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ワープ!×ワープ!  作者: 七賀ごふん


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6/7

#6



その後も、享楽の夜は続いた。


だけど俺はある日初めて、誰も連れて帰らなかった。


なにか、自分でも気付かない心境の変化でもあったのだろうか。


良い人間が見つからなかったのだと嘘をついた。

初めて宴が開けなかったことで、当然のことながら冥王は憤り、臣下達の前で罰を下した。


無期限の投獄。それが俺に与えられた罰で、今できる唯一の仕事。世界から遮断された地下で、ただ蹲る。光の届かない、深海のような冷たさに身を縮めた。



……この檻に入れられてからもう一週間は経つ。



近頃は外界から冥王の振る舞いに苦言が呈されていた。それも理由の一つとして伝えたのだが、逆効果だった。

生かされてる身で出過ぎたことをしたのは確かだ。けど“彼”に何も言えないままここに閉じ込められてしまったこと、それだけが心残りと言える。


やっと目にした光だったのに、もう二度と見ることができないなんて。


「アホな主君を持つと苦労するよな」


甲高い靴音と共に、目の前に暖色のランプが差し出された。


「……またそういうことを言って。誰かに聞かれたら大変ですよ」

「良いだろ、事実なんだから」


鍵をあける小気味いい音が響く。岩壁に背を預けたまま、小さな扉が開くのを見ていた。


「俺はこんなところで終わるつもりはないよ。君もだろ?」


扉をくぐり、現れたのはアケミだった。


「宴は貪婪を象徴する寓意ってな」


鍵をちらつかせ、こちらの手をとる。彼は上着を脱ぐと、それを俺の肩に乗せた。

「鍵を奪うのは骨が折れたよ。結局冥王様を酒で酔い潰して奪ったんだけど」

「……助けに来てくれたんですか?」

「それ以外何があんの」

頬を膨らまし、アケミは外へ出るよう指示した。

「このことが知られたら、貴方もただじゃ済まない。案内するので、今すぐ地上に逃げてください」

「君は?」

「俺は……帰る場所もないから」

足早に階段を上りながら、声を落とす。しばらく暗がりの中で過ごしていたせいか、アケミが持つランプが眩しくて辛い。


前を走っていたアケミが、息を深く吸って振り返る。


「でも、ここは君の居場所じゃないんだろ」


なにか確信してるような声音だった。驚いて目を見開くと、軽く額を指で弾かれる。

「人間じゃないことは最初から分かってるけど、亡者って感じでもないし。だから妖精さんかな、って思ってた」

「何ですソレ」

可笑しくて吹き出す。さびれた地下通路を抜けながら、足音を殺した。

「妖精ではないですね。亡霊でもないし、悪魔でもないです」

「じゃあ、やっぱり天使か」

ふと、足を止めた。


「何で分かったんですか?」

「俺がそう呼んでも、一回も否定しなかったから」


アケミは振り返らずに告げた。

その背中は怖いほど頼り甲斐があって、大きく見える。


天使が地下にいるわけないのに、アケミは最初から見抜いていたかのようだ。密かに感じ入り、口端を上げる。


「ははっ、一発で言い当てちゃった俺ってすごくない?」

「はいはい、すごいですね」

「雑な対応だな!」


城の外周に続く外階段に出て、上へと登っていく。地上へ行く時しか許されない場所で、普段は見回りがいるはずだ。だが誰も見当たらない辺り、アケミが手回ししてくれたのかもしれない。


「君と初めて会った時……天使みたいだと思ったんだ」


目を奪われるほど綺麗だった。手を差し出す仕草も、宥める口調も、全て。

彼はそう言ってくれるけど、買い被り過ぎだと思う。


「俺は貴方と同じで、かつて冥王に攫われた。……と、思っていました。けど実際は、安寧の生け贄として天から引き渡された存在だったんです」


最上階に辿り着き、息するのも辛い熱風を受ける。

アケミの手を引き、重たいゲートを開けた。


「仲間から売られた、何の価値もない天使なんです。だから人を攫うこともできるし、悪魔にもなれた」


俺の心は醜く、膿んでいる。

追放されて当然のような天使だった。そう思って彼の背中を押したけど、逆に腕を掴まれた。

「それが何だ? 生憎俺は人間だから、天使の基準なんか知ったこっちゃない」

アケミは扉に手をかけ、もう片方の手でこちらを引っ張る。


「天使も奴隷もやめて、人間になればいいさ。そんで、俺とのんびり暮らす。ここにいるよりずっと良いだろう?」

「でも……そんなこと許されない」

「誰が許さないんだよ。むしろそれを言うなら、俺は君を服従させてる冥王も、君をここに追放した奴らも許せないよ。……だって今までずっと我慢してたんだろ。それならもう、幸せになる権利がある」


地上へ続くゲート。その奥から溢れる光がひと際強くなった時、体が前に傾いた。

しまった、と思った時には彼と一緒に向こう側へ落ちていた。



眩しい。何度も経験してるはずなのに、この時はとても怖く感じた。足がつかない浮遊感に怯えていたけど、優しく抱きとめられて瞼を開ける。


「よしよし、こっち」

「あ……」


アケミの方が先に地面に降り立っていて、俺は受け止めてもらった。

夜だが、見覚えがある街並み。偶然にも彼を攫った街に飛ばされたみたいだ。不幸中の幸いだろうか。




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