第三十五話 ――殴られた数だけ、残る
35話です。
朝。
倉庫の前は、
昨日より人が少なかった。
◇
列は、
半分。
◇
だが――
目は揃っている。
◇
ユーハは、
立っていた。
◇
包帯はない。
痛みは、
隠していない。
◇
それが、
一つの合図だった。
◇
「……昨日の人、
来ないな」
◇
誰かが、
小さく言う。
◇
「殴られるの、
嫌だろ」
◇
別の声。
◇
ユーハは、
聞こえていないふりをする。
◇
守る側は、
理由を説明しない。
◇
説明すると、
選ばせてしまうからだ。
◇
昼。
◇
倉庫の中。
◇
帳面の前に、
七人。
◇
減った。
◇
だが、
空気は軽い。
◇
「……正直に言う」
◇
年長の商人が、
言った。
◇
「昨日で、
やめた」
◇
沈黙。
◇
「殴られるのは、
想定外だ」
◇
「家族がいる」
◇
「ここで、
英雄になるつもりは
ない」
◇
誰も、
責めなかった。
◇
レイは、
頷く。
◇
「正しい」
◇
「残る理由より、
去る理由のほうが
わかりやすい」
◇
商人は、
深く頭を下げ、
出ていった。
◇
残ったのは、
五人。
◇
そして、
ユーハ。
◇
夕方。
◇
倉庫の外。
◇
昨日、
殴った男が来る。
◇
一人だ。
◇
「……帳面は?」
◇
ユーハは、
動かない。
◇
「ここには、
ない」
◇
男は、
笑う。
◇
「じゃあ、
列を潰す」
◇
一歩、
踏み出す。
◇
後ろから、
声。
◇
「やめとけ」
◇
昨日の女商人。
◇
「今日は、
私の番だ」
◇
男が、
振り向く。
◇
「……は?」
◇
「殴られるなら、
一人ずつでいい」
◇
列の中から、
もう一人。
◇
「私も」
◇
さらに、
一人。
◇
三人。
◇
四人。
◇
男は、
舌打ちする。
◇
「……狂ってる」
◇
「そうかもね」
◇
女商人は、
笑った。
◇
「でも、
逃げないって
決めただけ」
◇
男は、
去った。
◇
夜。
◇
倉庫の灯りは、
小さい。
◇
だが、
消えない。
◇
ユーハは、
入口に座り込む。
◇
「……なあ」
◇
レイを見る。
◇
「俺、
まだ守れてるか?」
◇
レイは、
答えない。
◇
帳面を閉じ、
外を見る。
◇
「守るってのはな」
◇
静かに言う。
◇
「残った数じゃない」
◇
「去った後に、
誰が戻ってくるかだ」
◇
ユーハは、
空を見る。
◇
星は、
少ない。
◇
だが――
ゼロじゃない。
誤字脱字はお許しください。




