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『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


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第二十八話 ――保証人のいらない金

28話です。

朝。


倉庫街の空気は、

相変わらず静かだった。


だが――

昨日とは違う種類の静けさだ。



人々は逃げていない。

立ち止まっている。



「保証人、出てこねぇな……」


商人の独り言が、

あちこちで聞こえる。



紙切れを手に、

途方に暮れる顔。



それを、

レイは高みからではなく、

同じ高さで見ていた。



「……集まってくれ」


昼前。


レイは、

裏通りの空き倉庫に

人を集めた。



借りられなかった者。

借りるのを諦めた者。

そして――

名前を書くのを、

恐れた者。



十七人。


多くはない。

だが、ゼロではない。



「今日は、

 金の話をする」



ざわり、と

空気が揺れる。



「安心しろ」


「借金を

 勧める話じゃない」



それでも、

皆の視線は

警戒を解かない。



「今、街にある金は

 “信用”と引き換えだ」



レイは、

紙を一枚、

床に置いた。



「保証人がいなければ、

 借りられない」



「つまり――

 信用を持つ者だけが、

 次へ進める」



誰かが、

小さく呟く。


「……当たり前だろ」



「そうだ」


レイはうなずく。



「だから、

 その“当たり前”を

 一段ずらす」



紙に線を引く。



「保証人が要らない金」



一瞬、

沈黙。



「……そんなもん、

 あるわけねぇ」



「ある」


レイは、

即答した。



「皆で、

 保証する」



空気が凍る。



「ふざけんな」


「俺が

 他人の借金を

 背負うのか?」



「違う」



レイは、

言葉を選ぶ。



「一人の失敗を、

 全員で被るんじゃない」



「全員が、

 少しずつ責任を持つ」



ざわめきが、

不安へと変わる。



「具体的に言う」


レイは、

数字を書いた。



――十七人

――各人、

 月に銅貨一枚



「この銅貨は、

 “借りるための金”じゃない」



「他人が借りるための

 安全網だ」



「誰かが返せなくなったら、

 この金で穴を埋める」



「足りなければ?」



「借り付け額を

 減らす」



「増やさないのか?」



「増やさない」


レイは、

はっきり言った。



「ここは、

 成長する場所じゃない」



「沈まないための場所だ」



誰も、

すぐには答えない。



だが、

一人が手を挙げた。



若い女商人だ。



「……私が

 払った銅貨は、

 返ってくる?」



「使われなければ、

 戻る」



「使われたら?」



「誰かの生活が、

 続いた」



その言葉に、

女は目を伏せた。



「……それでいい」



一人、また一人と、

頷く者が増える。



全員ではない。



だが、

七人が

名を連ねた。



夕方。


レイは、

小さな帳面を作る。



名前。

出資額。

借入額。

返済状況。



派手さはない。



だが、

嘘の入り込む隙がない。



夜。


例の二人組が、

再び現れる。



「先生」



声は軽い。



「面白いこと、

 始めたらしいな」



「静かな金融に、

 対抗か?」



「対抗じゃない」


レイは答える。



「別の選択肢だ」



男は、

紙束を覗き込む。



「……保証人なし」


「共同責任」



「脆い」



「一人崩れたら、

 全部崩れる」



「その通りだ」



レイは、

否定しない。



「だから、

 借りられる額は

 小さい」



「夢もない」



「成り上がれない」



男は、

肩をすくめる。



「じゃあ、

 何の意味がある?」



レイは、

男の目を見る。



「消えなくて済む」



一瞬、

男の笑みが消えた。



それは、

図星を突かれた

顔だった。



「……まあいい」



「どうせ、

 勝つのは

 数字だ」



去り際、

男は振り返る。



「先生」



「その仕組み――」



「広がったら、

 潰す」



静かに告げ、

闇に消える。



レイは、

帳面を閉じる。



恐怖はある。



だが同時に、

確信もあった。



――これは、

小さい。



だが、

人が人を切り捨てない

 仕組みだ。



数字だけの街に、

人の重さを

戻すための。



外では、

七人が

初めて銅貨を

机に置いていた。



音は小さい。



だが、

確かに響いた。



この街で、

初めて。

誤字脱字はお許しください。

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