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『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


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25/36

第二十五話 ――名を持つ者

25話です。

バルカンは、

一歩だけ中に入った。


それだけで、

空気が沈む。



「……俺の名前があるな」


低い声。

怒鳴らない。


怒鳴る必要がない男の声だ。



誰も答えない。


レイだけが、

正面を見る。


「あります」


「消すか?」


「消しません」


即答だった。



バルカンは、

小さく笑った。


「若ぇな」



「名前を書いたら、

 世界が変わると思ったか?」


「思っていません」


「じゃあ、

 なんで書いた」



レイは、

静かに言った。


「あなたが、

 名前を持っていなかったからです」



ざわ、と

空気が揺れる。



「俺はな」


バルカンは、

肩をすくめた。


「ここで

 名前を使わずに

 生きてきた」


「それが、

 強さだ」



レイは、

首を振った。


「いいえ」


「それは――

 逃げです」



バルカンの目が、

細くなる。


「……ほう」



「名前を出せば、

 責任が生まれる」


「あなたは、

 それを

 避け続けてきた」



「だから――」


レイは、

紙を指差す。


「今日、

 ここに

 あなたの名前があります」



沈黙。



「で?」


バルカンは、

周囲を見渡す。


「誰が、

 俺を裁く?」


「お前か?」



レイは、

はっきり答えた。


「街です」



笑い声。


乾いた笑い。


「街?」


「こいつらが?」



バルカンは、

一人を指差す。


「借金抱えてる」


次。


「殴られたことがある」


次。


「黙ってるほうが

 楽だって

 知ってる」



「こいつらに、

 何ができる」



レイは、

一歩前に出た。


「できます」



「もう、

 見ています」



その言葉が、

刺さる。



「あなたは、

 今日ここに来た」


「それ自体が、

 変化です」



「今までなら、

 来なかった」


「来る必要が

 なかった」



「でも今は――」



レイは、

周囲を指す。


「見られています」



バルカンは、

一瞬だけ

視線を動かした。


女。

商人。

親。

子ども。


全員が、

逃げずに

見ている。



「……チッ」


舌打ち。



「で、

 どうする気だ」


「俺を

 捕まえるか?」


「殺すか?」



レイは、

静かに答えた。


「どちらもしません」



「あなたに――」


「仕事を続けてもらいます」



ざわめき。



「金貸しは、

 街に必要です」


「ただし――」



「条件付きで」



バルカンが、

笑った。


「条件?」


「俺に

 条件を

 出すか?」



「出します」



レイは、

紙を一枚出した。


「利率」


「回収方法」


「期限」


「すべて、

 書面で」



「裏帳簿は

 廃止」


「脅迫は禁止」


「違反した場合――」



一拍。


「今日の裁定を、

 もう一度

 街で読み上げます」



静まり返る。



「名前付きで」



バルカンの笑みが、

消えた。



「……お前」


「本気で

 俺を

 縛る気か」



「ええ」


「あなたを

 縛るのは――」



「法でも、

 刃でもありません」



「視線です」



沈黙。


長い。



やがて、

バルカンは

息を吐いた。


「……面倒くせぇ男だ」



「だが――」


「嫌いじゃねぇ」



その言葉に、

誰も笑わない。



「いいだろう」


バルカンは、

紙を取った。


「やってやる」



「……ただし」


目を細める。


「俺が

 大人しくしてる間に」


「誰かが

 裏でやらかしたら」



レイは、

即答した。


「同じ裁定です」



「名前付きで」



バルカンは、

短く笑った。


「……覚えとく」



男は、

踵を返す。


扉の前で、

一度だけ振り返った。


「なぁ、先生」



「この街、

 嫌いか?」



レイは、

少し考えてから答えた。


「……いいえ」



「壊れ方が、

 正直です」



バルカンは、

何も言わずに出て行った。



扉が閉まる。



その瞬間。


誰かが、

小さく拍手した。


一人。

また一人。



レイは、

手を上げた。


「拍手は、

 いりません」



「これから――」


「もっと、

 厄介になります」



誰も、

否定しなかった。


誤字脱字はお許しください。

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