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『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


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14/17

第十四話 ――祈りという名の圧力

14話です。

翌朝。


教会の扉は、

いつもより早く開いた。


鐘が鳴る。

長く、

重い音。


それは呼びかけではなく、

確認だった。


――ここに来ているか。

――同じ方向を向いているか。



司祭は、

いつもより穏やかな声で語った。


「昨夜、

 街は試されました」


人々は、

静かに耳を傾ける。


「秩序と混乱。

 信仰と疑問。

 安心と、不安」


間。


「神は、

 “静かな心”を愛されます」


その言葉に、

人々はうなずく。


慣れ親しんだ、

安全な言葉。



「問いを持つことは、

 悪ではありません」


一瞬、

空気が緩む。


「しかし」


司祭は続ける。


「問いを“与える”ことは、

 責任を伴います」


「子どもに、

 その重さを背負わせることが、

 本当に慈悲でしょうか?」


ざわ、と

不安が広がる。



その日の昼。


街のあちこちで、

同じ言葉が交わされた。


「子どもが、

 夜に眠れなくなったらしい」


「考えすぎて、

 泣いたって」


「……あの先生のせい?」


責める声ではない。


心配する声だ。


それが、

いちばん厄介だった。



隠れ家。


「効いてますね」


レイは、

報告を聞きながら言った。


「正面から否定しない。

 “心配”という形で

 締めてきている」


「悪役にしないの?」


クララが問う。


「今は、

 “不安の種”の段階です」


レイは紙に線を引く。


「芽が出たら、

 そのときに

 悪役にする」



「じゃあ、

 どうするの?」


「同じ土俵に立ちます」


レイは言った。


「心配に対して、

 安心を出す」


「説教で?」


「いいえ。

 結果で」



夕方。


レイは、

あえて人目につく場所へ出た。


路地裏。


子どもたちが、

不安そうに集まっている。


「……先生」


ミナが言う。


「教会の人が、

 “考えすぎると

 苦しくなる”って」


「そうだね」


レイは、

否定しなかった。


「考えると、

 楽じゃなくなる」


子どもたちが、

息を呑む。


「でも」


レイは続ける。


「考えないまま苦しくなるのと、

 どっちがいい?」


沈黙。


「……わかんない」


正直な答え。


「それでいい」


レイは微笑む。


「今日は、

 考えなくていい」


「え?」


「今日は、

 一緒に片付けをしよう」



倉庫。


散らかった道具。

壊れた棚。


「ここを整理すると、

 転ばなくなる」


「こっちは、

 道が広くなる」


レイは、

淡々と指示を出す。


子どもたちは、

黙々と動いた。



日が沈む頃。


倉庫は、

見違えるほど整っていた。


「……なんか」


リオが言う。


「ちょっと、

 気持ちいいな」


「それが、

 考えた結果だよ」


レイは言った。


「問いは、

 世界を壊すためじゃない」


「少しだけ、

 暮らしを楽にするため」



その様子を、

遠くから見ている者がいた。


教会の下役。


彼は、

小さく舌打ちする。


「……祈りより、

 効いてるじゃないか」



夜。


司祭のもとへ、

報告が届く。


「子どもたち、

 落ち着いています」


「混乱は?」


「むしろ……

 静かです」


司祭は、

しばらく黙った。


「……そう」


そして、

低く言う。


「では次は、

 親です」



同じ夜。


クララが、

レイに言った。


「明日は、

 厳しくなるわね」


「ええ」


「怖くない?」


レイは、

一瞬考えた。


「怖いですよ」


「じゃあ、

 どうして?」


「怖がる役目は、

 もうたくさんの人が

 引き受けている」


レイは、

静かに答えた。


「私は、

 進む役をやるだけです」


外で、

再び鐘が鳴った。


今度は、

短く、

鋭く。


それは、

次の段階に入った合図だった。


誤字脱字はお許しください。

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