第三十三話 ――刃を置く理由
33話です。
夜明け前。
倉庫の中は、
妙に静かだった。
◇
刃を落とした男――
名を、ユーハといった。
◇
年は二十前後。
骨ばった肩。
目だけが鋭い。
◇
彼の仲間は三人。
◇
誰も座らない。
誰も逃げない。
◇
「……で?」
◇
一番年嵩の男が言う。
◇
「俺たち、
捕まるのか?」
◇
レイは首を振る。
◇
「捕まえる権利は、
俺にはない」
◇
「なら、
追い出す?」
◇
「それもしない」
◇
沈黙。
◇
「じゃあ、
なんなんだ」
◇
ユーハが、
低く問う。
◇
レイは、
床に落ちた刃を拾い、
布で包む。
◇
「預かる」
◇
「……は?」
◇
「力は、
使う前に
保管できる」
◇
「使う理由が
出るまでな」
◇
ユーハは、
鼻で笑った。
◇
「きれい事だ」
◇
「腹が減ったら、
人は刺す」
◇
「それは――」
◇
レイは、
彼を見る。
◇
「腹が減ったまま
考えさせられた
ことがない人間の
言葉だ」
◇
空気が、
止まる。
◇
「腹が減る」
◇
「寒い」
◇
「怖い」
◇
「だから、
奪う」
◇
「でも――」
◇
一歩、
踏み出す。
◇
「奪った後は、
もっと怖くなる」
◇
ユーハの喉が、
鳴る。
◇
「追われる」
◇
「疑われる」
◇
「仲間が、
減る」
◇
「最後は、
一人だ」
◇
沈黙。
◇
それは、
全員が
知っている未来だった。
◇
「……じゃあ、
どうしろって」
◇
レイは、
短く答える。
◇
「守れ」
◇
「……誰を?」
◇
「ここを」
◇
倉庫を、
指す。
◇
「教会でも、
街でもない」
◇
「選べる場所を」
◇
ユーハが、
眉をひそめる。
◇
「守ったら、
腹が膨れるのか」
◇
「すぐには」
◇
「だが――」
◇
「仕事になる」
◇
他の三人が、
ざわつく。
◇
「見回りみたいな
もんか?」
◇
「違う」
◇
「殴らない」
◇
「脅さない」
◇
「逃げない」
◇
「立っているだけだ」
◇
ユーハは、
しばらく黙っていた。
◇
やがて、
言う。
◇
「……一つ聞く」
◇
「俺が、
また刃を取ったら?」
◇
レイは、
即答する。
◇
「その時は、
俺が止める」
◇
「力で?」
◇
「言葉で」
◇
「……止まらなかったら?」
◇
一拍。
◇
「それでも、
立つ」
◇
「逃げない」
◇
ユーハは、
笑った。
◇
短く、
苦い笑い。
◇
「……面倒な奴だな」
◇
「そういう仕事だ」
◇
夜明け。
◇
倉庫の前に、
人影が立つ。
◇
教会の列に、
並ばなかった女。
◇
商人でもない。
◇
子どもを連れた、
痩せた母親。
◇
「……ここ、
話を聞いてくれるって」
◇
ユーハは、
反射的に前に出る。
◇
刃は、
ない。
◇
代わりに、
立っている。
◇
レイは、
その背を見て、
何も言わなかった。
◇
刃は、
床に置いた。
◇
だが――
居場所は、
生まれた。
誤字脱字はお許しください。




