第二十一話 ――条件
21話です。
翌朝。
市場の集会所は、
人で埋まっていた。
多すぎる。
それだけで、
状況は悪い。
◇
レイは、
入口で立ち止まった。
一歩も、
中に入らない。
それを見て、
ざわめきが走る。
「……入らねぇのか?」
誰かが言った。
レイは、
静かに答える。
「ここからです」
◇
「話を聞きに来たんだろ!」
「戻るって言ったじゃねぇか!」
声が重なる。
焦りが、
混じっている。
レイは、
一つだけ手を上げた。
それだけで、
少し静かになる。
◇
「戻るとは言いました」
「ただし――
条件付きです」
◇
最前列にいた男が、
苛立ちを隠さず言う。
「条件だぁ?」
「今さら偉そうに……」
「偉そうに、
聞こえますか」
レイは、
淡々と返す。
「では、
やめましょう」
◇
空気が、
凍る。
「待て!」
別の声が、
割って入った。
「……聞こう」
◇
レイは、
一枚の紙を取り出した。
「条件は三つ」
◇
「一つ」
紙を、
指で押さえる。
「私の裁定に、
その場で逆らわない」
「……は?」
ざわめき。
「理由は後で聞いていい」
「だが、
現場では従う」
◇
「二つ」
「私が介入するのは、
公の場のみ」
「裏の揉め事、
私怨、
報復」
「それらは、
一切扱いません」
◇
誰かが、
叫んだ。
「それじゃ意味ねぇ!」
「裏で殴り合ってんだぞ!」
レイは、
即答した。
「だからです」
◇
「裏を扱い始めた瞬間、
私は“裁く側”ではなく
“使われる側”になります」
◇
「三つ」
場が、
静まり返る。
「責任は、
必ず名前付きで出す」
「匿名、
噂、
“みんなが言ってる”――
それは却下」
◇
沈黙。
重い。
◇
代表格の男が、
低く言った。
「……それで?」
「それで、
俺たちは
何を得る?」
レイは、
視線を向けた。
「今より悪くならない」
◇
笑い声が、
一部で起きる。
だが、
すぐ消えた。
◇
「良くなるとは、
言わないんだな」
「ええ」
「正直だな」
「私は、
救世主ではありません」
レイは、
一歩踏み出す。
「崩壊を遅らせるだけです」
◇
沈黙のあと、
一人が言った。
「……それでも、
いい」
別の声。
「今よりマシなら」
「殴り合いが減るなら」
「子どもが巻き込まれねぇなら」
◇
レイは、
一つだけ確認した。
「全員ですか」
返事は、
遅れた。
だが、
最後は揃った。
「……全員だ」
◇
その瞬間。
レイは、
初めて中に入った。
◇
「では、
契約成立です」
「最初の案件に入ります」
◇
ざわめき。
「もう決まってんのか?」
「ええ」
「昨日の刃物沙汰」
「名前を出してください」
◇
沈黙。
長い。
誰も、
口を開かない。
◇
レイは、
一度だけ言った。
「――これが、
あなた方の
“最初の試験”です」
◇
空気が、
重く沈む。
誰かが、
ようやく言った。
「……俺だ」
名が、
落ちた。
◇
レイは、
その名を
紙に書いた。
ゆっくり。
逃がさない文字で。
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誤字脱字はお許しください。




