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『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


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16/23

第十六話 ――法という名の刃

16話です。

告示は、

一枚の紙で十分だった。


王都法務院の名において、

男爵領バルツにおける

一連の社会不安および誘拐未遂事件について、

予備審問を開始する。


誰もが読める場所に、

貼り出された。


教会の壁。

市場の柱。

裁判所の門。


「……来たわね」


クララが言う。


「ええ」


レイは紙を見て、

淡々と答えた。


「祈りでは止まらないと判断した」



予備審問。


それは裁判ではない。

だが、

裁判へ進むかどうかを決める場だ。


そして、

ここで“印象”が決まる。


「正しい人間か」

「危険な存在か」


法は、

まず顔を見る。



法廷は、

想像より小さかった。


木の椅子。

低い天井。

窓は高く、

外が見えない。


「……閉じ込められてる感じね」


クララが呟く。


「意図的です」


レイは言う。


「外の声を、

 聞かせないために」



裁判官は、

中年の男だった。


「静粛に」


その声は、

感情が薄い。


「本日は、

 被告人レイ・――」


一瞬、

言葉が詰まる。


「……姓は?」


「ありません」


「……名前のみ?」


「はい」


小さなざわめき。


それだけで、

“不安定な存在”に見える。



「まず確認します」


裁判官は言った。


「あなたは、

 誘拐事件に関与しましたか」


「関与しました」


即答。


「ただし、

 防止の側としてです」


「それは、

 あなたの主張ですね」


「はい」



次に呼ばれたのは、

教会側の証人。


「この男は、

 子どもたちに

 不要な疑念を与えました」


「疑念とは?」


「秩序への疑念です」


裁判官が、

ゆっくり頷く。



次。


親の一人が呼ばれる。


ミナの父親だった。


「……正直に言います」


声が震えている。


「最初は、

 怖かった」


「何が?」


「子どもが、

 考えるようになるのが」


法廷が静まる。


「でも」


父親は、

拳を握る。


「殴らなくなった」


ざわ、と

空気が揺れる。


「……怒鳴らなくなった」


「それが、

 あの先生のせいかは

 わからない」


「でも――

 変わったのは事実です」



裁判官は、

一瞬だけ眉を動かした。


だが、

記録官は淡々と書く。


「主観的証言」


文字にすれば、

価値は下がる。



次。


街の商人。


「……売上は、

 安定しました」


「それは、

 被告人の行為によって?」


「はい」


「暴力は?」


「ありません」


「脅迫は?」


「……契約だけです」


裁判官は、

筆を止める。



「被告人」


裁判官が言った。


「あなたは、

 自分が“正しい”と

 思っていますか」


レイは、

少し考えた。


「いいえ」


法廷が、

ざわつく。


「では、

 なぜ続けた?」


「正しいかどうかを、

 決める立場に

 なかったからです」


「意味がわかりません」


「空腹は、

 議論を待ってくれません」


沈黙。



「私が止めたのは、

 “最悪”です」


「“最善”ではありません」


「その違いを、

 理解できる大人が

 この街には

 少なかった」



裁判官は、

しばらく黙った。


「……本日の審問は、

 ここまでとします」


木槌が鳴る。


「結論は、

 後日」



法廷を出たあと。


クララが、

小さく息を吐く。


「……どうだった?」


「半分です」


「半分?」


「法は、

 私を切りたがっています」


「じゃあ――」


「でも」


レイは続ける。


「切るには、

 理由が足りない」



その夜。


司祭は、

苛立った様子で

手紙を書いていた。


法だけでは足りない。

次は――

“道徳”だ。


封を閉じる。


それは、

最も厄介な刃だった。


誤字脱字はお許しください。

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