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『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


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13/15

第十三話 ――公開審問という劇場

13話です。

広場には、

人が集まりすぎていた。


普段は市場として使われる石畳の広場。

今日は露店もなく、

代わりに簡易の演壇が設けられている。


「……多すぎない?」


クララが小声で言う。


「監察官の狙いです」


レイは答えた。


「裁きではなく、空気を作る」



人々は噂話をする。


「例の先生が裁かれるらしい」

「教会に逆らったとか」

「男爵家が裏で何かやってるってよ」


真実は、

誰も興味がない。


彼らが欲しいのは、

納得できる悪役だ。



演壇の中央に、

監察官が立つ。


簡素な法衣。

飾り気のない姿。


「本日は」


声はよく通った。


「最近、この街で起きた一連の混乱について、

 公開の場で確認を行います」


“裁判”とは言わない。


あくまで、

確認。


責任を負わないための、

言葉選び。



最初に呼ばれたのは、

教会側だった。


白い法衣の司祭が、

一歩前に出る。


「教会としては――」


司祭は、

一瞬だけレイを見た。


「この男が、

 子どもたちに不要な知識を与え、

 秩序を乱したと考えています」


ざわ、と

群衆が動く。


「不要な知識、とは?」


監察官が問う。


「問いを教えました」


司祭は言い切った。


「“なぜ”という言葉を」



人々が、

頷く。


――確かに、それは危険だ。

――考え始めると、黙らなくなる。


空気が、

教会寄りに傾く。



「次に」


監察官は言う。


「街の代表」


呼ばれたのは、

元・裏社会の顔役――

今は“更生した商人”として扱われている男だ。


男は、

汗をかいていた。


レイは、

その様子を見て理解する。


(……ここだ)



「あなたは、

 この教師と関係がありますね?」


「……はい」


声が震える。


「彼は、

 あなたを脅しましたか?」


沈黙。


男の視線が、

人混みを彷徨う。


「正直に答えなさい」


監察官の声が、

少しだけ低くなる。



男は――

折れた。


「……脅されました」


一瞬、

空気が止まる。


クララの指が、

きゅっと握られる。



「彼は言ったんです」


男は続ける。


「言うことを聞かなければ、

 すべてを暴くと……」


群衆が、

どよめく。


教会側が、

小さく頷いた。



レイは、

静かに前へ出た。


「一つ、

 訂正を」


「黙りなさい」


司祭が遮る。


「いえ」


監察官が手を上げた。


「話させましょう」



「私は彼を脅していません」


レイの声は、

驚くほど落ち着いていた。


「私は、

 選択肢を示しました」


「……違いは?」


監察官が問う。


「暴力を続けるか、

 契約に移るか」


「それは、脅しでは?」


「いいえ」


レイは、

男を見る。


「彼が恐れたのは、

 私ではなく――

 自分の過去です」



男の顔が、

歪む。


「……そうだ」


ぽつりと、

本音が漏れた。


「脅されたんじゃない。

 思い出さされたんだ」


群衆が、

ざわつく。



「沈黙」


監察官が、

声を張る。


「――次」


視線が、

男爵に向いた。


「男爵閣下。

 あなたは、この教師を

 どう扱っていますか?」


男爵は、

一瞬だけ目を閉じた。


そして――

覚悟を決めた顔で言う。


「我が家の客人であり、

 娘の伴侶候補です」



完全な沈黙。


それは、

裏切りでもあり、

賭けでもあった。


教会側の顔色が、

変わる。


「つまり」


監察官が確認する。


「あなたは、

 この男を――

 守る立場にある?」


「はい」


男爵は、

はっきり言った。



監察官は、

ゆっくりと息を吐く。


「……理解しました」


群衆に向き直る。


「本日の確認は、

 ここまでです」


ざわめきが、

広がる。


「裁きは?」


「結論は?」



監察官は、

静かに言った。


「裁きは、

 まだです」


「この街が、

 どちらを選ぶのか」


「それを、

 もう少し見たい」


そう言って、

演壇を降りた。



広場を離れる途中。


クララが、

低い声で言う。


「……最初に裏切ったのは、

 街だったわね」


「ええ」


レイは答える。


「そして、

 最初に立ったのは――

 閣下でした」


「明日は?」


「次は、

 教会が動きます」


夜風が、

冷たく吹いた。


これは、

裁判ではない。


街を賭けた、選別だ。


誤字脱字はお許しください。

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