第十三話 ――公開審問という劇場
13話です。
広場には、
人が集まりすぎていた。
普段は市場として使われる石畳の広場。
今日は露店もなく、
代わりに簡易の演壇が設けられている。
「……多すぎない?」
クララが小声で言う。
「監察官の狙いです」
レイは答えた。
「裁きではなく、空気を作る」
◇
人々は噂話をする。
「例の先生が裁かれるらしい」
「教会に逆らったとか」
「男爵家が裏で何かやってるってよ」
真実は、
誰も興味がない。
彼らが欲しいのは、
納得できる悪役だ。
◇
演壇の中央に、
監察官が立つ。
簡素な法衣。
飾り気のない姿。
「本日は」
声はよく通った。
「最近、この街で起きた一連の混乱について、
公開の場で確認を行います」
“裁判”とは言わない。
あくまで、
確認。
責任を負わないための、
言葉選び。
◇
最初に呼ばれたのは、
教会側だった。
白い法衣の司祭が、
一歩前に出る。
「教会としては――」
司祭は、
一瞬だけレイを見た。
「この男が、
子どもたちに不要な知識を与え、
秩序を乱したと考えています」
ざわ、と
群衆が動く。
「不要な知識、とは?」
監察官が問う。
「問いを教えました」
司祭は言い切った。
「“なぜ”という言葉を」
◇
人々が、
頷く。
――確かに、それは危険だ。
――考え始めると、黙らなくなる。
空気が、
教会寄りに傾く。
◇
「次に」
監察官は言う。
「街の代表」
呼ばれたのは、
元・裏社会の顔役――
今は“更生した商人”として扱われている男だ。
男は、
汗をかいていた。
レイは、
その様子を見て理解する。
(……ここだ)
◇
「あなたは、
この教師と関係がありますね?」
「……はい」
声が震える。
「彼は、
あなたを脅しましたか?」
沈黙。
男の視線が、
人混みを彷徨う。
「正直に答えなさい」
監察官の声が、
少しだけ低くなる。
◇
男は――
折れた。
「……脅されました」
一瞬、
空気が止まる。
クララの指が、
きゅっと握られる。
◇
「彼は言ったんです」
男は続ける。
「言うことを聞かなければ、
すべてを暴くと……」
群衆が、
どよめく。
教会側が、
小さく頷いた。
◇
レイは、
静かに前へ出た。
「一つ、
訂正を」
「黙りなさい」
司祭が遮る。
「いえ」
監察官が手を上げた。
「話させましょう」
◇
「私は彼を脅していません」
レイの声は、
驚くほど落ち着いていた。
「私は、
選択肢を示しました」
「……違いは?」
監察官が問う。
「暴力を続けるか、
契約に移るか」
「それは、脅しでは?」
「いいえ」
レイは、
男を見る。
「彼が恐れたのは、
私ではなく――
自分の過去です」
◇
男の顔が、
歪む。
「……そうだ」
ぽつりと、
本音が漏れた。
「脅されたんじゃない。
思い出さされたんだ」
群衆が、
ざわつく。
◇
「沈黙」
監察官が、
声を張る。
「――次」
視線が、
男爵に向いた。
「男爵閣下。
あなたは、この教師を
どう扱っていますか?」
男爵は、
一瞬だけ目を閉じた。
そして――
覚悟を決めた顔で言う。
「我が家の客人であり、
娘の伴侶候補です」
◇
完全な沈黙。
それは、
裏切りでもあり、
賭けでもあった。
教会側の顔色が、
変わる。
「つまり」
監察官が確認する。
「あなたは、
この男を――
守る立場にある?」
「はい」
男爵は、
はっきり言った。
◇
監察官は、
ゆっくりと息を吐く。
「……理解しました」
群衆に向き直る。
「本日の確認は、
ここまでです」
ざわめきが、
広がる。
「裁きは?」
「結論は?」
◇
監察官は、
静かに言った。
「裁きは、
まだです」
「この街が、
どちらを選ぶのか」
「それを、
もう少し見たい」
そう言って、
演壇を降りた。
◇
広場を離れる途中。
クララが、
低い声で言う。
「……最初に裏切ったのは、
街だったわね」
「ええ」
レイは答える。
「そして、
最初に立ったのは――
閣下でした」
「明日は?」
「次は、
教会が動きます」
夜風が、
冷たく吹いた。
これは、
裁判ではない。
街を賭けた、選別だ。
誤字脱字はお許しください。




