表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/15

第十二話 ――監察官という名の秤

12話です。

監察官が来る。


その事実だけで、

街の空気は一段、重くなった。


王都から派遣される監察官は、

正義の執行者ではない。


秤だ。


どちらに重みがあるかを測り、

重いほうに「正義」という札を貼る存在。



「名前は?」


「ハルバート・ヴァイン。

 王都法務院所属。四十代。独身」


レイは即座に答える。


「仕事は堅実。

 だが――

 “波風を立てない”ことで評価されている男です」


「つまり?」


クララが聞く。


「勝ち馬に乗る」


短く、端的だった。



「教会は?」


「全面的に、

 こちらを“問題児”扱いです」


「男爵家は?」


「沈黙。

 最も危険な態度ですね」


クララは、

わずかに唇を噛んだ。


「……閣下は」


「父親ですから」


レイは言った。


「家を守る立場であり、

 同時に――

 あなたを守りたい」


「両立しない」


「ええ。

 だから揺れています」



監察官到着の日。


街の入り口に、

簡素な馬車が止まった。


装飾もなく、

護衛も最小限。


「……地味ね」


クララが呟く。


「彼の美学です」


レイは遠くから観察していた。


「“私は公平だ”と

 見せるための演出」



応接室。


「初めまして」


監察官は、

柔らかな声で言った。


「男爵閣下。

 ご令嬢。

 そして――」


視線が、

レイに止まる。


「噂の、

 教師殿」


「お会いできて光栄です」


レイは、

深く頭を下げた。


完璧な角度。

完璧な間。


監察官は、

その所作を見逃さなかった。



「率直に伺いましょう」


監察官は、

書類を置く。


「今回の誘拐事件。

 そして――

 街の裏社会の再編」


男爵の肩が、

わずかに強張る。


「これらに、

 あなたは関与していますか?」


沈黙。


レイは、

一拍置いてから答えた。


「関与しています」


即答だった。


クララが、

一瞬だけ目を見開く。



「ただし」


レイは続ける。


「それは

 “犯罪の指揮者”としてではなく、

 “被害の収束者”としてです」


「ほう?」


「誘拐は未然に防ぎ、

 犯人は生存したまま確保」


「裏社会の再編は?」


「暴力ではなく、

 契約と債務によって」


机の上に、

帳簿が置かれる。


「死者は?」


「ゼロです」


監察官は、

ゆっくり息を吐いた。


「……珍しい」



「では、なぜ」


監察官は、

教会側の書類を一枚、持ち上げる。


「“街の秩序を乱す危険人物”

 として、あなたの名が挙がっている?」


レイは、

静かに答えた。


「秩序とは、

 誰にとっての秩序でしょうか」


その瞬間。


部屋の空気が、

張りつめた。


男爵が、

息を止める。



「教会の秩序は、

 沈黙と祈りです」


「街の秩序は、

 飢えないこと」


「貴族の秩序は、

 家を守ること」


レイは、

一つずつ区切って言った。


「それらが

 同時に成立しない場合――」


視線を、

監察官に向ける。


「どれを

 “正義”と呼ぶかは、

 あなたが決める」



監察官は、

しばらく黙っていた。


やがて、

小さく笑う。


「……随分と、

 重たい問いを投げますね」


「逃げるよりは、

 誠実です」


「誠実すぎるのも、

 罪になりますよ」


「承知しています」



監察官は、

立ち上がった。


「結論は、

 まだ出しません」


「――当然です」


「明日、

 公開の場で話を聞きます」


その言葉に、

全員が息を呑んだ。


「街の人間。

 教会。

 貴族」


「すべてを集めて――

 裁きましょう」



夜。


屋敷の廊下。


クララが、

小さく言った。


「……逃げなかったのね」


「逃げ道は、

 常に用意しています」


「でも」


「今回は、

 使いません」


クララは、

ゆっくり息を吸う。


「明日、

 私たち――」


「ええ」


レイは、

淡々と答えた。


「舞台に立ちます」


街が、

彼らを見る。


正義か。

異端か。


それを決めるのは、

明日だ。


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ