表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/28

第十九話 ――名前が出る

19話です。

朝。


市場の空気が、

昨日より重い。


理由は、

誰にもはっきり言えない。


だが、

誰もが感じている。



魚屋の前。


「おい、

 この値段、聞いてねぇぞ」


「昨日、

 掲示出しただろ」


「見てねぇ!」


言い合いは、

すぐ収まった。


だが、

視線だけが険しい。



香辛料屋の女主人が、

ため息をついた。


「……前なら、

 間に誰か入ったのにね」


隣の商人が、

何気なく聞く。


「誰だっけ」


女主人は、

一瞬だけ口を閉ざす。


そして、

ぽつりと漏らした。


「……あの、

 男爵家の若いの」



その言葉は、

風に乗って広がる。


「男爵家?」


「そう。

 クララ様のところ」


「……ああ」


誰かが、

思い出したように言う。


「あの、

 目つき悪いけど

 頭の回る男だろ」



別の通り。


「名前、

 なんて言ったっけ」


「……レイ」


その瞬間、

空気がわずかに動いた。



教会。


シスターが、

配膳の手を止める。


「……今日は、

 苦情が多いですね」


若い修道女が、

不安そうに言う。


「皆さん、

 落ち着きがなくて」


「人は、

 静かでいられなくなると

 理由を探すのです」


シスターは、

言葉を選びながら続けた。


「そして――

 理由が見つかると、

 今度は

 “戻ってほしい存在”を

 探し始めます」



昼。


裏通り。


数人の男が、

立ち話をしていた。


「……最近さ」


「ああ」


「誰も、

 “調整”してくれねぇ」


「前は、

 揉める前に

 止まってたよな」


「……あいつだ」


「レイか」


名前が、

はっきり出た。



沈黙。


それは、

否定ではなかった。



男の一人が、

吐き捨てるように言う。


「気に食わねぇ奴だったけどな」


「同感」


「でもよ」


誰かが、

言葉を継ぐ。


「いないと困る」



男爵邸。


男爵は、

報告書を見ていた。


奥様が、

不安そうに尋ねる。


「……街で、

 レイの名前が?」


「ああ」


男爵は、

目を伏せた。


「予想より、

 早い」


「呼び戻す?」


「……いや」


彼は、

ゆっくり首を振る。


「まだだ」


「今は、

 “不在の価値”を

 理解させる段階だ」



その夜。


クララが、

レイのもとへ来る。


「……今日、

 市場で名前を聞いたわ」


「ええ」


「悪く言われてた?」


「半分は」


クララは、

胸に手を当てる。


「怖くない?」


レイは、

少し考えた。


「怖いですよ」


「……それでも?」


「必要とされるのと、

 好かれるのは、

 別ですから」



帳簿。


新しい項目が

追加された。


・口論未然防止:0

・摩擦発生:23

・名前言及回数:7


クララは、

その数字を見つめる。


「……名前が出ると、

 次は?」


「次は――」


レイは、

静かに答えた。


「責任を押しつけるか、

 戻ってこいと言うか」



窓の外。


夜の街。


遠くで、

誰かが怒鳴る声。


すぐ止む。


だが、

止んだ理由は

“納得”ではない。


“疲れ”だ。



その夜、

街のあちこちで

同じ言葉が囁かれた。


「……レイがいりゃな」


その言葉は、

懐かしさではない。


不便への恐怖から

生まれていた。


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ