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『俺様、御家乗っ取り記』(仮)  作者: くろめがね


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11/13

第十一話 ――裁かれる前に、裁く準備

11話です。

鐘の音は、

祈りのためだけに鳴るわけではない。


不安を集め、

噂を整列させ、

「同じ方向」を向かせるためにも使われる。


教会の鐘が鳴るとき、

街は一つの感情を持つ。



「――令嬢誘拐事件について、

 本日はお話ししましょう」


司祭の声は、

穏やかで、

よく通った。


「この街で、

 “よそ者”が増えています」


人々が、

無意識にうなずく。


「彼らは知恵を持ち、

 言葉を持ち、

 ときに善意を装います」


間。


「しかし――

 秩序を壊すのも、

 また彼らです」


誰かが、

息を呑む音。


「男爵家に入り込んだ、

 “教師”を名乗る男」


その瞬間、

空気が固まった。



隠れ家。


「始まりましたね」


レイは、

淡々と報告を聞く。


「“誘拐”と

 “よそ者”を結びつける、

 王道のやり方です」


「……怒ってないの?」


クララが問う。


「怒る段階は、

 もう過ぎました」


レイは、

机に並べた紙を整理する。


帳簿。

証言。

数字。


「今は、

 “反論できる形”に

 整える段階です」



「裁判になる?」


「なります」


即答。


「ただし、

 普通の裁判ではありません」


「どういうこと?」


「見せしめです」


クララは、

小さく息を吐いた。


「……私が、

 囮ね」


「はい」


レイは、

一瞬も迷わなかった。


「ですが、

 あなたは“被害者”です」


「便利な言葉ね」


「ええ。

 使えるものは、

 使います」



その頃、

男爵邸。


「……息子を呼び戻せ」


男爵は、

低い声で言った。


「このままでは、

 家が潰れる」


奥様は、

震える指で手紙を握っている。


「でも……

 あの子が戻ったら」


「裁かれる」


男爵は、

それを否定しなかった。


「だからこそだ」


沈黙。


「――守るために、

 切る覚悟もいる」


その言葉は、

自分に向けたものだった。



街の裏。


元・顔役は、

レイの部下に言った。


「帳簿は、

 三つに分けろ」


「三つ?」


「一つは真実。

 一つは“教会用”。

 一つは――

 貴族用だ」


「……偽造ですか?」


「編集だ」


男は、

にやりと笑う。


「都合のいい真実は、

 誰にとっても

 飲み込みやすい」



夜。


クララは、

灯りの下で

静かに髪を梳いていた。


「……ねえ」


「何でしょう」


「もし、

 私が裁判で――」


言葉が、

止まる。


レイは、

背を向けたまま言った。


「“もし”を考える時間は、

 勝った後に取りましょう」


「……冷たい」


「冷静です」


クララは、

小さく笑った。


「あなた、

 ほんとに嫌な人」


「光栄です」



そのとき。


扉が、

乱暴に叩かれる。


「急報だ!」


若い書記が、

息を切らして飛び込んでくる。


「王都から――

 監察官が来ます!」


一瞬。


部屋の空気が、

張りつめた。


「……予定より早いですね」


レイは、

ゆっくり立ち上がる。


「本気で、

 潰しに来た」


クララが、

強く息を吸う。


「間に合う?」


「――間に合わせます」


レイは、

静かに言った。


「裁かれる前に、

 裁く準備は整っています」



鐘が、

再び鳴った。


今度は、

街全体に向けて。

誤字脱字はお許しください。

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