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怠惰な神サマのせいでゾンビに転生してしまいました  作者: 三科異邦


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魔王と元天使

 僕は少し距離を置いて立っていた。

 彼女――元・下級神は、まだ膝を抱えて震えている。


「……僕のせいで、君がここまで――」


 声が小さく途切れる。

 僕は静かに首を振る。


「いや、違う。

 君は、ただ……僕を思ってやっただけだろう?」


 一瞬、彼女は顔を上げた。

 驚きと疑念の混じった瞳。


「……思って……?」


 僕は柔らかい声で続ける。


「うん。

 転生窓口の件だって、君が手を出さなければ、僕は生き延びられなかった。

 君が、結果的に“僕を思った上で”の対応をしただけだ」


 彼女の肩の力が、少しだけ抜ける。


「……そう……なの……?」


 僕は微かに頷く。


「だから、お咎めなし。

 君は悪くない」


 一拍。

 視線を合わせたまま、言葉を添える。


「ただ……僕を見ていると、たまに命の危険を感じるかもね」


 小さな笑み。

 でも、その赤い瞳には、下界のすべてを揺るがす力が宿っている。


「……ほっ……わ、分かった……」


 彼女は息を吐く。

 ようやく膝を伸ばし、立ち上がる。


 僕は距離を保ったまま、静かに言った。


「これからも、僕を思いやってくれ。

 でも、変に手を出さなくていいから」


 下級神は、微かに頷く。

 お咎めなしの安堵と、僕の不気味な存在感に少しだけ圧倒されながら。



 世界は静かに、しかし確実に変わっている。

 魔王――僕は、

 下界に存在するだけで、全てを揺るがす存在となった。


 だが、目の前の彼女は、もう僕を責めない。

 それだけで、世界は少しだけ柔らかく感じられた。


「……じゃあ、あらためましてだね」


 声は淡々としているけど、少しだけ柔らかい。

 赤い瞳が、彼女を静かに捉える。


「僕は――シル。

 魔王?として、これからよろしく」


 カレンは少し驚き、目を見開いた。

 そして、深く息を吸い、背筋を伸ばす。


「私は……カレン。

 元天使だけど、今は、ただの人間……でも、シル様とと一緒に歩きます」


 互いに軽く会釈する。

 言葉は少ないけれど、意思ははっきりしている。


「……よろしく、カレン、敬語も様はいらないよ仲間なんだし」


「……あ、ありがとうよろしく、シル」


 短い挨拶。

 でも、それだけで二人の間には、奇妙な信頼の基盤が生まれた。


 荒野の風が二人の影を揺らす。

 この瞬間から、魔王・シルと元天使カレンの旅が正式に始まったのだ。


 僕――魔王は、静かに歩き出した。

 赤い瞳に映る地上界は、まだ穏やかだが、どこか不穏さを含んでいた。


「……ついて行ってもいいの?」


 後ろから、柔らかな声。

 カレン。

 かつて下級神として天界にいた少女だ。

 今は、神格を失い、ただの人間に近い身体で僕の前にいる。


「いいよ」


 淡々と答える。

 声は柔らかいけれど、力の圧は消えていない。


「ただ……危険はいっぱいあるけど」


 カレンは少し躊躇する。

 それでも、覚悟を決めたように僕の後を追う。


「僕……いや、私のせいで、あなたがこんな存在に……でも、もう逃げません」


 一歩一歩、僕の歩みに合わせて進むカレンの姿。

 その背中には、少しの迷いと、強い決意が見える。


「……ほら敬語‥まぁ分かった」


 僕は振り返らずに答える。

 淡々と、ただ歩く。

 そして、時折、柔らかい声で話す。


「歩くときは足元を気をつけてね。事前に伝える、無理に進む様でも僕は止めないけど、君は傷つけたくないかな‥だから信じてほしい」


 カレンは小さく笑った。

 ほんの少しだが、心の緊張が解けた気がする。


「……そうですね、シルのこと、信じてみます」


 二人の影が長く伸びる。

 荒野の地面を踏みしめる音だけが、静かに響く。


 魔王である僕と、元天使のカレン――

 この奇妙な旅の始まりを告げる音だった。


 大陸の果て。

 人間の足では到底踏み入れられない、黒い砂漠と赤い空の広がる地。

 地響きが絶えず、空気には魔力の濃密な香りが漂っていた。


 そこに、古の祭壇がある。

 朽ち果てた石柱、黒曜石の円環、そして、地に刻まれた無数の魔符。

 数百年、数千年、人間の目からは隠されていた場所だ。


 地面が突然震え、砂が舞い上がる。

 暗黒の霧が、祭壇を包み込み、渦を巻く。


「……ここか」


 低く、響く声。

 まだ形は人間に近いが、力の奔流が空を裂いている。

 体の奥底から、未知の力が沸き上がる。


 その存在は、これまでの魔王とは次元の違う存在感を放った。

 世界がひれ伏す圧。


 霧が薄れると、祭壇の中央に立つ人物――いや、存在が浮かび上がる。

 瞳は漆黒で、赤い縁取りが鋭く光る。

 その背後には、空を突き破るように黒い翼が広がっていた。


 周囲の大地は、勝手にひび割れ、火と霧が渦巻く。

 魔力の奔流が、大陸全体に反響している。


 静寂が訪れる。

 しかし、その静寂は、世界の崩壊の予兆に他ならなかった。


「……生まれる時が、来たか」


 その声が、地の底、空、そして遠くの世界にまで響く。

 初めての魔王の目覚めは、神でさえ容易には制御できない力の象徴だった。


 砂漠を渡る風が、彼の存在を全ての生き物に知らせる。

 鳥も、魔獣も、人間も――その場に立ち止まり、恐怖と敬意を抱く。


 そして――


 黒い翼を大きく広げ、光を吸い込むように力を纏った瞬間、

 新たな魔王の誕生が、大陸の果てで確定した。


 世界の歴史が、この一瞬から二つに分かれる。

 一つは、シルが築く道。

 もう一つは、この最果ての魔大陸で目覚めた、真の魔王が進行・支配する道。

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