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『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


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29/37

第二十九話 ――数字が嫌うもの

29話です。

翌朝。


街は、

いつも通りに見えた。



店は開き、

人は歩き、

声もある。



だが、

空気が一段、薄い。



「……値、変わってねぇか?」


魚屋の前で、

誰かが呟いた。



「昨日より

 銅貨一枚、高い」



パン屋も、

薪屋も、

同じだ。



わずかな値上げ。



理由は、

どこにも書いていない。



「運送が不安定でね」


「仕入れが

 ちょっと滞って」



言い訳は、

どの店も似ていた。



昼前。


レイは、

帳面を持って

街を回る。



数字を見る。



――値上げ幅

――同時刻

――同一方向



(……来たな)



倉庫街の一角。



七人のうち、

三人が集まっていた。



「先生」



若い女商人が、

不安そうに言う。



「昨日、

 卸から言われたの」



「“あの仕組みに

 関わってるなら、

 取引を減らす”って」



「理由は?」



「……

 “信用が揺らぐ”って」



別の男が、

歯噛みする。



「俺もだ」



「直接は言わねぇが、

 顔が違った」



「今まで

 貸してくれてたのに」



沈黙。



レイは、

ゆっくり言う。



「狙いは、

 恐怖の分配だ」



「誰か一人を

 潰すより――」



「全員を、

 少しずつ不安にする」



「そうすれば、

 自分から

 崩れる」



女商人が、

唇を噛む。



「……

 私が抜ければ、

 楽になる?」



その言葉で、

空気が張りつめる。



誰も責めない。



責められない。



それが、

一番苦しい。



レイは、

即答しなかった。



「……抜けるなら、

 責めない」



「ただし」



「抜けた理由を、

 嘘にしないでくれ」



女は、

顔を上げる。



「怖いなら、

 怖いと言え」



「生活が苦しいなら、

 そう言え」



「“制度が悪い”

 には、しない」



しばらくして、

女は首を振った。



「……抜けない」



「ムカつくから」



苦笑が、

わずかに漏れる。



午後。



街の中央広場。



教会前。



布告が貼られた。



――非公式金融に関する注意

――保証なき貸借は

  魂と秩序を乱す



人々が、

立ち止まる。



囁き声。



「あれって……」


「先生のやつじゃ……」



視線が、

じわじわと

集まる。



だが、

直接は言われない。



誰も。



夜。



例の二人組の

片割れが現れる。



一人だ。



「先生」



「思ったより、

 粘るな」



「七人中、

 五人が残った」



「上出来だ」



レイは、

帳面を閉じたまま

言う。



「用件は?」



男は、

肩をすくめる。



「忠告だ」



「このままだと――」



「孤立する」



「卸も、

 教会も、

 街の顔役も」



「全部が、

 君を“面倒な異物”として

 扱う」



「そうなったら?」



「選択肢は二つ」



「やめるか」



「潰されるか」



レイは、

静かに答える。



「三つ目は?」



男は、

眉を上げる。



「あると思うか?」



「広げる」



男は、

一瞬黙った。



「……無理だ」



「数字は、

 連帯を嫌う」



「計算できないからな」



「だからだ」



レイは言う。



「数字の外に、

 意味を置く」



「意味?」



「“借りられた”

 じゃない」



「“助かった”

 という感覚だ」



男は、

短く笑う。



「感情か」



「安いな」



「安い」



「だが、

 切れない」



沈黙。



男は、

去り際に

ぽつりと言った。



「……司祭が、

 本腰だ」



「次は、

 数字じゃない」



「言葉で来る」



闇に消える背中を、

レイは見送った。



倉庫では、

五人が

銅貨を積んでいた。



減った。



だが――

残った。



それは、

数字には出ない。



だが、

街を揺らすには

十分な重さだった。

誤字脱字はお許しください。

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