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真のリーダーとは

初契約後の星夜は、何かコツを掴み掛けていた。家族には土地の所有者がいて、反対者がいて、表向きの決断者がいて、裏で掌握しているキーマンがいる。

この仕事は、家族の誰か1人だけを説得出来れば良いわけではない。そこが難しいところではあるが、そこにやり甲斐も感じる。

これまでを生きて来た親世代と

今を生きる子供世代。

そこにこれからを生きる孫世代が存在する。

この全てをまとめあげなければならないのだ。中々至難の技だと思う。

しかし、『家族の同意』がしっかり得られた上での契約は、後のキャンセルを防ぐ。

目先の結果やとりあえずの数字の報告だけの為に、次世代の人間達に話を通さず無理矢理契約まで漕ぎ着ける。この業界は他社も含めてそんな人間が沢山いる。

『自分目線ではなく、他人目線で』

星夜が掴み掛けているコツというのは、正にこの言葉の中にあるのだ。

2件目と3件目の契約は、初契約から4ヶ月後の9月に同時にやって来た。2件目の契約についてだが、お客様は同じ人間であり、人間には好き嫌いがある。何を言われるかではなく、

『誰に言われるか』

で心を動かされる人もいる。

星夜はこの事を学んだ。

そして、3件目の契約では、他社競合になり、

雲行きが怪しくなった。

神島副支店長の『説得力』で他社との金額の差を跳ね返した。この契約はもつれにもつれたが、他社競合した時の鉄則は、『レスポンス』だと言う事も学んだ。

お客様はとても大きな決断をするので当たり前の話しだが、何社かの話を聞くと、どの選択をするべきか迷うものだ。迷った時に判断材料になる情報が詳細に欲しくなる。自分達の決めた決断は正しかったのだと安心もしたいものだ。きっと寝れない夜もあっただろうと思う。

となれば、お客様の知りたい情報や要望が通ったのかの報告等、逐一マメに教えて欲しいはず。この反応スピードが『レスポンス』となる。

ちゃんと自分達の話や想いを聞いてくれている。直ぐに解決に導いてくれる。これは正しい決断だと具体的な説明で背中を押してくれる。お客様は最終的には会社で選ぶが、このレスポンスが早く誠実な営業マンに出来れば今後も任せたいと考えるのは当然の事だと思う。

この契約で、星夜はそう言う大切な事を腹に落とし込む事が出来た。


入社して11ヶ月後の事、久藤支店長の後任としてこの支店に来た【武市支店長】から携帯に連絡が入った。

無我夢中で走り続けて来た星夜は、他の人の事を見ている余裕が無く、武市支店長ともあまり会話した覚えがなかった。指定された喫茶店に先に到着し、席に座っていると武市支店長が来た。

「いやあ、忙しいところ悪いね。」

ニコッと笑う顔は優しそうでとても愛嬌がある。それと、結構お話好きなようだ。恰幅が良く、ドッシリと構えて座っている。貫禄がある男性だ。年齢的にも60代前半で営業会社の支店長っぽくない。

暫く雑談した後、武市支店長が切り出した。「単刀直入に言うが、明日から営業課長になって貰いたい。」

自分に出来るだろうか?

その時星夜は、頭の中で想像していた。

すると、武市支店長が続ける。

「出来るかどうかを考える必要はない。勿論、経験がどうとかそういう思考も必要はないよ。立場が人を成長させると言う事は良くある事。実はもう決定事項だから宜しく頼むよ!」

星夜は、「分かりました。支店に貢献できるよう頑張ります。」

と答えた。決定事項ならば考えても仕方がないだろう。星夜はシンプルにそう思う事にした。武市支店長と別れた後、星名課長に報告の連絡を入れた。初契約から今日迄お世話になったし、沢山の事を星名課長から学んだ。

正直、あまり前向きな言葉はかけて貰えなかった。星名課長からすれば、星夜はまだ半人前で時期尚早と判断したのだろう。もうちょっと側において色々教えたいとも思ったのかもしれない。支店内でも様々な噂が飛び交っていたようだ。あいつが課長?そう思っていた先輩達がほとんどだったようだ。

しかし星夜は、この時のこの空気感があまり良いものだと思えなかった。そして、その違和感はそのまま組織の数字に反映していく事となる。


星夜のチームは躍進した。結果を出す度に、周囲のやっかみはどんどん妬みに変わっていった。顧客のリストを盗まれた事は何度もあったし、契約前のお客様のところに謎の封書が届き他社競合で大苦戦した案件もいくつかある。

星夜は実際に誰がその様な手を加えたかもわかっていた。自分は最年少の営業課長で、入社時に先輩だった人達の成績もごぼう抜きしていったのだ。こんな事もあるとある程度は想像もしていたし、あえて我慢をしていた。

結果として人の足を引っ張ってしまう事は誰にでもあるだろう。但し、人を陥れる、人の不幸を見て影で笑う様な組織では、当たり前だが結果が出ない。

久藤支店長がいた頃の様な『常勝軍団』には成り得ない。緊張の糸が切れたかの様な雰囲気で、”ほとんどの人”が成果が上がらない現状を自分以外の何かのせい、誰かのせいにする様になっていた。

時の流れというのは、不毛だった世界に光を当ててくれる事もあれば、輝いていたものを一瞬にして色の無い世界に変えてしまう事もある。星夜は、この会社のこの支店に縁あって入社させてもらった。恩も含めた想い入れがある。

何とかもう一度、他の支店が羨望の眼差しを送る様な全国トップの組織に。。。とまでは行かなくとも、結果を出し続ける事で支店内の皆が潤い、活気が戻る様に尽力したいと考えていた。

星夜は、自分が契約を取り続ける姿を見せつつも、仲間達にも歓喜の瞬間が訪れる様、常にチームの皆の事を考えていた。パワハラも沢山した。星夜は本来平和主義者で、怒る事に使うエネルギーこそ無駄な事はないと言う性格だ。

だが、中途で入社してくる社員は40代以上の男性が多く、覚悟がある様で無い。年下の上司に厳しい事を言われ辛い思いをする事は勿論想像出来る。しかし、冷静に考えればそれなりの年齢を重ねて転職し、新たな仕事に就くと言う事はそう言う事だ。

星夜は、優しい言葉をかけてくれるだけの存在では無く、何とか1本契約を獲って貰う事で、

先ずはスタートラインにたって欲しいと願い、そこまで一緒に連れて行く事が出来る仲間でいたいと考えていた。どう思われるかは相手が決める事。契約を獲る事が出来れば、他所のチームに異動されても構わないとも思っていた。

真のリーダーとは、自分だけでは無く、仲間にも結果を出させる事が出来る人。この時の星夜はまだそう考えていた。

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