第三十七話 ――関わらないという選択
37話です。
昼。
倉庫の前は、
相変わらず静かだった。
◇
列は、
できていない。
◇
だが、
誰も困っていないわけではない。
◇
ただ――
急がなくなった。
◇
ユーハは、
入口に立つ。
◇
立っているだけ。
◇
呼び込みもしない。
追い返しもしない。
◇
一人の男が、
近づいてくる。
◇
見覚えはない。
◇
年は、
四十前後。
◇
服は、
きちんとしている。
◇
「……ここは?」
◇
「話す場所だ」
◇
ユーハの返事は、
それだけ。
◇
男は、
眉をひそめる。
◇
「借りる場所じゃないのか」
◇
「借りることもできる」
◇
「……条件は?」
◇
ユーハは、
首を振る。
◇
「聞くだけ」
◇
男は、
一瞬黙る。
◇
「……じゃあ、
やめておく」
◇
背を向ける。
◇
止めない。
◇
倉庫の中。
◇
年長の女商人が、
ぽつりと言う。
◇
「……逃がしたわね」
◇
レイは、
帳面を閉じる。
◇
「選んだだけだ」
◇
「関わらない、
という選択も」
◇
女商人は、
苦笑する。
◇
「数字が、
増えないわよ」
◇
「増やさない」
◇
沈黙。
◇
「ここは、
便利な場所じゃない」
◇
「安心も、
即効性も、
保証しない」
◇
「だから――」
◇
一拍。
◇
「残る人間は、
嘘をつかない」
◇
夕方。
◇
倉庫の裏。
◇
ユーハが、
壁に寄りかかる。
◇
「……俺、
向いてねぇかもな」
◇
「呼ばねぇし、
止めねぇし」
◇
レイは、
横に立つ。
◇
「向いてる」
◇
「え?」
◇
「守るってのは、
縛らないことだ」
◇
「縛らなきゃ、
人は残らない」
◇
「それでいい」
◇
ユーハは、
空を見る。
◇
雲が、
流れている。
◇
夜。
◇
教会。
◇
司祭が、
報告を受ける。
◇
「人は、
集まっていません」
◇
「だが――
離れてもいません」
◇
司祭は、
眉を寄せる。
◇
「……“場”になっているな」
◇
「はい」
◇
「利用されない場は、
一番壊しにくい」
◇
司祭は、
しばらく黙る。
◇
「なら――
次は、“必要性”を
消す」
◇
「どうやって?」
◇
「孤立させる」
◇
夜の街。
◇
倉庫の灯りは、
小さい。
◇
だが、
通りすがりの人間が、
ちらりと見る。
◇
入らない。
◇
だが――
知っている。
◇
それだけで、
場は生きている。
誤字脱字はお許しください。




