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『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


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24/36

第二十四話 ――書かれない名前

24話です。

女の指先が、

震えたまま止まった。


誰も、

その先を見ようとしない。



「……言え」


誰かが、

低く言った。


促しでもあり、

脅しでもある声。



女は、

喉を鳴らし、

絞り出すように言った。


「……バルカン」



空気が、

一瞬で冷えた。



誰も、

驚かない。


それが、

すべてを物語っていた。



「……金貸しの?」


「東区の?」


「“裏の帳簿”を

 握ってるって噂の?」


小さな声が、

連鎖する。



レイは、

何も言わず、

紙を見た。


そこには、

今までの名前が

並んでいる。


だが――

バルカンの名は、

一度も書かれていない。



「……なぜだ」


誰かが、

ようやく口にした。



女が、

泣きながら答える。


「書いた人が、

 次の日に消えたから……」



息を呑む音。



「家が燃えた」


「子どもが、

 攫われた」


「借金が、

 一晩で三倍になった」


女の声は、

震えながらも止まらない。



「だから……

 みんな、

 最初から

 名前を書かない」



沈黙。


それは、

恐怖の共有だった。



レイは、

静かにペンを置いた。


「……確認します」


声は、

低い。


「刃物沙汰」


「借金」


「脅迫」


「誘拐」


「すべて――

 同一人物の影」



誰も否定しない。



レイは、

ゆっくり顔を上げた。


「では、

 これは“裁かれない怒り”ではない」



「裁かれない“力”です」



その言葉に、

空気が震えた。



「ここに集まった皆さん」


レイは、

一人ひとりを見る。


「あなた方は、

 刃物を抜いた人間を

 責めました」


「ですが――」



「刃物を

 抜かせた人間を

 見ていませんでした」



誰かが、

声を荒げた。


「じゃあどうするんだよ!」


「裁判所は、

 あいつを

 捕まえねぇ!」



レイは、

即答する。


「知っています」



「ではどうする!」


「殺すのか!」


「追い出すのか!」



レイは、

一拍置いた。


「……いいえ」



「“書きます”」



場が、

ざわつく。


「書く?」


「どこに?」



レイは、

紙を掲げた。


「ここに」



「この場で」



誰かが、

悲鳴に近い声を上げた。


「正気か!

 殺されるぞ!」



レイは、

静かに言った。


「だから、

 条件三を出しました」



「責任は、

 名前付きで出す」



「今日、

 ここに集まった人間は」


「全員、

 目撃者になります」



「一人を

 潰せば済む話では

 なくなる」



空気が、

一段階、

重くなる。



「……書け」


誰かが、

掠れた声で言った。


「書いてくれ……」



レイは、

ペンを取った。


ゆっくり、

迷いなく。


紙の一番上に、

はっきりと書く。


バルカン



その瞬間。


誰かが、

息を詰めた。


誰かが、

椅子を蹴った。


誰かが、

祈り始めた。



レイは、

書き終えた紙を

高く掲げる。


「――これが、

 今日の裁定です」



「この名前は、

 もう

 消せません」



外で、

風が鳴る。


まるで、

街そのものが

息を吸ったようだった。



そのとき。


入口の扉が、

ゆっくりと開いた。



影が、

差し込む。



「……面白いこと、

 してるじゃねぇか」


低い声。


聞き覚えが、

ありすぎる。



レイは、

振り返った。


そこに立っていたのは――


書かれた本人だった。


誤字脱字はお許しください。

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