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『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


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15/18

第十五話 ――親という壁

15話です。

朝。


スラムの路地は、

いつもより静かだった。


子どもたちが、

出てこない。


「救済の時間です」


教会の下役が、

各家を回っていた。


「最近、

 お子さんが夜眠れないと

 聞きました」


「……ええ」


「考えすぎているのでは?」


その言葉は、

責めではない。


心配の仮面をかぶった、

誘導だった。



ミナの家。


父親は、

黙って話を聞いていた。


「子どもは、

 難しいことを考えなくていい」


「親が、

 代わりに背負えばいい」


教会の男は、

穏やかに微笑む。


「それが、

 “正しい愛”です」


父親の拳が、

小さく握られる。


「……あの先生は」


「悪い人ではありません」


すぐ否定する。


「ただ、

 早すぎるのです」


「子どもに、

 大人の問いは重い」


その言葉は、

父親の胸に

深く刺さった。



昼。


子どもたちは、

教会に集められた。


歌。


静かな旋律。


 口を閉じて

 目を閉じて

 おとなしくしていよう


ミナは、

歌いながら

胸が苦しくなった。


(……先生なら、

 この歌を

 どう言うだろう)



隠れ家。


「来ませんね」


クララが言う。


「ええ」


レイは、

すでに想定していた。


「今日は、

 “来させない日”です」


「じゃあ、

 何もしない?」


「します」


レイは、

立ち上がった。


「親に会いに行きます」



最初の家。


父親は、

戸口で立ち止まった。


「……先生」


「短く話します」


レイは言う。


「怒りません。

 説得もしません」


「じゃあ、

 何をしに?」


「謝りに来ました」


父親は、

目を見開く。


「考えすぎる種を

 蒔いたのは事実です」


「夜、眠れなかった子も

 いるでしょう」


沈黙。


「それは、

 私の責任です」



父親は、

しばらく黙っていた。


「……それで?」


「続けるかどうかは、

 あなたが決めてください」


「止めろと言われたら?」


「従います」


即答だった。



次の家。

次の家。


同じことを言った。


謝罪。

選択。

強制なし。



夕方。


噂が、

形を変えて広がる。


「先生、

 怒らなかったらしい」


「止めろって言っても

 逆らわないって」


「……思ってたのと違う」


教会側が、

困惑する。



夜。


司祭は、

報告を聞いて眉をひそめた。


「……逃げ道を

 与えているな」


「親に、

 選ばせています」


「それは――」


司祭は、

言葉を切った。


「信仰と、

 同じ立場に

 立たれている」



その夜遅く。


ミナが、

そっと隠れ家に来た。


「……先生」


「どうした?」


「今日、

 父ちゃんが言った」


ミナは、

少し震えながら続ける。


「“行きたいなら、

 行っていい”って」


レイは、

何も言わなかった。


「……怖いけど」


ミナは、

顔を上げる。


「先生のとこ、

 行きたい」


レイは、

ゆっくりうなずいた。


「来なさい」



遠くで、

教会の鐘が鳴る。


今度は、

短く、

不規則に。


司祭は、

独り言のように呟いた。


「……信仰では

 縛れないか」


視線が、

別の書類に移る。


そこには、

こう書かれていた。


「裁判所」


次の舞台は、

街の外へ広がる。


誤字脱字はお許しください。

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