が、
「そうか、それが大切だもんな、さすが玖瑠実、さすくる」
と言ったと思ったら間髪入れずに弥助が、
「マジさすくるじゃん」
と言ってきて、さすくる遣いが増えるのはマジで良くないけども、それを指摘するのも逆に意識し過ぎていると思われるのも嫌なので、黙るしかなかった。
弥助はスマホのメモ帳画面を出して、
「まっ、即興短文のネタの書き方って結局お笑い芸人さんのネタの書き方と一緒だと思うんだけどさ」
と言いながら、スマホを自分側に構えて、フリック入力をしてから、また見せてきて、
「まずは大喜利のように作っていくパターンね、お題を自分で設定してそのボケを先に考えて、そこから順番を組み立てていくパターン。星見はこれが得意そうだな」
星見は何だか鼻高々で、
「まあ大喜利はできるからな」
と言って、可愛かった。
弥助が多分適当に書いたであろうお題『こんなコンビニは嫌だ』に早速答えていくことになった。
星見がまず最初に、
「飲料水の冷蔵庫に普通に夕ご飯に焼く予定の肉とか冷えている」
と答えたので、私はツッコむように、
「田舎のマジコンビニじゃん」
と言うと弥助が感心するように、
「そうそう、もうそのツッコミで方向性が決まるわけじゃん。だからその場合は田舎のマジコンビニあるあるを考えていくと、芯のあるコンビニネタになるというわけ」
即座に星見が、
「駐車場が軽トラックで埋め尽くされている」
と言ったので、
「別にいいでしょ、地元に愛されてるじゃん」
とツッコんでおくと、弥助はまた笑顔で、
「そうそう、そんな感じ。じゃあ次は志田がボケてみてよ」
と急に無茶ブリしていき、鬼の側面あるのかよ、と思いつつも、こちとら現役のコンビニバイトなので、
「タバコを銘柄でしか言わないジジイ、番号という存在を知らなかった」
すると弥助は「おっ」と言ってから、
「むしろそれはコントの設定っぽいな、結局タバコの銘柄以外何も知らなかったというオチを先に作れば、あとは何も知らない人間という設定でボケを作っていけばネタになるね」
星見は小さく挙手しながら、
「店員が男性か女性かも判断できなくて、声の高い男性もいたもんだな、とか言う」
弥助はうんうん頷いて、
「ありだね、もうお金という存在も理解していなくて、この紙を渡すとくれるんだよなぁ、と言ったりとかさ」
私も何か言いたいと思って、
「で、お釣りは重いから毎回受け取らないとか?」
星見はうむと頷いて、
「さすが玖瑠実、さすくる」
と言ってきて、弥助がそれに対して、
「今のさすくるはちょっと軽いでしょ、もっと良い場面で言ったほうがいいよ、星見」
とまさかのさすくる判定員になっていて、もはやバカバカし過ぎて吹き出して笑ってしまった。
星見はウケといった感じに上機嫌そうにしていて、その星見を見て弥助も笑った。
星見は無言でサムアップしてきて、全然そういうことじゃないのに、と思ってしまったら、なお私は笑ってしまった。
弥助もたっぷり笑ってから、
「いやぁ、星見って本当に面白いな」
と若干嫌味含みかよみたいなことを言ったんだけども、星見は全ての物事を額面通り受け取るので、
「だろ?」
と自信満々に言って、最高過ぎた。これはさすがに最高過ぎた。さすが星見。さすほしだった。
そんなこんなで、あんまりちゃんとネタ作りの基本は聞き出せないまま談笑だけで終わった。最高の談笑だったけども。
昼休みの終盤に、とりあえずって感じで、弥助が、
「二人ともインスタグラム? というかパソコン持ってる? やり取りできるように、何か連絡先知りたいんだけども」
すると星見が即座に、
「LINEでいいけども」
私もまあこの会話の感じから、弥助が嫌なヤツじゃないことは分かったので、
「LINEでいいよ、あと別にパソコンあるけど何?」
星見も「あっ」と言ってから、
「パソコンもあるぞ」
と追加で言うと、弥助が、
「じゃあさ、早速三人で即興短文やってみようよ。ネット長文と違って行数が二十五行と短いから、とっつきやすいしさ。LINEでメッセージ送りながら即興短文書いて、で、フォームからネタを送ってくれれば、俺がやっている鍵付きのブログに掲載するから、そこで審査し合おうよ」
すると星見が、
「玖瑠実はバイトで忙しいかもだけども、アタシは一回やってみたいと思っている。都合つく?」
私はそんなことと思いつつ、
「別に年がら年中バイトしているわけじゃないから。普通に平日の放課後だけだから、休日とかは空いてるし」
弥助は嬉しそうに口角をあげながら、
「じゃじゃあ! 雨の日とか外に出にくい時とかにさ!」
と言ってきて、何の譲歩だと思いつつ、
「別に晴れの日とかでもいいよ、じゃあ今週の土曜日の夜九時以降とかどう?」
星見はうんうん頷きながら、
「全然大丈夫だ」
弥助はサムアップしながら、
「やれる! じゃあそうしよう!」
と日程が決まり、昼休みの予鈴が鳴ったので、それぞれの席に戻った。
というかまさかこんなよく分からないイベントが私に入ってくるなんて。
でもまあネット上でやるだけの、簡単そうな遊びみたいなので、ゲーム感覚で楽しめる感じはする。
だって生身で知り合っている三人だから、審査コメントでめっちゃ罵詈雑言とかも無いだろうし。
とはいえ、若干のわだかまりというかモヤもある。
でもそれは嫉妬というか独占欲というか、星見がただの変人じゃなくて、本当に面白いヤツということを私以外の人間が知ってしまったことが少しだけ嫌で。
しかしながら星見は私以外の友達というものがいないので、それはそれで良かったのかもしれないけども、これ以上星見に近付かれることは絶対嫌だ。
星見に恋するんじゃねぇぞ! 弥助!
それ以降、弥助とは教室でも軽く会話する仲になった。
まあ弥助自身、男子コミュニティがあるので、そんなこっちとガッツリじゃないけども、朝にすれ違えば挨拶するし、暇そうな時は普通にこちらへ寄ってくるし。
弥助も私と同じ感じで、同性と広く浅く繋がり合っているって感じだ。まあそうすることが教室外交として一番良いけども。
星見を見ていると楽だろうなと思う反面、若干浮いているわけだから、メンタル普通の私なら潰れちゃうだろうなとも思う。
そんなこんなで、土曜日の九時、五分前になったところで、LINEグループが活発的になってきた。
正直面白いかどうかまだ分からない遊びとはいえ、高揚感を抱いている私。
なんというか、こんなハッキリと創作をすることは初めてだから。
ずっと星見と変なボケ・ツッコミをやってきたしょうもないプライドというか自負があり、きっと面白いものが書けるはずという自分と、いやいや慣れていないことやったら全然ダメなのでは? 才能の無さに打ちひしがれるのでは? とネガティブなことを考えてしまう自分がいる。こんな訳の分からない遊びに対してさ。
実は一時間前から緊張していて、机の上とか部屋中も意味無く整理整頓してしまった。
何だか自分の部屋じゃないみたいな綺麗さで、変な違和感を抱き、何か百パーセントの実力出せなさそうでちょっと嫌。
ベッドの上のぬいぐるみは私が真面目にやっているか監視させるように、あえて私がいる机側を向かせることにした。
西会津町のゆるキャラ、こゆりちゃんが私を見守るなか、ついに、と思ったところで、
弥助の、
『では開始します!』
というメッセージが来て、何だかゾクゾクしてしまった。ついに始まるのか、って。
弥助いわく、集まって書く時はテーマがあったほうが盛り上がるらしい。
すると星見が、
『即興短文というか、コミュニティ自体はネット長文という名前みたいなので、テーマはネットにしよう』
と言って皆(と言っても残りは二人だけども)賛同した。
ちなみに即興短文は即興で二十五行、ネット長文は行数の制限は無いけども、一般的に五十行から百行らしい。
百行って相当だと思うので、やっぱり初心者は即興短文の二十五行のほうがいいなぁ。
あと基本的に即興短文は厳密には二十五・台詞らしい。
二十五回やり取りしていいという話だ。なんせ遊んでいる環境によって、一行の長さって違うから。
さてさて、ネットがテーマのお笑いの台本でしょ?
星見がどこまでネットのこと知っているかどうか、正直分かりづらいところはある。
ネットあるあるが分かるのか。攻め過ぎるとこっちがネットいっぱいやっていることバレてハズイし、ネット○○というようなワードをテーマにしようかな。
ネットニュース、ネット動画、ネット投票とか、まだ無いものをテーマにしても面白いかもしれない。選挙の投票がもしネットでもできるようになったら、とかね。
あるあるや共感を入れたネット○○よりも、まだネット化していないモノを題材にしたほうがいいかも。個人の経験に依存しないというか。
じゃあネットから一番遠い存在を考えよう、ネット上だけの運動とかしょうもなさそう、ネット上でスクワットするとか、ネット上だけの食事も何か怖くていいかも。
総合してネット上だけのダイエットっていいかも。というと太っているキャラクターをメインにするといいかも。
というかネット長文で台本だけの世界だから、私自身は痩せているけども、演じているキャラクターを好きに設定できるということじゃん。
現実のお笑いとは意外と違うかも。これなら星見がネット長文に感化されて「アタシは現実でも漫才コンビを組みたい」と言い出しても、逃げ切れるかもしれない。
なんせ星見からはそういう気を感じているので。でも私は絶対に表舞台に立ちたくないし。人の目に触れることが嫌だ。
まあそんな話はどうでもいいとして、じゃあネット上だけでダイエットしている人というネタを書いてみるか。
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ボケ:最近太ってきたからダイエットしているんだ。
つこ:へぇ、いいね。
ボケ:もう半年、やっているよ。
つこ:……ゴメン、だとしたら全然痩せてないよ。
ボケ:まあネット上でダイエットしているから。
つこ:ネット上でっ?
ボケ:俺のスマホで見てもらうと分かりやすいけども、ほらネット上で俺がスクワットしてるだろ?
つこ:オマエみたいなアバターがずっとスクワットしてる!
ボケ:だからさ。
つこ:痩せない理由がな! ネットでスクワットしても意味無いぞ!
ボケ:まだ予備の期間だから。
つこ:いいや! ずっとやっていても痩せない!
ボケ:おっと、ちょっと水分補給しなきゃな、指示出して、っと。
つこ:いやアバターが水飲んでも!
ボケ:水分補給は大切だからな。
つこ:ネット上で水分補給してもしょうがないだろ!
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意外と二十五行ってあるな、もうやることなくなったかも。
というかこれ、全然面白くない危険性無い……?
何か展開が無いというか……待てよ、ちょっとこの続きどうだろうか。
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ボケ:おっ、ちょっと効いてきた。
つこ:いや! オマエちょっとお腹膨らんだ!
ボケ:水分補給したからな。
つこ:何で水分補給だけネットと連動してるんだよ!
ボケ:おっ、まだまだ飲んでるなぁ。
つこ:ぐんぐんお腹が膨れていってる!
ボケ:大切だからな。
つこ:いや! だとしたらスクワットも効けよ! 足はデブデブのままだぞ!
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二十四行だけども、まあツッコミで終わったほうがいいでしょう。
何か急にお笑いのネタっぽくなったかも、というかネット長文ってお笑いの台本というよりも、ギャグマンガの脚本に近いのかもしれない。
好きにありえない動きを登場人物にさせることができるし。マジで星見から「漫才コンビ組もう」と言われても逃げる方法、思いついたかもしれない。
ネット長文にはネット長文の良さがあるから、お笑いをするならネット長文だけをやっていればいいんだよ、って。
これはかなり良い口実ができたかもしれない。
そこから少し時間が経って一段落し、さて、星見は勿論弥助もどんなネタを作るのか、と思ったところで、弥助も星見も、
《できた!》
という旨のメッセージを送ってきて、全員で見せ合うフェーズに移った。
弥助が指定したフォームからネタを送って、弥助が鍵付きのブログに貼って、みんなで審査し合うというヤツだ。
どういう順番で貼るかというメッセージが弥助から送られてきたところで、LINE上で即座に星見が挙手して、いや自信無い時ほど早くを未だに実践しなくていいんだよ、と心の中で思った。
というわけで星見、私、弥助という順番になって、それぞれのネタを審査し合うことにした。
《ちなみに自分の番になったら、フォームに投稿するという流れで、自分のマジの番までは直せる》と弥助が言っていたが、そんな暇あるのか?
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・《星見:ネット長文》
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奈子:ネット長文という文化があるらしい。
くる:知らないなぁ。
奈子:ネット上の長文らしい。
くる:じゃあ総称?
奈子:ネット長文という文化があるらしい。
くる:じゃあ固有名詞かぁ。
奈子:お笑いらしい。
くる:お笑いなんだ。
奈子:ネット長文という文化があるらしい。
くる:疑わしいなぁ。
奈子:1999年からあるらしい。
くる:そうハッキリ数字を言われることには弱いなぁ。
奈子:ネット長文という文化があるらしい。
くる:情報の出が遅いなぁ。
奈子:お笑いの台本で競い合うらしい。
くる:一気に踏み込んだなぁ。
奈子:ネット長文という文化があるらしい。
くる:ずっと一行ずつ損しているような気がするなぁ。
奈子:ネット長文という文化があるらしい。
くる:無意味のゴリ押しを仕掛けてきたなぁ。
奈子:ネット長文という文化があるらしい。
くる:もう奈子の言うことだから信じるしかないなぁ。
奈子:センキュー。
二人:どうも、ありがとうございました。
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本当は即興短文という遊びだけども、やっぱり星見は”ネット長文”という言葉の響きのほうが気になって、ネット長文でネタを作ったみたいだ。まあ即興短文だと”ネット”という文字が入っていないし、当たり前か。
最後に挨拶を入れて、ちゃんと二十五行にしているのが、変なところ真面目な星見らしい。というか独特な漫才だし、くるって私のことだよね、玖瑠実のくる、さすくるのくるだよね、何か恥ずかしい……こっちが恥ずかしい気持ちになる。
創作物を見せ合う時に、その場にいる人間を勝手に使うなよ、めっちゃ一緒に漫才コンビ組もうとしてくるじゃん、もうそれじゃん。
まず弥助がメッセージで、
《めっちゃ面白い! 初めてとは思えないほど、独特! というか初めてだからこそ独特なのかな!》
私も褒めなきゃと思って、
《なんというかリフレインが好きかも ゴリ押ししてきたところから特に好き》
すると星見からウサギが手を叩いて喜んでいるスタンプが送られてきた。フランクだなぁ。
でも確かに言葉にして褒められたことを感謝するの、それはそれで恥ずかしいかも。
そのあとも弥助が少し専門的に褒めていて、オマエがそのめっちゃ褒める人なんじゃないか? と思った。
弥助から、
《では次は、志田のネタを貼ります!》
と書かれた時に、急に心臓が高鳴ってきた。
いやいや、私のネタ、実はあんまりだったかも、いやいや真っ直ぐ微妙だったかも、そんなことを思っていた。
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・《志田:ネット上で》
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ボケ:最近太ってきたからダイエットしているんだ。
つこ:まあ出会ってから十年、ずっと太っているけどな。
ボケ:もう半年、やっているよ。
つこ:……ゴメン、だとしたら全然痩せてない。今日も今日とてデブ。
ボケ:まあネット上でダイエットしているから、まだまだこれからって感じ。
つこ:ネット上でっ?
ボケ:俺のスマホで見てもらうと分かりやすいけど、ほらネット上で俺がスクワットしてるだろ?
つこ:オマエみたいなアバターがずっとスクワットしてる!
ボケ:だからさ。
つこ:痩せない理由がな! ネット上でスクワットしても意味無いぞ!
ボケ:まだ予備の期間だから。
つこ:いいや! ずっとやっていても痩せない! オマエが逆に電子にならん限り!
ボケ:おっと、ちょっと水分補給しなきゃな、指示出して、っと。
つこ:いやアバターが水飲んでも! あとなんだその黄色い水! オロナミンC飲ませてるっ?
ボケ:水分補給は大切だからな。
つこ:ネット上で水分補給してもしょうがないだろ!
ボケ:おっ、ちょっと効いてきたかも。
つこ:いやぁぁああ! 現実のオマエがちょっとお腹膨らんだぁぁあぁああ!
ボケ:水分補給したからな。
つこ:何で水分補給だけネットと連動してるんだよ!
ボケ:まだまだ飲んでけ。
つこ:ぐんぐんお腹が膨れていってる!
ボケ:水分補給は大切だからな。
つこ:いや! だとしたらスクワットも効けよ! 足はデブデブのままだぞ!
二人:ありがとうございました!
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ちょっとだけブラッシュアップしたけども、果たして。あと星見を真似して、最後に挨拶を入れてちゃんと二十五行にした。ちゃんとそのくらいの直す暇はあった。
さて、全体的にブラッシュアップした理由は、特に始まりのあたりがよわよわだったので、状況説明しつつも笑いどころを足したようなイメージだ。
弥助がすぐに、
《おっ! 即興短文やネット長文ならではの文章ファンタジーネタ! 志田気付くの早っ! んでおもしろ!》
星見もちゃんと文章で、
《動きのあるネタ確かに面白い。これ自分で気付きたかった。さすが玖瑠実、さすくる。》
また弥助が、
《何気にオロナミンCがツボかも こういう本筋とは関係無いボケって趣があってかなり好き》
と書いてくれて、ブラッシュアップして良かったという反面、そこが無かったらどういう感想がきていたんだろうと少しだけ怖くなった。
そんな感じでまた弥助が褒めてくれて、もしかすると私と漫才コンビ組もうとしている? と思ってしまった。
さて、最後は弥助というわけか、ここはちょっとハードルあげてやるか。
《元々即興短文のこと知っている勢なわけだから 相当なもんがくるでしょ》
弥助が矢継ぎ早に、
《そんなフリないだろ! もう貼るから!》
と送ってきたところで、すぐにブログも更新となった。
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・《弥助:リポストキャンペーン》
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いや、俺はいいです、リポストキャンペーンのサイン色紙、いらないです。
俺の分は他の人にDMしてください、マジで、マジでいらないですから。
いや確かにリポストはしましたけども、いるはずないじゃないですか、サイン色紙なんて。
絶対いりませんよ、サイン色紙なんて……ダメだ! どうDMしても分かってくれない!
俺のサイン色紙なんだよ! 俺のサイン色紙のリポストキャンペーンが始まったから、
リポストしただけなのに、俺を当選にすな! 俺が御本人作家なんだよ!
マジで! なりすましアカウントじゃないから! 本人のアカウントだから!
いやでも、じゃねぇよ! 厳正なる抽選の結果じゃぁないんだよ!
そもそも俺がしたの引用リポストじゃん! ルールと違うじゃん!
あぁ他の抽選者も引用アリにしていたっ? まあそれはいいんだけども!
本来それはいいんだけども! 俺が本人なんだよなぁ!
本人は抽選から省けよ! いや何が厳正に粛々と、って! 粛るなよ!
俺はもはやフォロワーの多い人にあげちゃえば、いろいろ宣伝になると思っているよ!
不正してしまえよ! 不正して、拡散力のありそうなヤツにやれよ!
……DMの返信こなくなったな……ヤバイ……今のはさすがに失言だったかも、
でも文章で残っているから言質とられちゃってるよなぁ……ヤバイ、
DMって削除しても、こっちの画面から見られなくなるだけで、
向こうの画面には残るんだよな……即時撤回だ!
申し訳御座いません! フォロワー多い人に渡すとかそういう不正良くないですよね!
……! いいやぁぁああああああ!
そういう不正してたってことぉぉおおおおおおおおっ?
じゃあそうだよ! フォロワー多いよ! 俺は! 著名人のアカウントだもん!
何考慮して、どこ考慮してないんだよ! 上から順にソートするんじゃなくて!
本人は外すんだよ! えっ? ”本人が当たりました”が一番バズると思ったって!
おい! ……それは採用だな!
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正直これはすごいと思った。ピンネタってありなんだ、と思ったことよりも、だ。今の流行りのコント手法である、バラシが使われていることに対してだ。
最初の四行では、この語り手側がリポストしたのにいらないと言う頭おかしいヤツだと思わせておいて、五行目から鮮やかなバラシ。
さらにフォロワー数が多い人にやるという不正を促してそれを反省するところで、文章自体も落ち着いて、最後の荒ぶる展開へ持っていっている。
オチも事前に”フォロワー数が多い人にやるという不正”を思いつく人間だと明示しているので、このオチにも違和感が少ない。
これが即興短文ガチ勢か……いやいや、心の中で感心している場合じゃない、メッセージにして発露しなければ。
《バラシが決まっている 展開もしっかりあって ちゃんと面白かった》
ちょっとべた褒め過ぎるか? でもいいよな、だってそうだし、なんならまだ褒め足りないくらいだし。
すると星見が、
《バラシってなんだ?》
と書いてきたので、私がすぐに説明すると、星見は、
《そんなお笑いの手法があるんだ。それよりもアタシはピンネタということに興味が惹いてしまった。》
と書き、それもそうだ、私も書き忘れていた。
最終的に三人で審査となり、私と星見は弥助に、弥助は星見に投票して、弥助の勝利となった。
星見が私に投票してくれれば、と思いつつも、投票が入らなくても、なんというか納得だったし、ちゃんと面白かった。
この三人でたまに集まって遊ぶの、悪く無いかも。というかこれから冬になって外で遊ぶのが億劫になるわけだから、マジでいいかも。
でも最後に星見が、
《もっと人数いたほうがいいなぁ。》
と言ってまあそりゃそうなんだけども。だからって信用できない相手を増やしてもしょうがないしなぁ。
後日、教室で三人が顔を合わせた時にちょっと即興短文の話もした。
弥助は他の友達に呼ばれて、すぐどこかに行ったんだけども、その時に星見が言っていたことが妙に頭に残っている。
「もっと派手にできないかな」
実際の舞台で漫才をしたそうな感じは火を見るよりも明らかだった。
弥助はう~んと唸ってから、
「でもまあこのこじんまり感もまた良くてね、内輪感というか。昔はすごい下ネタも飛び交っていたらしいよ」
私は首を横に振って、
「後者の理由は全然良くないけども、文章ならではの表現とかもあるから、文章上が一番いいんじゃないの?」
と決めていた逃げ道へ逃げ込むような発言をすると、星見は溜息交じりに、
「でももっと派手にできたら面白いのになぁ」
と言った。
いやいや派手方向では巻き込まれたくない。
実際にお笑いをしたいと言われたら、絶対に断るしかない。出役は緊張するし、多分そういう能力を私は持っていない。私は参謀型なのだ。
でも星見がお笑いを生身でやりたいと言い出したら、自分を相方に選ぶことは自明なので、そうならないように逐一誘導していかないとダメだな。




