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『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


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17/25

第十七話 ――正しさという暴力

17話です。

翌朝。


街は、

昨日よりも静かだった。


だがそれは、

落ち着いたからではない。


判断を終えた静けさだった。



「……あの人、

 やっぱり危ないんじゃない?」


市場で、

そんな声が囁かれる。


「法で白でも、

 心は黒かもしれない」


「子どもに

 余計なこと考えさせるなんて」


誰も怒鳴らない。

誰も指をささない。


ただ、

距離を取る。



ミナが、

立ち止まった。


昨日まで挨拶してくれた大人が、

視線を逸らす。


「……」


何も言われない。


それが、

一番つらい。



隠れ家。


「始まりましたね」


レイは、

報告を聞いて言った。


「“悪い人”ではなく、

 “関わりたくない人”に

 分類されました」


「それって……」


クララが、

言葉を探す。


「追放の前段階です」


レイは、

淡々と答えた。



教会では、

新しい言葉が使われ始めていた。


「裁くつもりはありません」


司祭は、

穏やかに言う。


「ただ、

 “正しい道”を

 選んでほしいだけです」


その“正しさ”は、

一つしか用意されていない。



「問いを持つことは、

 信仰を揺るがします」


「疑問は、

 共同体を分断します」


「分断は、

 争いを生みます」


――だから、

避けましょう。


誰も“禁止”とは言わない。


それでも、

選択肢は一つだ。



「……先生」


ミナが、

震える声で言った。


「今日、

 友だちに言われた」


「何と?」


「“先生のとこに行くなら、

 うちには来るな”って」


言葉は、

刃よりも深く刺さる。



レイは、

一瞬だけ目を閉じた。


(……ここか)


彼が最も恐れていたのは、

法でも、

教会でもない。


善意の顔をした排除だ。



「ミナ」


レイは、

静かに言った。


「選びなさい」


「……え?」


「ここに来るか。

 来ないか」


クララが、

息を呑む。


「私は、

 どちらも否定しません」


ミナの唇が、

震える。


「……逃げてもいい?」


「ええ」


「先生のせいにしても?」


「それも」



ミナは、

しばらく黙っていた。


やがて、

小さく言う。


「……それでも、

 行きたい」


レイは、

深く息を吸った。


「来なさい」



その夜。


街の掲示板に、

新しい紙が貼られた。


注意


近頃、

共同体の調和を乱す

思想的影響が確認されています。


子どもたちの健全な成長のため、

各家庭において

適切な指導をお願いします。


署名はない。


それが、

一番卑怯だった。



男爵邸。


奥様が、

震える声で言った。


「……このままだと、

 家も……」


男爵は、

重く頷く。


「わかっている」


「なら、

 あの子を――」


言葉が、

途切れる。


「……切れと?」


男爵は、

自分に問いかけるように

呟いた。



同じ夜。


レイは、

帳簿を閉じた。


「次の段階です」


「……何をするの?」


クララが聞く。


「善悪では勝てません」


「じゃあ――」


「“必要”であることを、

 示します」


レイは、

地図の一点を指す。


「街が、

 “困る瞬間”を作る」


「混乱させるの?」


「いいえ」


レイは、

静かに首を振った。


「救わないだけです」


クララは、

はっと息を呑む。


「それって……」


「誰かが

 “あの男がいないと困る”

 と言い出すまで」



外で、

風が鳴る。


それは、

嵐の前触れだった。


正しさは、

人を殴る。


だが――

生活が壊れ始めたとき、

 人は初めて正しさを疑う。


誤字脱字はお許しください。

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