第三十八話 ――孤立の設計図
38話です。
朝。
市場の空気が、
少しだけ違った。
◇
挨拶が、
減っている。
◇
視線が、
一瞬だけ逸れる。
◇
誰も何も言わない。
◇
ただ――
距離だけが増えた。
◇
ユーハは、
倉庫の前でそれを感じていた。
◇
列はない。
◇
だが、
通り過ぎる人間が、
明らかに足を速める。
◇
「……何か、あったな」
◇
レイは、
帳面を閉じたまま言う。
◇
答えは、
まだない。
◇
昼。
◇
仕入れに行った女商人が、
戻ってくる。
◇
顔色が、
悪い。
◇
「……断られた」
◇
「どこで?」
◇
「全部」
◇
沈黙。
◇
「理由は?」
◇
女商人は、
苦笑した。
◇
「理由はないって」
◇
「ただ――
“今はやめといた方がいい”
って」
◇
ユーハが、
拳を握る。
◇
殴る相手が、
いない。
◇
それが、
一番厄介だった。
◇
午後。
◇
倉庫の前を、
見回りが通る。
◇
止まらない。
◇
注意もしない。
◇
だが、
視線だけを残していく。
◇
“見ている”という
合図。
◇
夕方。
◇
いつも来ていた
パン屋の男が来ない。
◇
水売りの少女も、
姿を見せない。
◇
代わりに――
遠くから見る人間が増えた。
◇
近づかない。
◇
関わらない。
◇
孤立は、
静かに完成していく。
◇
夜。
◇
倉庫の中。
◇
空気が、
少し重い。
◇
ユーハが、
口を開く。
◇
「……俺、
何かやったか?」
◇
誰も、
答えない。
◇
レイが、
静かに言う。
◇
「これは、
罰じゃない」
◇
「設計だ」
◇
「設計?」
◇
「怒鳴れば、
敵ができる」
◇
「殴れば、
理由が生まれる」
◇
「でも――
何もせずに
孤立させれば」
◇
一拍。
◇
「自分から
崩れる」
◇
ユーハは、
天井を見る。
◇
拳が、
震えている。
◇
「……どうする」
◇
レイは、
少しだけ笑った。
◇
「何もしない」
◇
「は?」
◇
「孤立は、
外から壊せない」
◇
「中からしか、
崩れない」
◇
灯りが、
揺れる。
◇
外は、
静かすぎる夜。
◇
それでも、
倉庫の扉は閉じない。
誤字脱字はお許しください。




