第三十四話 ――守る側の値段
34話です。
朝。
倉庫の前に、
人が並び始めた。
◇
多くはない。
◇
だが、
昨日までゼロだった場所に、
列ができている。
◇
ユーハは、
入口の横に立っていた。
◇
腕を組み、
背筋を伸ばす。
◇
刃はない。
◇
それでも、
近づきがたい空気がある。
◇
「……あいつ、
何者だ?」
◇
「元は、
外れの連中だろ」
◇
小声。
◇
だが、
ユーハは聞こえていないふりをした。
◇
それが、
“守る側”の最初の仕事だった。
◇
昼。
◇
女が、
倉庫の中で泣いている。
◇
金額は、
小さい。
◇
だが、
期限は迫っている。
◇
レイは、
帳面を閉じた。
◇
「返せる」
◇
「今月は、
ぎりぎりだ」
◇
女は、
何度も頭を下げる。
◇
外。
◇
ユーハの前に、
二人組が立つ。
◇
見回りではない。
◇
街の、
“別の守り手”。
◇
「……最近、
ここが騒がしいな」
◇
低い声。
◇
ユーハは、
動かない。
◇
「列ができると、
匂いが出る」
◇
「匂いは、
獣を呼ぶ」
◇
ユーハは、
目を合わせた。
◇
「ここは、
奪わない」
◇
男は、
笑う。
◇
「奪ってない?」
◇
「なら、
“取り返す”だけだ」
◇
一歩、
前へ。
◇
ユーハは、
一歩も引かない。
◇
「帰れ」
◇
声は、
低い。
◇
だが、
震えていた。
◇
男の拳が、
腹に入る。
◇
鈍い音。
◇
ユーハは、
倒れなかった。
◇
二発目。
◇
三発目。
◇
列が、
静まり返る。
◇
誰も、
止めない。
◇
止められない。
◇
男は、
吐き捨てる。
◇
「守るってのはな、
殴られる側に
立つことだ」
◇
去り際。
◇
「次は、
帳面の中身だ」
◇
夕方。
◇
ユーハは、
壁にもたれて座っていた。
◇
口の端が切れ、
血が乾いている。
◇
「……正解だったか?」
◇
レイが、
問う。
◇
ユーハは、
少し考える。
◇
「わからねぇ」
◇
「でも――」
◇
列の方を見る。
◇
朝の女が、
まだ待っている。
◇
「逃げたら、
もっと楽だった」
◇
「だから――」
◇
短く、
笑う。
◇
「正解じゃない方
を選んだ」
◇
レイは、
何も言わない。
◇
帳面を開く。
◇
数字は、
減っている。
◇
だが、
消えていない。
◇
夜。
◇
倉庫の外。
◇
新しい影が、
増えている。
◇
刃を持つ者。
◇
言葉を持つ者。
◇
どちらも、
まだ混ざっている。
◇
レイは、
灯りを消した。
◇
「……ここからだ」
◇
ユーハは、
立ち上がる。
◇
痛みを、
噛み殺しながら。
誤字脱字はお許しください。




