第十四話 ――祈りという名の圧力
14話です。
翌朝。
教会の扉は、
いつもより早く開いた。
鐘が鳴る。
長く、
重い音。
それは呼びかけではなく、
確認だった。
――ここに来ているか。
――同じ方向を向いているか。
◇
司祭は、
いつもより穏やかな声で語った。
「昨夜、
街は試されました」
人々は、
静かに耳を傾ける。
「秩序と混乱。
信仰と疑問。
安心と、不安」
間。
「神は、
“静かな心”を愛されます」
その言葉に、
人々はうなずく。
慣れ親しんだ、
安全な言葉。
◇
「問いを持つことは、
悪ではありません」
一瞬、
空気が緩む。
「しかし」
司祭は続ける。
「問いを“与える”ことは、
責任を伴います」
「子どもに、
その重さを背負わせることが、
本当に慈悲でしょうか?」
ざわ、と
不安が広がる。
◇
その日の昼。
街のあちこちで、
同じ言葉が交わされた。
「子どもが、
夜に眠れなくなったらしい」
「考えすぎて、
泣いたって」
「……あの先生のせい?」
責める声ではない。
心配する声だ。
それが、
いちばん厄介だった。
◇
隠れ家。
「効いてますね」
レイは、
報告を聞きながら言った。
「正面から否定しない。
“心配”という形で
締めてきている」
「悪役にしないの?」
クララが問う。
「今は、
“不安の種”の段階です」
レイは紙に線を引く。
「芽が出たら、
そのときに
悪役にする」
◇
「じゃあ、
どうするの?」
「同じ土俵に立ちます」
レイは言った。
「心配に対して、
安心を出す」
「説教で?」
「いいえ。
結果で」
◇
夕方。
レイは、
あえて人目につく場所へ出た。
路地裏。
子どもたちが、
不安そうに集まっている。
「……先生」
ミナが言う。
「教会の人が、
“考えすぎると
苦しくなる”って」
「そうだね」
レイは、
否定しなかった。
「考えると、
楽じゃなくなる」
子どもたちが、
息を呑む。
「でも」
レイは続ける。
「考えないまま苦しくなるのと、
どっちがいい?」
沈黙。
「……わかんない」
正直な答え。
「それでいい」
レイは微笑む。
「今日は、
考えなくていい」
「え?」
「今日は、
一緒に片付けをしよう」
◇
倉庫。
散らかった道具。
壊れた棚。
「ここを整理すると、
転ばなくなる」
「こっちは、
道が広くなる」
レイは、
淡々と指示を出す。
子どもたちは、
黙々と動いた。
◇
日が沈む頃。
倉庫は、
見違えるほど整っていた。
「……なんか」
リオが言う。
「ちょっと、
気持ちいいな」
「それが、
考えた結果だよ」
レイは言った。
「問いは、
世界を壊すためじゃない」
「少しだけ、
暮らしを楽にするため」
◇
その様子を、
遠くから見ている者がいた。
教会の下役。
彼は、
小さく舌打ちする。
「……祈りより、
効いてるじゃないか」
◇
夜。
司祭のもとへ、
報告が届く。
「子どもたち、
落ち着いています」
「混乱は?」
「むしろ……
静かです」
司祭は、
しばらく黙った。
「……そう」
そして、
低く言う。
「では次は、
親です」
◇
同じ夜。
クララが、
レイに言った。
「明日は、
厳しくなるわね」
「ええ」
「怖くない?」
レイは、
一瞬考えた。
「怖いですよ」
「じゃあ、
どうして?」
「怖がる役目は、
もうたくさんの人が
引き受けている」
レイは、
静かに答えた。
「私は、
進む役をやるだけです」
外で、
再び鐘が鳴った。
今度は、
短く、
鋭く。
それは、
次の段階に入った合図だった。
誤字脱字はお許しください。




