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『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


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2/13

第二話 ――この家の、黒い部分

第二話です。

レイに与えられた部屋は、屋敷の北側だった。


陽当たりは悪い。

だが、外からの視線が少なく、

廊下の往来も少ない。


(客間じゃない。

 “使われなくなった部屋”だな)


古い机。

簡素な寝台。

壁には、かつて何かが掛けられていた痕跡。


――肖像画か、地図か。


どちらにせよ、

外された理由がある。


荷物と呼べるものは、

孤児院から持ってきた小さな鞄だけだ。


中身は、紙切れ数枚と、

書き慣れた鉛筆。


(この家には、

 すでに“書かれていない歴史”が多すぎる)


扉をノックする音。


「失礼します」


入ってきたのは、

セバスチャンだった。


「夕食前に、屋敷をご案内いたします」


「ありがとうございます」


廊下を歩きながら、

レイは注意深く周囲を観察する。


使用人は少ない。

だが、全員、妙に動きが揃っている。


(削られたな。

 ……事故か、整理か)


「人が減っていますね」


レイがさらりと言うと、

セバスチャンは一拍置いた。


「不要な者は、去りました」


答えはそれだけ。


(……“不要”か)


厨房。

倉庫。

帳簿室。


どれも最低限は保たれているが、

余裕がない。


「財政は、相当厳しい」


「ええ」


否定はしない。


「ですが、まだ“詰んで”はいません」


セバスチャンは、

一瞬だけレイを見た。


(……この人、

 俺を試している)


「どういう意味です?」


「詰む前に、

 “賭け”に出たという意味です」


レイは、理解した。


(俺が、その賭け札)


「――こちらです」


通されたのは、

地下へ降りる階段だった。


湿り気。

冷たい空気。


「ここは?」


「帳簿に載らない場所です」


地下室には、

金庫と、古い棚、

そして――見慣れない道具があった。


刃物。

封蝋。

紐。


(……なるほど)


「質問しても?」


「答えられる範囲なら」


「この家は、

 表で生き延びてきたわけではない」


セバスチャンは、

静かに肯定した。


「男爵家は、小さい。

 ゆえに、綺麗事だけでは残れませんでした」


「“黒い仕事”ですね」


レイが言うと、

セバスチャンは笑った。


「そう呼ぶ人もいます」


「では、

 あなたが担っていた」


「はい」


「今後は?」


老人は、

まっすぐにレイを見た。


「あなたが引き継ぐことになるでしょう」


その言葉は、

確認ではなく、決定だった。


(……この人、

 俺を“後継者”として見ている)


「やれますか」


試すような声。


レイは即答した。


「やれます」


理由は言わない。


やれるからだ。


地上へ戻ると、

夕食の準備が整っていた。


長い食卓。

だが、座るのは四人だけ。


男爵。

夫人。

クララ。

そして、レイ。


クララは、

椅子に座るだけで落ち着かない。


指先がテーブルをなぞり、

視線が泳ぐ。


ドレスは昼間と違い、

柔らかい色合いで、

身体の線をよりはっきりと浮かび上がらせていた。


(……無防備すぎる)


レイは、

あえて視線を外す。


見るだけで、

余計な情報を与えてしまう。


「レイさん」


奥様が声をかける。


「食事は、お口に合うかしら」


「ありがたい限りです、奥様」


その呼び方に、

夫人の唇がわずかに緩む。


「……その呼び方、嫌いじゃないわ」


低く、含みのある声。


(この人、

 距離感を試してきている)


男爵は、

食事をしながら、ぽつりと言った。


「婚約は、早めに整える」


「承知しました」


「形式はどうあれ、

 “血”が必要だ」


クララの手が、

一瞬だけ止まる。


夫人は、

何も言わない。


(……ここだな)


レイは理解する。


この家にとって、

結婚は感情ではない。


存続のための手段だ。


食後。


クララが、

廊下で声をかけてきた。


「レイさん」


「どうしました、お嬢様」


「……その呼び方、

 ほんとにそれでいいの?」


「変えた方が?」


「ううん……」


少し迷ってから、

彼女は小さく笑った。


「なんだか、

 ちゃんと“お嬢様”になったみたいで」


胸元が、

呼吸に合わせて上下する。


無意識。


(……攫われたら、

 一番危ないタイプだ)


「お気をつけください」


「え?」


「この家には、

 優しくない人間も多い」


それは、忠告でもあり、

予告でもあった。


クララは、

きょとんとしたあと、

首を傾げる。


「レイさんって、

 変な人」


「よく言われます」


そう答えると、

彼女はくすっと笑った。


その背中を見送りながら、

レイは思う。


(……この家、

 中から壊すのは簡単だ)


だが――


立て直してから、

 喰った方が、ずっと価値がある。


セバスチャンの足音が、

背後から近づく。


「今夜、

 街で一つ、片付けがあります」


「どんな?」


「裏で金を回している顔役が一人」


レイは、

静かに頷いた。


「案内してください」


こうして、

孤児は正式に――

男爵家の“裏”へ足を踏み入れた。



この作品は習作です。

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