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『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


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26/36

第二十六話 ――静かな裏通り

26話です。

バルカンが姿を消してから、

裏通りは――静かになった。


あまりにも、だ。



「……最近、

 妙に静かじゃねぇか?」


酒場の親父が、

カウンターを拭きながら言った。


「前はさ、

 毎晩誰かが怒鳴って、

 殴られて、

 泣いてた」


「今は――

 何もねぇ」



「良いことじゃないですか」


レイは、

表向きそう答える。



だが、

胸の奥で

嫌な感触がしていた。



騒ぎが消える時、

それは解決か――

移動だ。



「先生」


若い商人が、

声を潜めて近づいてくる。


「……借金の話なんだが」



「利率は下がった」


「脅されない」


「期限も、

 紙に書いてある」



「……でもな」


商人は、

唇を噛んだ。


「金が、

 回らなくなった」



レイは、

一瞬だけ目を伏せる。



「バルカンは、

 回収は早かったが、

 貸すのも早かった」



「今は――

 審査がある」


「条件がある」


「保証がいる」



「……借りられねぇ奴が、

 増えてる」



レイは、

何も言わない。



それは、

正しい変化の

副作用だ。



夜。


裏通りを歩く。


いつもなら、

誰かが

壁にもたれ、

呻いている場所。



そこに――

人はいない。



だが。



遠くで、

小さな灯りが揺れている。



近づくと、

知らない顔の男が二人。



服は地味。

動きは静か。



「……誰だ?」


声をかける前に、

一人がこちらを見る。



目が、

妙に冷たい。



「仕事中だ」


「邪魔するな」



言葉遣いは、

丁寧だった。


それが、

一番不気味だった。



「ここは、

 誰の縄張りだ?」


レイが問う。



男は、

軽く肩をすくめた。


「今は、

 空いてる」



「だから、

 使わせてもらってる」



胸の奥で、

何かが噛み合う。



――空白。



バルカンが

抑えていた場所。


彼が縛られたことで、

生まれた余白。



そこに――

別の何かが入り込む。



「名乗らないのか」


レイが言う。



男は、

薄く笑った。


「名は、

 まだいらない」



「必要になったら、

 名乗るさ」



その言い方は、

かつてのバルカンと

よく似ていた。



「……そうか」


レイは、

一歩引く。


「なら――」



「名乗りたくなった時、

 紙に書く場所は

 用意しておく」



男は、

一瞬だけ

動きを止めた。



「面白ぇこと言うな、

 先生」



「だが――」


「俺たちは、

 まだ“見られて”ねぇ」



闇に溶けるように、

二人は消える。



レイは、

その場に立ち尽くした。



――秩序は、

整えた。



だが、

秩序が生まれる場所には、

必ず

影も生まれる。



「……早すぎたか」


小さく、

誰にも聞こえない声で

呟く。



だが、

後悔はしない。



この街は、

もう――

黙って壊れる段階を

過ぎている。



「次は――」


レイは、

夜の奥を見る。


「名を持たない者たちか」



静かな裏通りに、

新しい不穏が

芽吹いていた。


誤字脱字はお許しください。

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