第三十九話 ――静かな包囲
39話です。
第三十九話
――静かな包囲
朝。
倉庫の前に、
誰もいなかった。
◇
初めてだ。
◇
列どころか、
足音すらない。
◇
市場は開いている。
◇
だが――
この通りだけ、
音が薄い。
◇
ユーハは、
入口に立っていた。
◇
いつも通り。
◇
だが、
守る相手がいない。
◇
「……来ねぇな」
◇
返事はない。
◇
レイは、
帳面を開いたまま動かない。
◇
数字は、
減っている。
◇
減り方が、
綺麗すぎた。
◇
昼。
◇
パン屋の少年が、
遠くからこちらを見る。
◇
目が合う。
◇
すぐ逸らす。
◇
近づかない。
◇
理由は、
言わない。
◇
ただ――
線が引かれた。
◇
午後。
◇
倉庫の横を、
見回りが三度通る。
◇
止まらない。
◇
注意もしない。
◇
だが、
笑っている。
◇
何かが、
成功している顔だった。
◇
夕方。
◇
女商人が、
小声で言う。
◇
「……孤立ね」
◇
「完全に」
◇
ユーハが、
拳を壁に当てる。
◇
音は、
小さい。
◇
「殴る相手が
見えねぇ」
◇
レイは、
窓の外を見る。
◇
「見える時は、
もう遅い」
◇
「は?」
◇
「包囲ってのはな」
◇
「音が消えた時、
完成してる」
◇
夜。
◇
灯りは、
小さくなった。
◇
食料も、
少ない。
◇
誰も来ない倉庫は、
ただの空間に近い。
◇
それでも――
◇
扉は、
閉めない。
◇
ユーハは、
入口に座る。
◇
「……これ、
終わりか?」
◇
レイは、
答えない。
◇
しばらくして、
小さく言う。
◇
「終わりなら、
静かすぎる」
◇
風が、
扉を揺らす。
◇
誰も来ない。
◇
だが――
◇
遠くで、
靴音が一つ。
◇
止まる。
◇
近づかない。
◇
ただ、
見ている。
残すところ後11話です。
全ての風呂敷を畳めるのか不安です。




