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初めての捕食

 暗闇の中、僕は彷徨っていた。


 足はぎこちなく、思考もまだぼんやりしている。

 けれど、空気の濃度や匂いが、確かに僕を導いていた。

 ――生きている者の匂いではない。

 だが、何かを“捕らえろ”と身体が勝手に反応する。


 やがて、通路の角を曲がった瞬間、小さな影を見つけた。

 もがく小動物――いや、虫ではない。骨が露出し、皮膚は薄く、まだ動く。

 その瞬間、視覚だけでなく、嗅覚も鋭く反応した。

 渇望。

 空腹とは違う、捕食本能の渦。


 足は自然に前へ出た。

 手が伸び、口が開き、そして――


 噛みついた瞬間、理解できない感覚が脳をかすめた。

 恐怖も喜びもない。ただ、力が身体を駆け抜ける。

 吸収するというより、触れたものが、僕の一部になる。

 強くなる。存在が満ちていく。


 「……これが……進化?」


 思考が、ぼんやりとだが戻ってきた。

 身体が、力を欲していることに気づく。

 捕食によって、感覚が拡張していく。

 微かに、周囲の気配もわかる。

 壁の奥の空間、滴る水、遠くの呻き声――

 すべてが、以前より鮮明になった。


 捕食を終え、立ち止まると、視界の片隅に微かに光が滲んだ。

 記憶はまだ完全ではない。

 人間だったころの感覚、喜びや悲しみの断片は、まだ遠い。

 けれど、この身体――この存在――は、確かに“成長”している。


 僕は、次の影を見つける。

 動くものなら、何でも構わない。

 捕食することで、さらに強くなる。

 存在進化の芽が、ゆっくりと芽吹き始めていた。


 そして、思った。

 ――もう、恐怖はない。

 痛みも飢えもない。

 ただ、生きるために、進化するだけ。


 足元で、骨がひび割れ、湿った空気が巻き上がる。

 ダンジョンは深く、果ては見えない。

 けれど、僕の本能は、確実にその闇の奥へ向かっていた。


 ――ここからが、第二の人生の本当の始まりだった。


 暗闇の中、僕は彷徨っていた。


 足はぎこちなく、思考もまだぼんやりしている。

 けれど、空気の濃度や匂いが、確かに僕を導いていた。

 ――生きている者の匂いではない。

 だが、何かを“捕らえろ”と身体が勝手に反応する。


 やがて、通路の角を曲がった瞬間、小さな影を見つけた。

 もがく小動物――いや、虫ではない。骨が露出し、皮膚は薄く、まだ動く。

 その瞬間、視覚だけでなく、嗅覚も鋭く反応した。

 渇望。

 空腹とは違う、捕食本能の渦。


 足は自然に前へ出た。

 手が伸び、口が開き、そして――


 噛みついた瞬間、理解できない感覚が脳をかすめた。

 恐怖も喜びもない。ただ、力が身体を駆け抜ける。

 吸収するというより、触れたものが、僕の一部になる。

 強くなる。存在が満ちていく。


 「……これが……進化?」


 思考が、ぼんやりとだが戻ってきた。

 身体が、力を欲していることに気づく。

 捕食によって、感覚が拡張していく。

 微かに、周囲の気配もわかる。

 壁の奥の空間、滴る水、遠くの呻き声――

 すべてが、以前より鮮明になった。


 捕食を終え、立ち止まると、視界の片隅に微かに光が滲んだ。

 記憶はまだ完全ではない。

 人間だったころの感覚、喜びや悲しみの断片は、まだ遠い。

 けれど、この身体――この存在――は、確かに“成長”している。


 僕は、次の影を見つける。

 動くものなら、何でも構わない。

 捕食することで、さらに強くなる。

 存在進化の芽が、ゆっくりと芽吹き始めていた。


 そして、思った。

 ――もう、恐怖はない。

 痛みも飢えもない。

 ただ、生きるために、進化するだけ。


 足元で、骨がひび割れ、湿った空気が巻き上がる。

 ダンジョンは深く、果ては見えない。

 けれど、僕の本能は、確実にその闇の奥へ向ていく。


 ダンジョンは深く、複雑な迷路のように続いていた。

 湿った石壁、ひび割れた床、遠くで滴る水音――

 闇は厚く、息を潜めるだけで緊張が走る。


 だが、僕は恐怖を感じない。

 痛みも、飢えも、疲労もない。

 あるのは、進化した身体の感覚と捕食本能だけ。


 視界の端に、小さな影が揺れた。

 今度は、前回よりも大きな動き。

 人型ではないが、かつて見たことのある怪物だ。

 骨と皮膚の間に奇妙な模様を持つ、それは“生物”としての生命力を強く感じさせた。


 僕の手が勝手に伸びる。

 口が開き、歯が鋭く反応する。

 捕食した瞬間、全身に力が流れ込む。

 そして――変化が起こった。


 皮膚の表面に微かな鱗のようなものが現れる。

 筋肉の収縮が滑らかになり、動きが速くなる。

 嗅覚、聴覚、視覚がさらに鋭敏になり、闇の中でも生物の気配を立体的に感じられる。


 ――捕食するたびに、身体は適応する。

 食べたものの特性が、自分に蓄積される。

 筋肉質なものを捕れば力が増す。

 敏捷なものを捕れば動きが軽くなる。

 強力な生命力を持つものなら、存在そのものが進化する。


 次に出会ったのは、小型の魔物だった。

 光を嫌うその生物の皮膚は柔らかく、骨格は小さい。

 捕食すると、前回の捕食とは違う変化が起きる。

 身体の一部が、微かに光を帯び始め、闇の中でも形を認識しやすくなる。

 これは、ダンジョン探索に有利な“暗視能力”の兆しだった。


 さらに進むと、巨大な影が現れた。

 人型に近いが、異形の姿。

 捕食することで、筋肉が異常に発達し、腕力が格段に向上した。

 感覚はより鋭く、脳が活性化される。

 存在進化の効果は加速度を増していく。


 身体に変化が現れるたび、意識の断片も少しずつ戻った。

 人間だった頃の感覚や思考の欠片。

 恐怖や躊躇もまだ残っているが、捕食本能と拮抗し始めている。


 ――僕は、もはやただのゾンビではない。

 捕食することで能力を得て、存在自体が変化していく。

 進化は止まらない。

 選択はない。

 あるのは、強くなるという本能だけ。


 ダンジョンの闇は深く、恐ろしい。

 だが、僕は楽しさを感じていた。

 進化の実感、力の増幅、そして捕食による身体の変化――

 全てが新しい感覚であり、生きる歓びそのものだった。


 ダンジョンの奥深く、空気はますます重く、湿り気を帯びていた。

 足音一つも聞こえない――と思った瞬間、前方に小さな影が動いた。


 それは、完全に人型だった。

 服をまとい、武器を持った生者の姿。

 恐怖を感じるべきところだが、僕にはそれがほとんど意味を持たなかった。

 痛みも、飢えも、恐怖も――何もない。

 あるのは、捕食本能だけ。


 本能が叫ぶ――捕食せよ、と。

 身体は勝手に前に踏み出し、手が伸び、口が開く。

 だが、意識の奥で、かつて人間だった自分が囁いた。


「……いや、これは……」


 捕食対象は武器を構え、逃げる。

 声を上げる。

 その声は、僕にとって――懐かしい。

 かつて、僕もこんな声で怒ったり笑ったりしたのではないか――

 意識が、捕食本能を引き留める。


 手が止まる。

 口も閉じる。

 だが、本能は収まらない。

 身体が熱く、力を求め、前に進もうとする。


 ――僕は、どちらを選ぶべきなのか。

 生きたい本能か、かつての自分の倫理か。


 対象が振り向く。目が合う。

 その瞬間、記憶の断片が脳に走った。

 母の声、友達の笑顔、痛みや悲しみ――

 かつて僕も、生きる者としての感覚を持っていたのだ。


 だが、その瞬間、本能が再び勝った。

 吸収するという感覚が、理性を押しのける。

 捕食することで、力が身体に流れ込み、進化の兆しが現れる。


 捕食後、立ち止まると、周囲の空気が変わったことに気づいた。

 視界はより鮮明に、聴覚はさらに鋭敏に、嗅覚は立体的になった。

 身体が力を増し、進化が進んだ。


 ――しかし、意識の奥では、葛藤が消えない。

 僕は強くなる。

 捕食することで、生存と力を手に入れる。

 でも、人間だった自分は、これを許していいのかと問いかける。


 闇の中、再び声が聞こえる。

 低く、遠くから、捕食対象の残響のように。

 それは、罪悪感か、懐かしさか。

 まだ答えは出ない。


 だが、確かなことは一つ――

 このダンジョンで生き延びるには、捕食し、進化し続けるしかない。


 僕は、歯を食いしばり、再び闇の奥へ足を踏み出す。

 自我と本能の間で揺れながら、それでも進化するために――


 ダンジョンの奥深く、湿気と血の匂いが混ざる空間を進む。

 足元の骨や古びた武器を踏みながら、僕は前回の捕食の余韻を感じていた。


 ――確かに、力が増している。

 しかし、それだけではない。


 身体の内部で、微かな光が蠢いた。

 視界の隅に、記憶の断片のような象徴が浮かぶ。

 ――前回捕食した人型敵の能力だ。


 意識に入ってきた情報は、初めは漠然としていた。

 だが次第に、理解できた。


 捕食した相手の能力は、自分のものとして“見える”ようになっている。

 筋力、敏捷性、嗅覚の鋭さ、夜間視力――

 どの能力がどれくらい蓄積されているか、僕の意識に表示されるように。


 手を伸ばすと、前回捕食した敵の筋力が身体に流れ込み、腕の力が増す感覚があった。

 視線を動かせば、暗闇の奥に潜む獲物の呼吸や心拍が、数字や色のように浮かぶ。

 それは本能の拡張であり、まるで世界がゲーム画面のように情報で満たされる感覚だった。


 さらに、自分の外見も変化した。

 皮膚は薄く光沢を帯び、筋肉はより滑らかに動く。

 背中や肩には微細な隆起が現れ、捕食によって得た能力が体表に“符号”として表れる。

 触れるものすべてに反応できる身体――

 これが、存在進化の顕著な形だった。


 闇の奥で、別の影が揺れる。

 捕食対象は小型の魔物だ。

 鋭い爪、素早い反応、特殊な視覚――

 吸収すれば、それもまた自分の能力として蓄積され、即座に使える。


 口に触れた瞬間、能力が脳に伝わる。

 反射神経が倍増し、視覚は暗闇でも形状を認識できるようになり、爪の威力が腕に反映される。


 ――すごい。

 これまでの捕食では力の感覚しかなかったが、今は“能力そのもの”が自分の一部になる。

 体と意識が融合し、進化が視覚的にも実感できる。


 次に出会った人型敵は、魔法の力を持っていた。

 捕食すれば、その魔法の素養も自分のものになる――

 脳裏に符号が浮かぶ。火の魔力、雷の魔力、時間感覚の制御……

 どれも未熟だが、使おうと思えば反応できるレベルにまで変換される。


 ダンジョンは、もはや単なる迷宮ではない。

 僕の成長場であり、進化の場だ。

 捕食するたび、能力が蓄積され、使えるようになり、身体も変化していく。

 強くなるという感覚が、身体と脳の両方で実感できる。


 ――これが、僕の第二の人生の本当の楽しさだ。


 暗闇の中、僕は次の影に向かって歩を進める。

 捕食し、能力を吸収し、さらに進化するために。

 そして、いつか自我と本能がぶつかる日が来ても、もう恐れはしない。



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