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『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


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第四十話 ――決壊の前触れ

残すところあとわずかになりました。

三日。


倉庫には、

誰も来なかった。



四日目。


扉は開いたまま。



五日目。


灯りを消した。



街は、

ほっとしていた。



「終わったな」


「やっぱりな」


「静かなほうがいい」



そう、

口に出す者はいない。



だが、

空気がそう言っている。



教会では、

炊き出しが増えた。



融資の張り紙は、

目立つ場所に移動した。



見回りの足音は、

減った。



包囲は、

完成した。



夜。


倉庫の中。



レイは、

帳面を閉じる。



そこには、

五人の名前。



消していない。



消さない。



ユーハが言う。


「……撤くか?」



レイは、

首を振る。



「撤くなら、

 最初に撤いてる」



「じゃあ何だ」



静かに、

言う。



「種まきだ」




同じ頃。


街の別の場所。



酒場の奥。



見慣れない男が、

帳面を広げている。



その帳面の形式は、

倉庫のものと――

ほぼ同じ。



違うのは、

項目の一つ。



“協力者”。



その欄に、

既に三十の名。




さらに別の通り。



商人が、

静かに言う。



「保証人、

 要らない方法があるらしい」



「どこで?」



「名前は知らん」



「ただ――

 殴られない」



噂は、

倉庫からは

出ていない。



だが、

広がっている。




教会。



司祭の前に、

報告。



「倉庫は、

 静かです」



「動きは?」



「ありません」



司祭は、

眉を寄せる。



「……それが

 一番、嫌だ」




その夜。


倉庫の裏口。



ユーハが、

声をかける。



「遅ぇぞ」



影が、

三つ。



一人は、

去った商人。



一人は、

教会の列に並んでいた女。



そして――



裏の金融で

働いていた若者。



「俺、

 帳面見た」



若者は言う。



「……あいつら、

 回収の次、

 土地を押さえる」



沈黙。



「払えなきゃ、

 働かせる」



「借金は減らさない」



「減らないように

 設計してる」



レイは、

小さく笑った。



「ようやく、

 見えたか」



「は?」



「俺たちは、

 金を貸してない」



「……?」



「時間を貸してる」



沈黙。



「奴らは、

 時間を奪う」



「俺たちは、

 時間を戻す」




その頃。


男爵邸。



クララが、

窓の外を見る。



無邪気な顔で、

ぽつりと言う。



「最近、

 街が静かね」



奥様が、

微笑む。



「嵐の前は、

 静かなのよ」



クララは、

首をかしげる。



「嵐、来るの?」



奥様は、

ゆっくりと答える。



「もう来ているわ」




夜更け。



レイは、

一枚の紙を取り出す。



そこには、

セバスチャンの古い記号。



そして――



街の地図。



赤い印が、

点々と打たれている。



倉庫ではない。



教会でもない。



裏金融の拠点でもない。



「……囲んでるのは、

 あっちだ」



ユーハが、

息を呑む。



「包囲されてるのは、

 俺たちじゃねぇのか?」



レイは、

静かに言う。



「最初から、

 違う」



「孤立は、

 表面だ」



「本命は――」



紙を、

机に置く。



そこには、

一つの名。



裏金融を束ねる、

顔のない名義人。



「ここだ」



風が、

灯りを揺らす。



孤立は、

失敗ではない。



時間稼ぎだった。



種は、

もう蒔かれている。


そろそろ終わるので、最後までお付き合いいただければと思います。

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