第三十二話 ――選ばれなかった者たち
32話です。
夜。
街の外れ。
◇
灯りの届かない倉。
◇
人影が、
四つ。
◇
誰も、
教会の列には
並ばなかった。
◇
誰も、
倉庫にも
来なかった。
◇
「……結局よ」
◇
一人が、
吐き捨てる。
◇
「どっちも、
“ちゃんとしてる奴”
向けなんだ」
◇
笑い声。
◇
乾いた、
短い笑い。
◇
「祈れるほど
素直じゃねぇ」
◇
「考えられるほど
頭もねぇ」
◇
「でも、
腹は減る」
◇
別の男が、
床を蹴る。
◇
「選べ、選べってよ」
◇
「選ばれたこと、
一度でもあったか?」
◇
沈黙。
◇
それが、
答えだった。
◇
一番若い男が、
小さく言う。
◇
「……奪えばいい」
◇
全員が、
彼を見る。
◇
「祈りも、
帳面も、
信用も要らねぇ」
◇
「“今”があればいい」
◇
彼の手には、
刃物。
◇
粗末だが、
十分だった。
◇
◇
同じ頃。
◇
倉庫。
◇
七人。
◇
帳面を囲んでいる。
◇
数字は、
慎重に減っている。
◇
それでも、
減っていないものがある。
◇
「……人が、
足りないな」
◇
年長の商人が言う。
◇
「来ない層が、
いる」
◇
レイは、
頷く。
◇
「見えてる」
◇
「見えてるけど――」
◇
少し、
言葉を選ぶ。
◇
「呼べない」
◇
「呼んだら?」
◇
「来る理由が、
ない」
◇
沈黙。
◇
誰かが、
口を開く。
◇
「教会は?」
◇
「同じだ」
◇
「祈れない人間は、
救えない」
◇
「じゃあ――」
◇
空気が、
重くなる。
◇
レイは、
続ける。
◇
「だから、
最初に来るのは――」
◇
「刃だ」
◇
全員が、
息を呑む。
◇
◇
深夜。
◇
倉庫の裏口。
◇
音。
◇
鍵が、
こじられる。
◇
レイは、
起きていた。
◇
灯りを、
点けない。
◇
足音。
◇
荒い呼吸。
◇
刃が、
光る。
◇
「動くな」
◇
若い男の声。
◇
震えている。
◇
レイは、
手を上げる。
◇
「話せるか?」
◇
「黙れ」
◇
「……腹、減ってる?」
◇
間。
◇
刃が、
わずかに下がる。
◇
「教会、
並ばなかっただろ」
◇
男は、
答えない。
◇
「ここにも、
来なかった」
◇
「でも――」
◇
ゆっくり、
言う。
◇
「ここには、
来た」
◇
沈黙。
◇
「選びに来たんだ」
◇
「奪うか、
話すか」
◇
男の手が、
震える。
◇
「……話して、
腹は満ちるか?」
◇
レイは、
首を振る。
◇
「今は、
満ちない」
◇
「でも――」
◇
一歩、
近づく。
◇
「次は、
選べる」
◇
刃が、
床に落ちた。
◇
乾いた音。
◇
男は、
泣いていなかった。
◇
ただ、
疲れていた。
◇
外で、
足音がする。
◇
他の三人。
◇
「……遅いぞ」
◇
レイは、
入口を見る。
◇
「中に、
入れ」
◇
「選ばれなかった奴は、
ここに集まれ」
◇
夜が、
静かに割れた。
誤字脱字はお許しください。




